第四回 盲目のさすらい人

宿場町の宿屋で横になる、浩平と沢口(本名:南)

「くそっ、また失敗か……」

沢口がモンスター(或いは浩平)に受けた傷にうめきながら、そんなことを言った。

「お前、余程母親のことを……。ちなみに聞くが、どんな病気なんだ?」

「……花粉症だ」

浩平は沢口にとどめを刺した。

「兄さん……僕は、もう、駄目だ」

「沢口はそう言いながら、短い生涯を終えた。享年十七歳、正に悔いのないすばらしい……」

「お前、なんでそんなナレーションを入れる?」

耳元で囁く沢口に、実に不満げな浩平。

「いや、ちょっとした出来心だ」

そう言うと、浩平はふらつく体で宿を後にした。

「おい大丈夫か、あの沢口って奴。なんか無茶苦茶やばくなかったか?」

「大丈夫。不思議のダンジョンで倒れても入り口に戻るだけだから」

「……ここ、不思議のダンジョンじゃないぞ」

浩平はコッパの言葉を聞かなかったことにして、宿場町を後にした。

今回こそは何も起こらないようにと祈りつつ……。

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「ぐあっ……」

浩平の姿を視認したその影は、そんな奇妙な呻き声を上げた。その声に、浩平も気付く。

「お、お前は七瀬」

「だから、あたしは七瀬じゃないって……」

「おい、あんなことを言ってるが、どうなんだ?」

七瀬(本名:お竜)とコッパから同時に突っ込みが入る。しかし浩平は巧みに無視すると、

「いわゆる、七瀬再びってやつだな」

「また、わけのわからないことを……とにかく、もうあんたの相手はしないって決めたんだから」

お竜は心底迷惑そうに、浩平を睨み付ける。

「つれないな、俺とお前の仲じゃないか」

「……ごめんけど、ほとんど初対面なのよ」

「俺は一度でもあった奴は友人と思うことにしている」

「はた迷惑な性格ね、それって……って、はっ!」

お竜は自分がペースに巻き込まれているのに気付いたのか、はっとした表情を見せる。

「とにかく、あたしはあんたと友達になる気も、知り合いになる気もないわ」

「じゃあ奴隷でも……」

「一生死んでろ、アホっ」

お竜は懐から例の発破を取り出すと、地面に叩き付けた。

「ぐあっ、前が見えない……」 祐一の視界は今、ゼロに等しい。

「……まぁ、歩いていれば直るか」

あの時のように弱っているわけではないから、そんなことを思い、祐一は適当に歩き出し始めた。

と、何かがぶつかる感触。

「いたいよ〜」

声がしたところから見て、どうやらモンスターではないようだ。

「目がチカチカするよ〜」

相手はどうやら痛がっているようだが、浩平にまとわりつく霧のせいで確認が出来なかった。

「すいません、誰かいるんですか?」 浩平は声を掛ける。

「うん、いるけど……あなたももしかして見えないの?」

あなたも……と言うところに少し引っ掛かりを覚える。

「いや、俺は煙幕爆弾にやられて……もしかして、そっちもそうなのか?」

「ううん、違うよ……じゃあ、わたしはもう行くから」

そんな言葉が聞こえたきり、その人物の気配も浩平には感じることが出来なくなった。

つまり一人でどこかに歩いて行ったのだろう。しかし……。

「煙幕にやられてないってことは、どうして前が見えないんだろうな」

「……目潰し草でも飲んだんじゃないのか?」

「そう、だろうな……」

コッパの説明に釈然としないものを感じながら、浩平はそう納得することにした。

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今回は妙なトラップに引っ掛かることもなく、無事に渓谷まで辿り着いた。

ちなみに装備は、以下の通りである。

カタナ−1(髑髏)

皮甲の盾

「浩平、お前何でそんなに呪われた武器ばっかり手に入れるんだ」

「知るか、巡り合わせが悪いとしか言えん」

手にフィットして離れようとしないカタナで、モンスタをばったばったと……。

おばけ大根は毒草を投げた。

浩平は力が下がった。5のダメージを受けた。動きが遅くなった。

「殺殺殺!!」

浩平はおばけ大根を一刀のもとに切り伏せた……。

「くそっ、不幸が一極集中してるんじゃないのか? このダンジョン」

渓谷の水音に耳を傾ける暇も無く、極めて殺伐とした気分で進む浩平。

そこにふらふらと歩いて来るのは一人の風来人。

「よお浩平、やっぱり風来人は挨拶が基本……」

浩平は復活の早過ぎる沢口を瞬殺した。

「ぐはっ、折角復活できたのに……」 断末魔の声を上げる沢口。

ちなみに本名は、既に皆の頭から忘れ去られている。

「同業者をやっちゃうなんて、結構お主も悪なんだね」

消滅する(宿に叩き返される)沢口を見ていたのか、一人の人物が声を掛ける。

それは何処かで聞いたことがある声だった。

「みさき先輩……なんでこんな所に?」

「だから、みさき先輩って誰だよ」

「黙れ。そんなことを言ってると、お前の名前をみゅーに変えるぞ」

「だからみゅーって何だよ。前から気になってるんだが」

二人の不毛ながなり合いを楽しそうに聞いているみさき(と呼ばれた人物)

「まあ、みゅーのことは放っておいてだ……なんでみさき先輩までここに?」

「うーん、私の名前は座頭ケチって言うんだけどね。

気に入らないから改名するよ、これからはみさきちゃんって呼んでいいから」

みさきはその場のノリでみさきに改名した。

「それより浩平ちゃん」

「ちゃん付けはやめろ!!」 浩平は魂の叫びを展開する。

「なんか顔色が悪いねえ、お化け大根の毒にでもやられたのかな?」 みさきは大無視した。

「よければ特製マッサージをしても良いけど。毒も運が良ければ抜けるよ」

「みさき先輩がマッサージ?」 浩平は一寸、嫌な予感が過ぎる。

しかし、その次にはみさきにマッサージされるという願望に支配されていた。

「じゃ、じゃあ、お願いします」

「うん。肩の力は抜いてね……いっせーの!!」

ごきゃり!!

浩平は10のダメージを受けた。力が3下がった。

「ぎゃあ、背中が痛い〜っ」 浩平は突然走った背中の痛みに思わず這いずり回った。

「あっ、えっと、ごめん失敗……もう一度やるね」

ごきゃり!!

浩平は10のダメージを受けた。力が3下がった。

「せ、先輩……もうやめて、死ぬ……」

体があらぬ方向に曲がっている浩平は、涙を流しながらみさきに訴えた。

「夕焼け、綺麗?」

「誤魔化すな」

「じゃあ、あっしはこれで」

「こんな時だけ元のキャラに戻るな……って、もういなくなってるし……」

最早、満足に動けない浩平。

しかし、捨てる神あれば拾う神ありだ。

「あ、あれは村の入り口……」

第四回目にしてようやく、浩平は竹林の村へと到達した。

未だに体をあらぬ方向に曲げたままで……。


後書:マッサージは危険ですぞ(苦笑

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