わたしたちが孤児だった頃(サンプル)
〜When we were orphans〜

 六十年という年月を考えれば、金髪青瞳の麗しい見目も、精緻に作り込まれた四肢も、ゴシックスタイルの服装も、驚くほどに原型を留めていた。しかしよく見ると服は至るところがすり切れており、随分と薄汚れていた。右足は半分取れかけているし、球体関節の調子も全体的によくなさそうだ。施された化粧もところどころが剥がれてぼろぼろ、髪の毛もざんばらで目にかかっていて、不気味な有様だった。

 これらの損傷が目の前の少女人形に情緒的な面で酷い悪影響を与えているのは明らかで。その痛みゆえに憂鬱な毒を撒き散らしているのだとしたら、何とも居たたまれない話だった。

 そんな気持ちを押し隠し、わたしは軽快な声を人形に向ける。

「こんにちは、こんなところで何をしているの、お嬢さん」

「なんだって良いでしょ? わたしはいま、とても機嫌が悪いの。おまけに貴女の声と来たら、関節にきりきりととても苦いのよ。わたし、今すぐにでも気違いになってしまいそうだわ!」

 彼女は怒りの表情を作ろうとしたけれど、それは冥いうすら笑いとなる。それがまたもの悲しくて、わたしは小さく首を振る。

「あのね、わたしは貴女を傷つけたいわけでは」

「うるさい黙れ! どっか行け!」

 それは高慢な命令口調とともに、濃い紫色の靄を放ってきた。だがその毒々しさは、まともに吸い込めば危険であるとの明示でもある。魔界では瘴気を始めとしてこの手の精神さえ蝕む毒質が散布されることも多く、ゆえに防毒障壁の術は心得ていた。加えて魔法の森で長い年月を過ごして得た毒物耐性もある。最初のほうこそ少しだけ目眩がしたけれど、わたしはそれが放つ毒の中でも平然と立っていることができた。

 それが毒属性を得てから、こんなことは初めてだったのだろう。怒りの表情を浮かべているから本当にそうかは分からないけれど、かたかたと震えるその所作から強い動揺を表しているのだと推測できた。

「こいつおかしいわ。わたしの毒を食らったのに、気違いのようにぴんぴんと立っていられるなんて」それは傍らをふわふわと飛ぶ人形にひそひそと声をかける。「訳が分からないわ。ああ頭が痛い、関節が痛い、こういうことがあるとわたしは何もかもが痛くなるのよ」

 まるで僻みに身を包まれた老人のように、それは不満と憂鬱を撒き散らす。するとそれの精神状態に呼応するよう、鈴蘭が紫色の煙をしゅうしゅうと放ち始めた。やはりこの鈴蘭畑はそれの意識と存在によって変質しているようだ。

「ああ憎らしいわ。わたしを作ってこんなところにうち捨てた人間が心底憎い。ねえスーさん、世の中にはきっとわたしのような人形だらけなのよ」

 それの言い分は概ね間違っていない。けど誰も同調してはくれないだろう。それのように思考する人形が、他には一つも存在しないからだ。

「そうね、酷いことだわ」わたしはそれの考えに同調し、分かりやすい猫なで声を出した。「人形は平気で使い捨てにされる。飽きたら捨てられる。可哀想な存在よね」

 散々に人の形を弄び、使い捨ててきたわたしに言えたことではないけれど。

「そうよ。だから人形はいずれ立ち上がり、人間に反旗を翻して独立しなければならないの。人形王国を打ち立てて、勝手に使われたりしないと言ってやるのよ」

 それは右足が取れかけていることに気付かず、地面に足をつけてバランスを崩し、転んでしまう。ぐずぐずともがきながら顔をあげると、そこには満面の笑顔が浮かんでいた。本当は怒りと屈辱を浮かべたかったはずなのに。そして当然ながらそれは、感情と表情の差異に全く気付いていないのだ。

 それはにやにや顔を徐々に収めると、億劫そうにスーさんと呼ばれた人形のほうをぐるんと向いた。何やら意志の通うところがあったのか、それとも単なる一人芝居なのかは分からないが、それに心変わりがあったのは確かなようで、先ほどよりも少しだけ棘の抜けた口調で話しかけてきた。

「ねえ、そこの貴女? スーさんは貴女が人形を治すことができると言っているけど本当なの?」 

 そう訊ねられ、わたしは初めて小さな人形に視線を向ける。

「確かにそうだけど、どうしてそんなこと知ってるの? あなたとは完全に初対面のはずだけど」

「スーさんは意外と物知りなのよ。どこかで仕入れてきたに違いないわ」

 小さな人形は大きな人形の影に隠れ、こくこくと頷く。

「そんなことはどうでも良いの。要はできるかできないかってことなのよ」

 大きな人形は痛みのせいか、苛々させられることがとても苦手なようだ。ここで渋っていても悪感情を覚えさせるだけだと気付き、わたしは含むところなく肯定してみせた。

「ええ、確かにそちらさんの言う通りよ。わたしは人形を治すことができるし、実を言うと今日ここに来たのは、ぼろぼろの人形がいるという噂を聞いたからなの」そこまで言ってから、わたしは咄嗟に思いつきの設定を追加する。「わたしはそういう人形を治す仕事をしてあちこち回っているのよ」

 魔理沙経由で人形の修理を依頼されることはあるからあながち間違いではない。正しいわけでもないが。

「そう、それなら早く治して頂戴な」

「いきなりは無理よ。今日は様子見で来ただけだから、道具は持ち合わせていないの。でも、そうね」

 わたしはそれの右足に視線を向ける。本格的な整備をしないと痛みは取れないはずだが、関節を入れ直すだけなら道具なしでも簡単にできる。

「ちょっと触らせてもらうけど良いわよね」

 するとそれは躊躇うように後じさろうとして、今度は背中から転んでしまう。何か表情を作ろうとしたけれど、二度目では繕っても無駄だと思ったのか、ぴたりと動きを止めてしまった。わたしは警戒を怠らぬようゆっくり近づくと、外れかけた右膝の関節に手を添える。右足をつぶさに観察すると、関節の他にも足指が何本か取れており、腐りかけた臭いを放っていることも分かった。ここまでになりながらよくぞ動いていられるものだ。あるいはここまでになってしまった憤りがそれを動かしているのだろうか。

 これらの細かい傷を修復してやることは今のところできないと判断し、わたしは膝の隙間に入り込んだ腐葉土を取り除くとハンカチで拭ってやる。

 その途端、それの体から紫色の靄が噴きだし、悲痛な声をもらした。わたしは彼女を無理矢理抑えつけると、右足膝の関節を再接続する。土を払ったときとは桁外れの痛みだったのか、心に痛い叫び声をあげると、まるで気絶したかのようにぐったりと倒れ込んでしまった。

「まるで人間のように痛みを感じるのね、厄介だわ」

 痛い痛いとぼやいていたのは自己の損壊に対する心理的な症状かと思っていたのだが、そうではないらしい。するとこの恨みがましい人形を改めて説得する必要がある。例え永琳でも人形に麻酔などかけられないだろうし、これは一仕事になりそうだ。

「というより、ほとんど作り直しじゃない」現物は指の一本まで細かく動くよう作り込まれているが、ほとんど機能していない。主要関節にも動きの鈍い箇所があるし、表面には細かいひび割れが無数にある。「材料を集めないといけないし、どれだけの工数がかかることやら」

 考えただけでも面倒臭くて目眩がしそうだ。一層のことこちらで完全に新しい体を作ってしまい、何らかの方法で魂や精神を移植したほうが早い気さえする。そこまで算段を立ててから、わたしは大きく首を振る。

 あくまでもこの体でなければいけないのだ。人間が原則として他の存在に魂や精神を移せないよう、もしそれに宿るものがあるならば最大限尊重されなければいけないのだ。他の人形に移植できてもそれは単に憑くだけに過ぎない。

 やるしかないのだと決意し、わたしは眼前の人形を見やる。スーさんは起き上がることのできないそれを心配してか、先程から一心不乱に見守り続けていた。

「お前もこの子のことが心配なのね」主人の反応がないから仕方なく、みたいな単純反射かもしれないけれど、それでもわたしには嬉しかった。「わたしね、この子のためにできることは全てするつもりよ」

 わたしが声をかけるとスーさんは小さく頷いたような気がした。それから小さな手でそれの頬を優しく叩く。それはぱちりと目を見開き、バネのように飛び上がって両足で着地した。それからわたしの姿を見つけ、鋭い気配を向けてくる。

「何をするのよっ! 痛かったじゃない!」それは抗議の声をあげながら軽く地団駄し、初めてその感触がおかしいことに気付いたらしい。首を傾げ、右足でとんとんと地面にノックする。「あれ、右足がかくんとならないわ。どういうことなの?」

 それは右足が正常に戻った原因がわたしにあると考えられるくらいには頭が良いのだろう。おずおずとわたしのことを見上げてきた。

「まだ痛むけど、大丈夫になってる。苛々も少しだけ収まった気がする。凄いわ、貴女ったらどんな魔法を使ったの?」

「さっきも言ったでしょ? わたしは人形を治すお医者さんなのよ」わたしは膝をつき、視線の高さを合わせると、それのぼさぼさになった髪の毛に手を添える。警戒心が解けたのか、それは紫の靄を噴き出して来なかった。「こうして一箇所ずつ治していけば、やがては痛みも苛々もない体になれるわ。あなたはそうなりたいのかしら」

「ええ、もちろんよ。痛いのも苛々するのも、辛い気持ちになるのも本当は大嫌い! どっかへ飛んでいってしまえとどれだけ願ったことか」

「わたしはね、その願いを叶えられるわ。でもね、一つだけ約束して欲しいことがあるの」

 わたしが厳しい顔つきを見せると、それはおずおずと訊ねてきた。

「もしかしてさっきのように痛かったりするの?」

「そうよ。痛みに耐えられるし、途中で投げ出したりしないと約束するならば、わたしはあなたのことを治してみせる。それができないなら、わたしはもうここに来ない」

 餌をつけた釣り針を垂らして引っかけようとしているのは分かっていたけれど、こうでもしないとそれは修理されることを承知しないと考えたのだ。実際、それはうんうん唸ったり、スーさんと視線を合わせて何事かを相談したりと忙しなく、弱気を剥き出しにしていた。

「どうにかして和らげる方法はないのかしら」

「さっきのように気絶してくれれば、目が覚めるまでの治療には痛みを覚えないと思うけど。他にしてやれることはないわ」

「つまり、最低でもあと一度は痛いってこと?」

 実際には二度や三度できかないほど苦しむだろう。

「でもその痛ささえ超えれば、それからは痛まないってことよね」

 それが妖怪化してからどれだけの月日が経ったかは分からないけれど、六十年を超えないことは確かだ。発言から鑑みて刹那的でないこともきちんと考えられるようだから、相応以上の賢さと言えた。

「そうね。あとは拙い所を自分で繕う技術を身につけることも必要だわ。わたしが大鉈を振るっても、そのまま放っておいたら元の木阿弥になる」

 人形に人形作りを教えるなんて妙な話だけど、あるいは自律とはそこから始まるものなのかもしれない。

「その度にわたしが治すのも互いにとって億劫でしょ?」

 それはわたしの顔をちらと見、渋々といった感じで頷く。

「そうよね、わたしは人形の王国を作るんだから臣下を守る必要がある」

 何だか物騒なことを言っているような気がしたけれど、動機付けの一助となったようだから現時点では受け流しておいた。のちのちには矯正する必要があるけれど。

「分かったわ、わたし治療を受けることにする。そして人形を治す方法を学ぶわ」

 わたしは偉いわと言いたげに微笑み、もう一度だけ人形の髪の毛を撫でる。それはしょんぼりとした表情を浮かべたけれど、多分満更でもないのだと解釈しておいた。

「それでは明日から早速取りかかりましょう。えっと……」

 ここまでなし崩し的に話を進めてきてなんだが、わたしはそれの名前を一度も聞いていないことに気付いた。

「ここまでまとまってから訊ねるのもなんだけど、あなたのお名前は?」

「名前? 名前ってなあに?」

「えっと、あなたがそちらの人形につけているようなものよ」

 わたしがスーさんを指差すと、それはかくんと首を傾げた。

「それは、それでしょ?」

 まるで会話が成り立っていなかった。もしかしてそれは鏡となる存在を持てぬまま孤独で在り続けてきたため、個や私の概念が極めて希薄なのかもしれない。どうやったらそれに個の概念を自覚させることができるだろうか。少し考えた末にわたしは手鏡を取り出し、それの前にかざした。

「これが何か分かる?」

「んー、随分とぼろっちくて汚い人形ね。ここにはわたしの他にもこんなに可哀想な人形がいたのかしら」

「これは鏡といって、自分の姿を映す品物なの。だからそれはあなたなのよ」

 わたしの説明に、それは少なからぬショックを受けたらしい。わたしの言葉を否定しようと、まずは左右に首を動かした。それから鏡の中に手を伸ばそうとして固いものに当たり、するといよいよ動揺したのか縋るようにわたしを見つめてきた。

「こんなのがわたしなの? こんなぼろぼろなのが? ああ、でもそうかもしれないわ。だから色々なところが痛くて、辛いんだわ」

 その認識はそれのことを少しだけ慰めてくれたようだった。もしかすると彼女の怒りは痛みや辛さの源を認識できないところに端を発していたのかもしれない。

「見えないけれど、確かにここにいるのがわたしなのね。そして向かい側にいるのがあなた。なるほど、そういうことなんだ」

 人間に限らず知性あるものは無意識のうちにそれを学んでいく。言葉のないうちから他者を知り、それを鏡のようにして自己を築き上げる。花だけが咲き、水ほどの反射物とさえ向き合う必要のなかったそれにとって、自己を自覚することは難しかったのだろう。

 そこでふと疑問に思う。彼女にとってスーさんは向き合う対象とならなかったのだろうか。鏡ではなくともそれは他者のはずなのに。

「そうか、だから名前って必要なのね。わたしとあなたを区別するために」

 当たり前のことでもそれにとっては新鮮だったようで、どことなく眩い視線を向けてくる。わたしは同意してやってから、胸の下でうんと腕を組む。

「ええ、その通りよ。しかし困ったわね、名前がないというのは色々と面倒だし。もし良ければわたしが名前を付けてあげるけれど」

 実を言えば彼女の姿と能力を目にしたときから、こういう名前だったら良いなというのが一つだけあったのだ。

「そうね、わたしは名前を知らないのだから、知っているあなたにお願いするべきだと思うわ。だから好きなようにちゃちゃっとつけてしまって」

「では、そうね」わたしは考え込む振りをして、妙案でも思いついたかのように顔つきを明るくしてみせた。「メディスン・メランコリーではどうかしら?」

 メランコリイの妙薬――かつて魔理沙から押しつけられた小説の題名なのだけれど、憂鬱な毒を振りまくそれにぴったりではないだろうか。

「そうね、その名前は何だかわたしに合ってる気がするわ。わたしの中では、わたしは公爵夫人って気がしたのだけれど。はくしょんはくしょんと相手を苦しめるから」

「公爵夫人?」いきなり奇妙な名前が出てきて、わたしは思わず鸚鵡返しに訊ねていた。「公爵夫人は相手にくしゃみをさせるのかしら?」

「そうよ。胡椒を振りまいて、はくしょんさせるの。でもメディスン・メランコリーのほうが良いわ。さっきも言ったけどわたしに合ってる気がするもの」

「そう、お気に召してくれたなら幸いだわ」

「それで貴女のお名前は? もしないのならばお返しにつけてあげても良いのだけど」

「残念ね、わたしにはアリスという名前があるのよ」

 今更ながらに名乗りをあげると、メディスンは瞳をぱちぱちと動かした。

「貴女はアリスって名前なの? 奇遇だわ、わたしもそういう名前だったら良いなって思ってたの。だってホワイト・ラビットに始まりドーマウス、グリフォン、マーチ・ヘア、マッド・ハッターまで現れたんだもの。そろそろアリスが来なければおかしいと思っていたのよ!」

 どうやらそれは魔理沙だけでなく色々なものに危害を加えた後らしかった。マッド・ハッターは魔理沙だろうし、マーチ・ヘアとホワイト・ラビットは永遠亭に住む兎たちのことに違いない。ドーマウスとグリフォンが誰かは分からないけれど、屍が転がっているようには見えなかったから、這々の体で逃げ出したのだろう。

 これ以上の被害が出たら、幻想郷のハートの女王が斬首を宣言しにやってくるかもしれない。いよいよもって早急に修繕してやらなければならなくなった。

「では早速だけど名前で呼ばせてもらうわね、メディスン」その名前がまだしっくり来ていないのか、それ――もとい、メディスンは聞き流しかけて辛うじて呼ばれたことに気付き、ぴんと背筋を伸ばした。「今日は準備があるから明日、早い時間に迎えに来るわ。あなたくらいになったらここで即席治療なんてできないから、うちにきてもらう」

 メディスンはスーさんのほうをちらと窺い、それから辺りをきょろきょろと見回し始めた。何かを探しているのは分かるけれど、それは本人にもよく分かっていないらしい。結局のところメディスンは何も見つけられず、そして返事も先程の了解が嘘のように心許ないものとなった。

「えっとね、アリスが明日ここに来るまで考えて良いかしら?」メディスンはどこか憂鬱の雰囲気を伴っていたが、不意にびくりと肩を震わせ、わたしを上目遣いに見上げてきた。「その――アリスって呼んで良いんだよね?」

「構わないわ。だってわたしはアリスなんだもの」

「うん、そうね。そしてわたしは多分、メディスンなのね。メディスンになるんだわ」

 何かを納得させるように頷くと、メディスンはきっぱりと言った。

「やっぱりさっきのなし。わたしアリスの治療を受けるわ。ここで待ってる、だから迎えに来て」

「仰せのままに」わたしは魔理沙と同じレベルの軽口を叩き、親密さを演出する。「では、今日はここまでね。わたしは帰るけど、苛々したからといって通りかかりのものに毒を浴びせては駄目よ?」

「大丈夫。足が填ったから今日はちょっとだけご機嫌。この気持ちは賞味期限が少しだけ長いと思うわ」

 あまり信じられなかったけれど、わたしがここを見張っているわけにもいかない。誰かがここを通らないよう祈るしかないだろう。そんなわたしの心も露知らず、メディスンはわたしに向けて痛んだ手をそろりと振ってみせた。

「あのね、待ってるわ。だから明日、絶対に来てね」

「来るわよ。だからそういう切ないこと言わないの」

 わたしはメディスンの頭をもう一度撫でてやる。この子は一度、捨てられたのだと理解しているのだろう。だから常なる恨みと憂鬱を抱えているし、その反動で優しくされればとことん甘えてくる。危険な性格だと思う。これから先、毒を食らうことも一度や二度ではすまないだろう。

 それでもわたしは彼女に責任を持つつもりだった。わたしがやらなければいけなかった。

 何故なら――六十年前、ここにメディスンとスーさんを捨てたのはわたしなのだから。