第八回 がけっぷちの毒料理

[前回までの粗筋]

みさきは七瀬を食べようとした(笑)

「ようやく、山頂に着いたのか?」

みゅーコッパと別れて既に三階層。色々なことがあり過ぎて、しかもそれが全部、心的外傷になりそうなことだったから、浩平は麓を望める程の絶景に思わず心を奪われていた。

「わあ、街に着いたからましなご飯が食べられるよ」

そして、旅の外道法師みさきは食べ物のことに心を奪われていた。

「ひいっあたしをたべないでかわなさまおねがいですっ」

そして、旅の二重尻尾七瀬は全ての心を奪われていた――。

浩平は二人を見捨てたくて堪らなかったが、彼女らを見捨てると私的にも公的にも後が怖い。それに、自分の見えないところで悪行を重ねて後でとばっちりを食う位なら、目の届く所で止めたら良いという浩平の打算もあった。それは既に崩れかけてはいたのだが――。

しかし、今の二人――特に七瀬はあまりに危険だった。今はみさきの恐怖におびえているが、いつあれが反転して『なめないでよ七瀬』モードに移行するか分からない。

取りあえず、浩平は最早、デフォルトとなった七瀬を宥める。

「お、落ち着けって――なあ、あれは一時の気の迷い」

「あみるすたんのひつじのにくなんておいしくないのよっ」

アミルスタンの羊の肉って何だよと浩平は尋ねたかったが、何かとんでもないことを返されそうな気がしたので留めておいた――のだが、みさきはさらりと言葉を続けた。

「あ、わたし羊肉って食べたことあるよ。羊神官の肉だけど」

「はううっ――あんどーさまわたしをたべないで」

何時の間にか七瀬はみさきのことをあんどーと呼んでいた。浩平には何故、あんどーなのか分からないけど、そのアミルスタンの羊肉と共に決して突っ込んではならないことだと理解した。

「――と、とにかく宿を取ろう。休めば、辛いことも忘れるだろう」

浩平は本当にその場限りのでまかせを口にして、同極同士のように離れあおうとする七瀬とみさきを近くの宿場に連れて行った。

「いらっしゃいませ――おお、これは姉御の言った通りだ最近の風来人にしては美少年じゃわいじゅるり――ようこそ山頂の宿場に」

宿屋の女将は宿場町の熟年女将の妹だった――。

浩平はそのあからさまに女を感じさせる視線に貞操の危機を強く覚えたが、今回は二人も女性がいるということで安堵していた。

「ほら、何か外装は良さそうじゃないか、七瀬」

但し中身は最悪だと、浩平は心の中で呟くことを忘れていなかった。

(がたがたぶるぶる)

しかし、七瀬はとことん怯えている。余程、みさきに食われそうになったのが嫌だったのだろう。何だか、もう反転しそうにない。

「と、取り合えずだ――気分転換に町でも回ってみようではないかななぴーよ」

だが、普段なら猛り狂う筈の呼び方に七瀬は反応しなかった。

「――それより先に何か食べたいよー。女将さーん、お奨めの飯屋ってあるかな?」

「おお――それならば、美味いかどうかは分からんが町の端っこに食事処を開いた愚か――いやげほんごほんっ、変り者が三人おってのう。それで余所者のあんたらに味実験――いや、ごほんっごほんっ、その――とにかく、出す所は変わっているが料理は実に美味なのじゃよ」

女将の目は露骨にあの世とこの世を泳いでいて、嘘を吐いているのがバレバレだった。だが、みさきは何かを食べれるとなるとそれで満足なのだし、七瀬は食べるという言葉が最早、決定打になっていて逆らうことはなかった。

「そうなの? よし、じゃあ浩平君、その何とかっていうお店に行こうよ。無理心中とか絶叫墜落死とかいうお店に」

「これこれお嬢ちゃん、そのような物騒な名前じゃないよ。その店は崖っぷちというんじゃよ、あっはっはっは」

あまりにぎこちなく陽気な笑い声。浩平は何だか、この先に訪れる未来が予想できて、凄く憂鬱な気分になるのだった。

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その店は、七瀬以上に強風に呷られてガタガタ揺れていた。建物事態は頑丈で、イッテツ戦車の砲撃を食らった位では沈みそうにないのだが――町人の気持ちも少しは分かる。浩平は、ここで落ち着かない気持ちで飯を食べるのは嫌だった。

その玄関には何故か――。

『食事は美少女が作ります』

という、どう考えても自意識過剰そうな人間が考案したような、それでいて某ADVの真似っぽい立て札が書かれていた。

「ああ、大自然の香り、今日もきっとご飯が美味しいね」

手を広げて草むらをくるくる回るみさきは非常に華があるのだが、何よりもその本性を知っているから、素直に感動を受ける訳にはいかない。浩平はせめて震える七瀬に――。

「ほら七瀬、ああ振舞えば乙女っぽいんだぞ」

とアドバイスすることしかできない。

すると、何時の間にか目の前に一人の少女が立っていた。にこにこ笑って『いらっしゃいませなの』と書いたスケッチブックを披露しているから、マネキン人形かと思って頬をむにゅーと伸ばしてみると、途端に怒り出してスケッチブックで襲い掛かってきた。

取りあえず、こんぼう+3が唸ろうとしたが、町民は殴れないのが世の掟。

「分かった分かった澪。お前の怒りは良く分かったから――取りあえず止めてくれると嬉しいんだが。じゃないとギタンぶつける」

『――三名様、御案内なの』

ギタンの効果は顕著だった。流石に1000ギタンで竜をも殺すと異名された折原浩平――お金のやり取りが即、折原浩平とは命のやり取りなのだ。

「そう言えば三人って言ってたよな、愚か――もとい店員は」

呟きながら、既に予想が付くのが悲しかった。

ガタガタ震える七瀬は、はしゃぐみさきが連れてくるだろうと――浩平は彼女らを黙殺して店の暖簾をくぐる。

「いらっしゃいませこの町広しと言えども捌き立ての怪物が食えるのはこの山頂の町ではここだけよっ、ちょっとおにーさん――って何だ、折原くんじゃない。やっほー、詩子よ詩子」

原作よりも三割増で五月蝿い詩子に、浩平は心底うんざりする。というか、女性キャラが原作に比べて数割増から数倍増でテンションが高いので浩平は次に出てくるであろう茜が、どのようなタイミングで出現するのか、怖くて仕方がなかった。

「――――」

「ほら茜、折原くんだよー」

「――いらっしゃいませ」

とても嫌そうに挨拶をする茜。私は接客業なんてしたくないって不満がたらたらで非常に怖い。

「――ご注文は?」

「えっと、連れがもう二人いるので待って欲しいんだが」

「一番カウンタ、メニュー全部お願いします」

「おにぎり以外なら何でも良い――」

みさきと七瀬が両極端のテンションを伴って注文をしながら席に着く。

「じゃあ俺は――」

浩平はメニューを見回す。火炎入道の地獄焼き、カラクロイドの煮付け、オヤジ戦車の髭のムニエル、ベルトーベンの極甘煮――。

「あの、すまないが人間の食べるものはないのでしょうか――」

鉄と火薬の匂いのする食事のフルコースだった。

戦場でも、こんな食事は食えないだろう。

「何よ、これ全部とても美味しそうじゃない。それに、澪ちゃんと茜が丹精を込めて作るのよ、それからわたしも最後の仕上げに調合したスペシャルスパイスをぱぱぱあっと。ほら、これで美少女三人組がそろえば、お客なんてあっという間にやってくるのに――折原くんって流行が分かってないなあ」

「分かってないのはどっちだッ! 大体、オヤジ戦車の髭って何だ? あれは蛋白質か? 脂肪か? アミノ酸か? 一体、どんな栄養と旨味があるって言うんだ?」

「――うーん、そう言われてみれば」

考え込む詩子。

「というか、料理作ってて気づかなかったのか? 味付け担当だろうが」

「味見したこと無いんだもの、てへっ」

なんか、絶望的な一矢が放たれたみたいで、浩平は眩暈がする。

するといきなり、強烈な臭いが食堂を支配し始めた。

気付くと、澪ができたての毟り立て髭を七瀬の座っているテーブルの前に出していた。

七瀬は無気力にそれを食べようとしている。

「待て七瀬っ、それを食べるのはまずいッ!!」

「もぐもぐ――って、ぎゃあああああああああああっっ!!」

あまりの新世紀風味に――七瀬は心的外傷から瞬時に乙女へと覚醒する。

――叫ぶ乙女に。

「お、おりはらあっ――」

七瀬が今にも力尽きようとしている。

「まて、死ぬのはまだ早い――気をしっかり持つんだ」

「も、もう駄目――」

ぱた。

七瀬は最後の力を振り絞り、そして倒れる。

毒料理は七瀬の乙女を取り戻したが、それ以上に大事なものを沢山奪ってしまったのだ。

浩平は、ふと耳元で偽りのテンペストが聞こえてきたような気がした。

 

『七瀬はHPが1になった』

(――続くっ♪)


あとがき:――毒はクスリに(お

次回作は――PS2なのかなっ?

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