第六回 鋼鉄の乙女たち

全身に重傷を負い、宿場に運び込まれた浩平。

そしてよがあけた……(ドラクエ風に)

――。

―。

「うーん、今日も良い朝だ」

浩平は漏れ出す太陽を眺めながら大きく背伸びをした。

昨日一日中寝たためか、珍しく寝起きが早い。

「っておい、なんであんなボコにされて一晩で復活出来るんだよ」

「お馬鹿なみゅーだな。毒消し草で腰砕けが直る世界だぞ」

「みゅーはやめろ……何の影響を受けてるんだよ、全く……」

みゅーと改名されかけてはいるものの、必死の抗弁で彼はコッパの名を保っている。

しかし、あと二、三回が限界のような気がするが……。

「いま、不吉な予言が聞こえてきたような……」

「気のせいだ、さっ、とっとと行くぞ」

右腰の壷の中にコッパを押し込むと、浩平は宿をあとにしようとする。

そこにお粥を手に持った女将が現れる。

「ふう、今度こそは手作りお粥で心を鷲掴みに……」

そんな女将の恐ろしい科白に、今度からは野宿にしようかなと、

貞操の危機と共に強く思うのであった。

その後、挨拶を強要する沢口をノックアウトし、

浩平は更なる飛躍を求めてダンジョンに挑むのだった……。

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「というわけで通算五度目の冒険にれっつ・ごーだ」

「最初の威勢だけは相変わらず良いよな……」

コッパのつっこみは相手にせず、目にした武器を早速装着する浩平。

こんぼう+3を装備した。

「おっ、らっきー」

更に武器が落ちている。

長巻+1を装備した。

「……なあ、これって強さ同じだよな」

浩平は巡り合わせの悪さに、何だか悲しくなった。

「ま、まあ……強さが同じなら高い方を売れば良いじゃないか」

「そ、それもそうだな……或いは店主にぶつけ」

「それはやめろ!!」

「あ、ははっ、冗句だって。あんなにやられてそんなこと思うかよ」

浩平は豪快に笑いながら頭を掻いたが、みゅーは信用できない。

「後は盾があれば……って早速発見」

今日はいつまでもの冒険と違う……、

そんなことを思いながら浩平は盾を装着する。

木の盾−1は呪われて……。

「くそおっ、なんてことだ」

「やっぱり巡り合わせが微妙に悪いよな……」

コッパ(或いはみゅー)は溜息を付く。

「いや、これは幻覚だ、嘘だ、バグだ、本当は外れる筈なのだ」

木の盾−1は呪いのせいで外れない。木の盾−1は呪いのせいで外れない。木の盾−1は呪いのせいで外れない。木の盾−1は呪いのせいで外れない。木の盾−1は呪いのせいで外れない。木の盾−1は呪いのせいで外れない。木の盾−1は呪いのせいで外れない。木の盾−1は呪いのせいで外れない。木の盾−1は呪いのせいで外れない。木の盾−1は呪いのせいで外れ……。

「……疲れた」

無意味な行動をやり尽くしたと、脱力感に苛まれる浩平。

この行動だけで満腹度が1下がっている。

「おのれこうなれば、地の恵みの巻物かおはらいの巻物……メッキでも良い」

怒りに震えた折原浩平。

しかし神は舞い降りたのか、目の前に巻物が……。

真空切りの巻物を拾っ……。

「わっ、馬鹿、マムル一匹にんなもん読むんじゃ……」

真空切りの巻物は、浩平の鬱屈を晴らすためだけに使われたのだった……。

マムルに28のダメージを与えた。

マムルをやっつけた。

経験値2を得た。

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不思議のダンジョンというのは不思議なもので、

最初はここまで辿り着くのがやっとと思われることに、

慣れると余裕で辿り着けるようになったりするのだ。

ということで、お化け大根に力を5まで下げられながらも竹林の村に到着した。

「よしっ、二度目の到着!!」

ということで浩平は再び店による。

「いらっしゃい」

店主はいつもの調子で声をかける。

脳味噌まで筋肉で出来てるのか、その敵意を巧妙に隠しているのか、

或いはぼこぼこにして溜飲が下がったのか、その雰囲気はいつもと変わらない。

「いらっしゃい」

もう一度繰り返す。

その姿は慇懃を通り越して、無気味ですらある。

「いらっしゃ……」

「だあっ、浩平、何度も話しかけるんじゃない」

「いや、本当に怒ってないのか確かめるためにな……」

浩平は何度か念入りに話しかけた後、再び品物を物色し始めた。

ただ、心なしか入口を塞ぐことを優先しているようなきらいがある。

やはり、泥棒されて怒っているようだ……いや、気のせいだろうか……。

今回は泥棒用アイテムがなく、仕方無しに弟切草と長巻+1を交換するようにして、

回復アイテムをゲットした。

「弟切草、ゲットだぜー」

「いきなりなに叫んでんだよ、お前は……」

ゼルダの伝説でもないのに、アイテムを天空に掲げる浩平。

「うるさいとモンスターボールに閉じ込めるぞ……」

「何の話だ!?」

「バグとかプレゼントでないと貰えない伝説のモンスターじゃなかったのか?」

「やめろって、流石にそのネタはやばいぞ」

確かに……と浩平は思った。

「じゃあ、今回はとくと竹林の村を探検……」

しようとしたところだった。

見慣れた少女が四人のやヴぁげな風来人に囲まれているのを発見する。

「今度こそじっちゃんの形見を……」

「おじさんと良いことしないかぁ、ぐえへへ」

「飯の恨みはこええんだぜ」

「そのおさげ、売ったら5000ギタンになるぜえ」

変態恨み、ひきこもごもの図が見える。

その災禍の中心にいるのは、浩平を騙そうとした少女だった。

「なんだ七瀬か……触らぬが仏だな」

「何気に酷いこと言ってないか、おい。しかも七瀬って……」

浩平は無視を決め込む。

七瀬と係わり合いになるとロクなことがないと思ったからだ。

「あっ、そこの人、助けてくれないかなあ」

七瀬(本名はお竜だろう……多分)は浩平と知らずに呼び止める。

どうやら三度笠で顔を隠していたのがまずかったようだ。

(ちいっ、見つかったか。何とか逃げる手段は……)

一層、ドラゴン草でも使って焼き殺そうかとも思ったが、

浩平はドラゴン草を持っていない。

「てめえ、この女の味方か?」

「顔隠してるぜ、妖しいなあ」

「ふへへへ、こっちのも好みだ……」

「てめえバイかよ……」

(ヤバい奴もいるなあ……まあ18禁ゲームのキャラなんだし、

 万が一のことがあっても逞しく生きていくに違いない)

浩平は思わずそのシーンを夢想してみる。

『ぐへへ、もう隠したって無駄だぜ』

『いやっ、やめてえ』

『げっ、こいつ男だぜ』

『男だろうと構うものか……』

「そうか七瀬、実は男だったんだな!!」

「誰が男よっ、誰がっ……って、ぐあっ……」

夢想したシーンを声に出したのが運の付きだった。

七瀬がこちらの正体に気が付く。

「やばいことになってるなあ……じゃあ、俺は旅を急ぐんで」

「はあい、いってらっしゃーい……ってくおら!!」

浩平は必殺、他人のふり攻撃でやり過ごそうとしたが、

七瀬には通用しなかったらしい。

「というか七瀬で反応するってことは、自覚あるんじゃないか」

「あ、う……それはきっと前世の名がそうで無意識に反応して……。

とにかくあたしはお竜よ、他の名前で呼ぶんじゃないわよ」

「そうか、了解した。じゃあ俺は旅を急ぐんで……」

「そう、ならいってらっしゃい……って待たんかい!!」

二度目は同じ手段が通用すると思ったのだが、駄目だった。

「あたしは今、柄の悪そうな四人の男に囲まれてるわ」

「ほう、それで!?」

「こういう状況を見て、助けようとは思わないの?」

「お前なら自力で出られるだろう。じゃ、そゆことで」

浩平は今度こそこの場を立ち去ろうとした。

と、その時……。

トラブルは加速度的に増加した。

「くおら待て、食べた分の金、払えや〜」

「ふう、なかなかしつこい人たちだね……」

この前、浩平の背中を砕いて逃げていったみさきとかいう盲目のさすらい人だった。

というか、どんな人間に追われているかは何となく察しがつく。

「多分、浩平ちゃん」

「ちゃん付けやめい、ちゃん付けは……はっ」

いつのまにかみさきワールドに飲み込まれていたようだ。

「可愛いのに……」

「いや、そんなことはどうでも良いんだ。何で追われてるんだ?」

浩平が尋ねると、みさきは悪びれる様子もなく言った。

「仕方ないんだよ。満腹度が零になったらこの世界じゃ倒れちゃうでしょう?

だから、少しばかり失敬したんだよ」

「少しばかりかてめえ」

「俺らの食糧、全部ギったやろうが」

「お蔭で俺たち、全員飢えで倒れちまったんだぞ」

「てめえ、責任取れこんちくしょう」

どうも、この世界では恨みを買ってる奴が多いな……。

浩平はそう思い、逃げ出したい気分で一杯になった。

しかも、七瀬組の方からも抗議の声が上がる。

「あっ、てめえは俺の腰を砕いておにぎり盗んだ……」

「あのせいで俺は毒草を服用しなければ……」

「折角、復活の草が……」

「ぐえへへ、この娘も可愛いぜえ」

「みさき先輩、あんた何人から恨み買ってるんだよ」

「さあ……数えたことはないけどね。私、目が見えないから」

「あんたら、あたし以上のワルね……」

七瀬が思わず呟いた言葉が気になったが、ここは黙殺しておく。

問題は、自分が二人の仲間だと思われているか否かということだ。

「「「「こうなったら、三人とも!!」」」」

「「「「やっちまうぜ、コラ!!」」」」

最悪の事態だった。

どうやら浩平も、標的の一人にされてしまったようだ。

「こうなったら、正義のために……」

「みさき先輩、いつから正義になったんだよ……」

みさきの口上に、浩平のツッコミが飛ぶ。

「むさい男は即切り捨てて良いのよね、ふふふ」

「七瀬、そんな法はない……」

七瀬はどうやら逆切れしたようだ。

そしてコッパはと言えば……。

「あっ、あいつ逃げやがった!!」

面倒はごめんだとばかり、とっとと逃げ出していた。

或いは、愛想を尽かしたのかもしれない。

「くうっ、最早人類に逃げ場無しか……」

某ロボット大戦に出て来る科白を呟く浩平。

「かかれ、皆の衆」

「てめえ、命令するなよ」

「リーダーづらしてむかつくぞ」

「ぐえへへ……」

向こうのチームワークは最悪だった……。

「浩平ちゃん、七瀬ちゃん」

「ちゃん付けするなあ」

「あたしは七瀬じゃないっ」

しかし、こっちのチームワークも最悪だ。

大体、こちらはチームですらない。

「こういう時は、三つの力を合わせるべきだと思うんだ」

「そうね、こうなったら仕方ないわ」

「俺はいちはやく、ここから逃げ出したいのだが……」

三者三様の意見が飛び交う中、戦いは開始される。

「斬○剣の錆になってね」

みさき先輩の小刀が宙を煌き、あっという間に二人の男が倒れる。

流石二倍速、行動量も常人の二倍だ。

「秘技、乙女二刀流」

「ぐえへへ、気持ちいい……」

刺されてもそんなことを言って倒れる男の一人。

というかS属性まであったのかと浩平は違う意味で戦慄を覚えた。

ともあれ、こうなると最早逃げられない。

浩平も身近にいる男を一人、殴り倒した。

風来人らしき男は悲しいほど弱い。すぐに地べたを這う羽目になる。

「くっ、今度はこっちの番だあ」

「はっ、きかんなあ!!」

1のダメージくらいで死ぬ七瀬ではない。

というか、北○の拳っぽい口調になっているのは気のせいだろうか。

そんなことを考えながら、今度はみさきの方を見る。

「死ねやあ!!」

「ふっ、攻撃が丸見えだよ」

も、盲目じゃないんですか?

浩平はそんな言葉を、喉まで出しかけて飲み込んだ。

それはタブーのような気がしたからだ。

そして何故か浩平は二人から攻撃を受けた。

男というだけで不公平だと思いながら、次のターンでもう一人殴り倒す。

決着はそのターンでついた。

「やはり正義は勝つんだよ」

地べたで本当に苦しそうな無実の風来人たちを下敷きにして、

今更正義などと言っても説得力はないと浩平は心の底から思った。

「ちえっ、ロクなもん持ってないわね」

そして倒れた風来人からアイテムを漁る七瀬。

というか、人らしい慈悲の心が欲しいと浩平は切に願った。

まあ、彼もちゃっかりおにぎりを一つギったのだが……。

「ふう……ありがとう二人とも、助かったよ」

戦隊もののラストのようなノリで、みさきは話しかけてくる。

「あたしもよ……貴方強いのね」

七瀬もその空気に触発されたのか、今更良い人モードだ。

「ところでさ、私たちって三人で組んだら最強だと思わない」

「うん、そうだね」

七瀬とみさきが共通した意見を述べる。

その中の一人が自分でない中を祈りつつ、浩平は場を立ち去ろうとする。

しかし、七瀬とみさきに片腕ごとを掴まれる。

「そう言えば、貴方にも礼を言ってなかったわね、ありがとう」

「私からもお礼を言うよ。それで……」

この話、最大の嫌な予感が浩平を襲った。

「私を旅仲間にしてくれないかな」

「あ、じゃああたしも……」

浩平は心の中でいやじゃあと叫ぶ。

「お、おう、俺も二人がいると頼もしいぞ」

しかし、そんなことをすると二人の仕返しが怖い。

浩平はひきつった笑いを浮かべながら、二人を仲間にするしかなかったのである。

(みゅー、俺を一人にしないでくれーーーー)

 

七瀬が仲間になった。

みさきが仲間になった。


あとがき:なかまが増えました

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