葬儀を終えて

アガサ・クリスティは兎に角、代表作が多くてかなりの良品でも下手をすれば埋もれてしまいがちですが、これも映画化された『オリエント――』『ナイル――』『鏡は横に――(映画題はクリスタル殺人事件)』等や、よくよく問題作と呼ばれる『アクロイド――』『abc――』辺りと比べると知っている人は少なめです。この良作の多さ故に、クリスティは表のベストの他に裏ベストを生み易い作家だと個人的には思っております。私にとっては正にこれが、クリスティ作品の裏ベストです。読み返した回数は『アクロイド――』も凌ぐかもしれません。真相は既に分かっているのですが、話の流れが非常に巧く出来ており、登場人物にもかなり華(クリスティの作品の場合、華があるというのはお喋りな人のことを意味します)があって、何度読んでも面白い。優れたミステリィはまた、リリーダビリティにも優れているという、とても良い見本かと。

内容はクリスティに限らず、英国のミステリィでよく扱われる『遺産相続』がテーマですが、当主の死を臭わせる発言から、発展していく事件は一筋縄ではいかない内容です。少しお喋りが多い感もありますが、読者の興味を巧みに手繰り寄せてやまない話し運びと、解決編で示された真相には色々な意味で度肝を抜かれました。これから読み始める方に、忠告にはならない忠告を。この作品は、読み始めた時から知らない内に作者の罠にはまってしまうでしょう。どうか、ご用心の程を。

ちなみにこの作品を見て、美味いもん食ってるなあポアロは――と、心の中で毒づいたのは、ここを読んだ貴方の胸の中にそっと潜めて頂けるとありがたかったりします(笑

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