サマー・アポカリプス

矢吹駆シリーズ第二弾です。このシリーズは基本的に、最新作には過去のシリーズの犯人が名指しで出てくるので、シリーズ順に読むことが必須です。私は第三作『薔薇の女』の前に第四作『哲学者の密室』を読んでしまい、一寸欝になったことが――皆は気をつけましょう。

今作は探偵役、矢吹駆が撃たれるという場面から物語が展開します。そこから物語は遡り、ナディアとロシュフォール家令嬢ジゼールとの出逢い、カタリ派の財宝と脅迫状、そして女活動家シモーヌ=リュミエールとの出逢い。その全てが折り重なる地、シャートイユ村のエクスクラモンド荘で起きた殺人事件は、黙示録によって予言された連続殺人事件に発展する――ええ、前作に続けて真っ向勝負のミステリィですね、私は粗筋を読んだだけで涎を垂らしそうになりました。

実際、前作『バイバイ、エンジェル』以上のミステリィ要素を含みながら、それにきちんと融和した高度な哲学が展開されていきます。前作は哲学と推理が少し乖離している印象がありましたが、今回はそのどちらかが欠けても絶対に成り立たないくらい、密接に絡んでいます。

そして、様々な不可能状況が現れるにも関わらず解決には寸分の隙もありません。謎と伏線を張り、物語を収束させるタイプは練り上げればここまで完成度が高くなるのだなと、初読して鳥肌が立ったのを覚えています。少なくとも、前期三部作の中ではこれが抜群に完成度が高いです。質の高いミステリィを望む方にも、高遠なる哲学論議を楽しみたい方にも、勿論矢吹駆の素っ気ない態度を楽しみたい方にも、お薦めの作品です。

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