賢しらなるもの、仮面の男

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仕事を終え、仮面の男さんは最寄り駅近くのコンビニで夕飯を物色していました。すると、四十代ほどの女性が話しかけてきたんですよ。彼女は何かの証明書らしきものを開いてみせ、それから訊ねてきました。

「これ、いくつかサイズがあるけど、どれで印刷すれば良いのかしら?」

どうやら証明書の写しを取りたいようです。定額給付金用かなと心の中で思いながら、コピー機のサイズボタンを見ました。左から『B5、A4、B4、A3』とあります。女性が開いてみせた証明書らしきものは旧保険証くらいのサイズでしたが、印刷に纏わる仕事をしているわけではなく、比較対象もなしに、ぱっと見に紙の大きさを見分けることはできません。

と、そこで仮面の男さんは思いついたんですよ。鞄の中に入っている文庫を使えば良いのではないかと。文庫本がA6サイズであることは確定的に明らか。

ビッグアイデア! 仮面の男さんはそう心の中で喝采しながら、文庫本を使って証明書の大きさに見当をつけました。その結果、A5より少し小さいくらいであることが分かりました。

これならB5で十分ですねとの言葉に、女性は半信半疑だったのですが、自信たっぷりな私の様子に、納得してくれたようでした。

小さいながらも良いことをしたなと思いながら夕食を買い、レジを済ませて店を出ようとしたそのとき、女性が辺りをきょろきょろとし、それから近くにいる店員に声をかけました。

「ちょっとこれ、コピーとってくれない?」

気付くべきでした。コピー機ってサイズ用のメモリがついていて、紙をコピー台に乗せてみれば、どのサイズで印刷すれば良いか一目瞭然なんですよね。

それなのに、周りの人間に尋ねてきた時点で気付くべきでした。そもそもこの女性は、まともにコピーを取る方法すら知らないのだと。

何がビッグアイデアだ! 賢しらなだけで私は、事の本質を全く見抜けていなかったではないか。最初から「じゃあ私がコピーを取ってあげます」と、そう言ってさっと行動に移せば良かったのです。

内心の赤面とともに、私は店を後にしたのでした。

賢しらであることはときに、何もしないよりも意味がない。

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