第七回 おにぎりに賭けろ、青春?

かつて、共に歩んだ相棒を失い、呆然とする浩平の元に付き従う――もとい、強引に主導権を握り旅を進めるお竜七瀬と座頭ケチみさき。浩平の心の中には世界の終わり、ワールドエンドが訪れようとしていた――。

「折原、足並みが遅いわよ」

「うるさい、手前ら居ない所で階段に登るぞっ!」

「浩平くーん、私、お腹空いたよう」

「もう、二つもやったろうが」

「つれないこと言わないでよ、おやぶーん」

「先輩、調子の悪い時だけ――っていうか、違うキャラだぞ、それは」

女三人集めて姦しいと読む――浩平はこの言葉の意味をいまや完全に理解していた。二人だけでも喧しい上――。

「あっ、おにぎりだ。おにぎりが出たよ」

突然、みさきが叫び出したその先にいたのは――おにぎりじゃなく、妖怪にぎり変化だった。しかし、みさきにとってはおにぎりだろうが妖怪にぎり変化だろうが構わない。

おにぎりを生み出してくれるものならば――。

「な、なんかあの、みさきって人の目の色が変わったわよ」

流石に傍若無人の七瀬も、みさきの目の輝きようにはたじろいでいるようだった。

「コウヘイクンオニギリダヨフフフフフ」

うあ、喋り方が狂気の扉を開いたっぽい雰囲気がびゅんびゅんする。流石、屋上で密かに電波収集していた御仁は違うなと、浩平は錯乱した頭で考えていた。

正直、逃げたい気持ちで一杯だったが、ノンプレイヤ・キャラクタはおにぎりを取得できないのがこの世界の鉄則――浩平は渋々ながら、おにぎりと攻撃の嵐を受けることになる。この『おにぎり』を殺してしまったら、みさきは滅殺を仕掛けてくることは確実だと思えたから――。

「お。おりはらーー。死んだら、骨は拾ってあげるからーー」

七瀬は高みの見物と洒落込んでいる。仲間とは、いざという時、助け合うものだという気がしてならなかったが、彼女らの物欲とか食欲の前にはそんなの無視っぽい。

まっ、薬草持ってるから何とかなるよなとたかを括ってると。

妖怪にぎり変化は、薬草を大きなおにぎりにかえてしまった。

お約束かいっ!!

「頑張れ、にぎり変化、この調子でふぁいとだよ」

「みさき先輩、できれば俺のことも応援して貰いたいのだが――」

「死なない程度にねー、死んだらおにぎり貰えないし」

鬼だ、この世界の先輩は鬼だっ。

だが、今からおにぎりを補強しておけば――戦いが楽になるかもしれない。ということでさあ来い、にぎり変化よ。俺の持ち物を散々、おにぎりに変えるが良いわっ。

妖怪にぎり変化は浩平に3のダメージ。

妖怪にぎり変化は浩平に4のダメージ。

妖怪にぎり変化は浩平に4のダメージ。

妖怪にぎり変化は浩平に5のダメージ。

妖怪にぎり変化は浩平に4のダメージ。

「危なあっ!! 足踏みしてて、思わず死ぬところだったぞ」

浩平、思わず叫ぶ。

「おりはらーー、まだ生きてるーーー」

凄く遠くで、七瀬の声が響く。とっくの昔に見捨てているという事実も忘れ、下手するとがさつな七瀬の声が救いの声みたいに聞こえるのが、ある意味で浩平の精神的窮余を示していた。

だが、風来人の意地が浩平の意識を呼び戻す。或いは、あの宿屋の婆さんに介抱されて、貞操の心配をするのは嫌だという危惧感――。

「よし、取りあえず薬草で体力を回復――」

と、取り出したものは既に、おにぎり――。

「畜生、畜生、ちくしょうっ!!」

「浩平くーん、まだ頑張りが足りないよー」

悪魔の囁き声が、浩平の耳を過ぎる。何てこったい、戦って、それから死になさいってことですかあ、魂の慟哭が浩平を貫く。

しかし、浩平の錯乱した頭は、みさきへの恐怖にだけに下僕宣言中。

「こうなったらヤケだ、死ぬ一歩手前まで言ってやる」

妖怪にぎり変化は浩平に5のダメージ。

妖怪にぎり変化は浩平に4のダメージ。

死ぬ一歩手前になった――。

「先輩、一つ提案がありますっ。このままでは不肖折原浩平、力尽きて荒野の露に消え果てしまうであります。目の前の怪物の殺害許可を要求しますっ!!」

「うーん、そうだね。このままじゃ『おにぎり』がなくなっちゃうし」

自分の心配がないことは――まあ、予測済みだったりしちゃった訳で、浩平はこんぼう+3を振りかざし、速攻撲殺。

浩平は妖怪にぎり変化に18のダメージ。

妖怪にぎり変化をたおした。

「わあ、浩平くんって強いんだねおにぎりもっと欲しかったよ」

浩平は、最後の言葉を聞かなかったことにした。

「さあ浩平、足踏みして回復したら次のおにぎりを狩りにいくよー」

「なんですとっ!!」

結局、渓谷を通る間、浩平はあと三度、おにぎりとの死闘を演じなければならなかったのだった――。

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「ふう、やっと七階まで来たわね。おりはらーー、大丈夫ーー」

「今までずっと見捨てておいて、今になってそんなことを言うのか、手前は。三度死に掛けたんだぞ、三度っ!!」

「――さ、さあ、確か情報によればあと一階層で山頂の町の筈よ」

七瀬はそそくさと逃げ出し――。

「って、ぎゃあああああーーーっ」

早速、モンスタに遭遇したらしい。自業自得だと浩平は思いながら、隣でおにぎりを食して満足そうなみせきを見張っていた。また、おにぎり狩りなんて言われたら、今度は本当に駄目かもしれない――浩平は遺言状の文句を今から考えておくことにした。

七瀬はきめんむしゃに12のダメージ。

きめんむしゃは七瀬に2のダメージ。

七瀬はきめんむしゃに10のダメージ。

きめんむしゃを倒した、10の経験値をえた。

浩平はレベル7になった。

「なにいっ!!」

浩平は思わぬところで、RPGの理不尽さを感じた。が、それより気がかりなことは、既にキャプションの名前も七瀬に変わっていることだった。どうやら、お竜という名前は完全に捨てたらしい。

「折原あっ、あたしも、不幸みたい」

「――そうだな」

浩平が同意すると同時に、何だか怪談めいた音がしてレベルアップおめでとうな囃子が遠くから響いた。

がいこつまどうはレベルがあがってがいこつまじんになった。

――浩平の頭を、即座にいやーな予感が過ぎる。今、既に、レベルアップしたモンスターが近くにいるような、そんな予感だ。

「あ――でも、遠くにいるから大丈夫よね」

と、七瀬が呟き一歩進むと同時に、通路の隅からがいこつまじん出現。蒼いのがまた、おいらはレベルアップしましたよ的な雰囲気だ。

「七瀬、あれはお前の責任だ。お前が責任持って、狩って来い」

七瀬は不満たらたらだったが、自分の仕出かしたことだと思い、責任をもって一歩前に出て、運悪く一直線上にいたがいこつまじんの魔法が直撃。

煙がもくもくというのが古典的だが――変わり果てた姿を見て浩平は絶句した。

七瀬はおにぎりに変化してしまった

いやーな予感がして振り向いてみると、みさきは目を輝かせてらんらん状態。やばい、彼女は仲間だということも忘れて――七瀬を食べる気だっ!!

「ああななせちゃんがおにぎりにかたきをうたないと」

みさきは物凄く、棒読みだった。

「オニギリタベルヨフフフフフ」

「やっぱそれが本音かっ!! 七瀬、逃げろぉ。流石に今の時勢、カニバリズムだけはやばいと思うっ」

しかし記号を食う魔女おにぎりを食う魔女は二倍速。七瀬もおにぎりの姿で必死で逃げるが、叶う筈がない――。

浩平が死力を尽くしてがいこつまじんを倒している間、七瀬は思う存分、みさきに『食われて』いた。もっとも、元が人間のためか、咀嚼されることはなかったわけだが――。

「ひいいっおりはらごめんわたしがわるかっただからみすてないでぇ」

七瀬は目一杯怯えており、対してみさきは平然としている。

「ごめん、お腹空いててななせちゃんをおにぎりと間違っちゃったみたいなんだおにぎりになっちゃうわけじゃないんだがっかり」

コンビを組んで三階層――浩平はもう、仲間二人がいない場所で階段に登ってしまおうかと、半ば本気で考えていた――。


あとがき:とりあえず、仮GBA版トルネコ発売記念?

次は、今度こそDC版発売記念で一個進めます(汗

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