空の名前 - あとがき

 初めまして、あるいはお久しぶりです。仮面の男です。

 今回は作品内にあとがきを残すことができなかったので、Webに掲載することにしました。

 以下「空の名前」を書くにあたり、よしなしごとを。

 

 本作はAirの10周年ということで書かれたものですが、そこまでの長い年月が経ってしまったことに驚くとともに、よくぞここまでほったらかしに出来たものだなあという、呆れのような気持ちが心に強く込み上げてきました。

 というのもこの話、構想自体は七、八年前から存在していまして。その構想をもとに一度、いくらか話を書き進めてみたのですが、当時の筆力と構成力ではとてもまとめ切れず、いわゆる連載放棄という形でうっちゃってしまいました。心の片隅にはいつも引っかかっており、いつか形にしなければいけないなと考えていました。

 構想自体は言葉にすれば簡潔で『美凪シナリオのその後』を描き出すというものでした。メインシナリオとして徹底的に完了している観鈴シナリオ、個人の幸福に帰結した佳乃シナリオに対し、美凪シナリオだけがその先を暗示させて終了する内容であったことがその強い動機になったのだと思います。

 美凪シナリオのその後は、以下の三つに大別されます。

  1. Trueエンドでの、往人のその後
  2. Trueエンドでの、美凪のその後
  3. 逃避行エンド後の二人の行く末

 だからこそ本作は三章構成であり、互いの繋がりを所々に示唆した連作短編集となっています。

 さて、今回の話を書くにあたり、特に気を配ったことがあります。美凪シナリオは一つのおとぎ話であり、本編で終了が宣言されたのだから、その後の話は極めてシビアな現実でなければならないということです。そのために各話は現実に根を差した泥臭く、嫌らしく、明快な解決が与えられない内容となっています。原作の後日談でありながら、全く原作らしくないという矛盾した内容です。

 Kanonの十周年合同本に寄稿したSSはテーマに沿った、甘さの中に苦みを一滴たらし込んだ話でしたが、今回は苦さの中に甘さを一滴だけたらした話となっているはずです。それでもAirというものに対する想いを最大限に詰め込んだ作品にはなっております。楽しんで頂けたならば良いのですが。

 以上、長々と語ってきましたが、最後に謝辞を。

 本作『空の名前』を読んでくださった方々に最大限の感謝を込めて、この後書きを締めたいと思います。