白き明路(後編)

 

 

 姿を表したのは、背が高く針金のように細い中年の男性だった。上下ともに黒服を身に纏い、丸眼鏡の中に覗く眠たそうなほどの細い目と無精ひげからは、人の良さを感じさせる。

 彼は、志摩子の顔を見るとその表情をみるみる綻ばせた。

「おお、お帰りなさい藤堂さん、ご苦労様でした。大変だったでしょう? 子供達の送り迎えは」

 どうやら、人の良さは表面だけのものではないらしい。聖はそんなことを思いながら、牧師を観察する。日本人ではあるが、目測しただけでも一九〇を超えていそうな背丈や、顔の掘りの深さが、どこかラテン系の面持ちを感じさせる。そんな些細なことに戸惑う聖を尻目に、志摩子は微笑を湛えて言葉を返した。

「いえ、皆良い子たちばかりでしたから」

 完璧な社交辞令(最も、志摩子はお世辞なくそう思えたのかもしれない)を受け、牧師は深く頭を下げた。

「そうですか、それならば良いのですが」

 ふうと溜息を吐いたところを見ると、彼自身は御しやすい子供ばかりでないことをきちんと把握しているようだった。牧師とはいえ、子供全ての善良を信じているわけではないらしい。それでも笑みを崩さないところに、子供好きの片鱗が窺えた。と、その視線が聖を捉える。

「おや、そちらの方は……藤堂さんのお知り合いですか?」

 さて、どのように紹介してくれるのだろう。志摩子の戸惑う姿を期待した聖だが、優等生の解答は淀みなかった。

「同じ学校の先輩です。道すがら偶然に出会いまして」

 志摩子は僅かながら、偶然という言葉に重きを置いた。

「ふむ。親しいご学友というところですな」

 躊躇いもなく肯いてくれたことは嬉しかったが、それでもどこか物足りないものを感じる。聖は志摩子の横顔をちらと盗み見てから、牧師と初対面の挨拶をした。

「初めまして、佐藤聖と申します」

 こういう時、丁寧な物言いと辞儀が自然にでてくる辺り、きちんと仕込まれているのだなと感じる。自分のようにがさつな人間さえ丁重な女性にしてしまうのだから、リリアンの評判が良いことも成程、理解できなくもない。聖はそんなことを思いながら、牧師を仰ぎ見る。女学園の中では割と背の高い聖だったが、彼とは頭一つも違う。一瞬、その瞳が聖の真性を見抜くかのように向けられたが、次の瞬間には人の良さそうな笑みになっていた。彼は慣習なのか、聖の手をぎゅっと握りしめる。とても大きく、そして無骨な感触だった。

「こちらこそ初めまして。私は東雲雄二と言います。バスカヴィルのウィリアムという洗礼名を持っていますので、そう呼んで頂いても構いませんが」

 聖は普通より奇抜を好む人間だったが、それでも目の前の日本人をウィリアムと呼ぶ度胸はなかった。江利子なら嬉々とした表情でウィリアム様とでも呼んでみせるのかもしれない。

 戸惑う聖の手を離すと、牧師は少し悪戯っぽい顔をする。どうやら彼一流の冗句だったようだ。緊張をほぐそうとしてくれたのだろうが、生憎聖にとっては逆効果だった。不興を知ってか知らずか、彼は続けて話しかけてくる。

「では、お互いに自己紹介も済んだことですし。どうでしょう、佐藤さんも中で休んでいかれませんか? もっとも、妻ほど美味しいお茶は淹れられませんが、それで良ければ」

 どうやら彼の中で、聖を招くことは決定しているらしい。志摩子のピアノの師匠は気になるが、かといって何の貢献もしていない自分が勝手に上がりこんで良いものか。柄にもなく悩んでしまい、思わず尋ね返していた。

「良いんですか?」

「ええ、勿論です。妻は大勢を好みますし、それに……」そして、彼は小気味よく肩を竦めた。「藤堂さんのご学友を玄関先で帰してしまったとあれば、酷く怒られてしまうでしょう」

 それならば、招かれない訳には行かないだろう。聖はもう一度頭を下げ、お邪魔しますと挨拶してから牧師の後に続き中に入った。

 無骨に削りだされた樫の柱や床はところどころ黒ずんでおり、年季の入り方を伺わせる。廊下も人がすれ違ってようやくというくらいの狭さで、少し薄暗い。建物自体はよく手入れされてあるせいか、黴や埃の臭いは殆どしなかった。館を管理しているものの精力ぶりが、目に浮かぶようだった。

 入って突き当たりに二階への階段があり、そのすぐ手前には奥の方へ続くであろう廊下が伸びている。牧師は枝分かれするところまで来て、足を止めた。

「では、私はお茶を淹れて来ますので、佐藤さんと藤堂さんは妻の所に顔を出してやって下さい」

 彼はきびきびとした足取りで廊下を進み、突き当たりの右側のドアを開け、中に入っていった。さて、こちらも見舞いに向かおうかと足を上げ、すぐに下ろす。聖は、場所を知らなかった。後ろから、くすりと笑い声がもれる。ちぐはぐな足の動きが余程、面白かったのだろう。志摩子は良くも悪くも気がつく性質なので、些細なことの方が強く心を揺らすようだった。聖はこほんと空咳をし、気を取り直す。

「こちらです」

 志摩子は聖に階段を指差すと、さりげなく前に出て案内をする。二階から光がもれているのか、上に行くほど明るかった。この牧師館を建てたのが誰だかは知らないが、天国への階段とはなかなか洒落ている。聖はそんなことを考えながら、僅かに軋む道を一段ずつ踏みしめていく。

 二階に足を踏み入れると同時に、明るさの秘密が分かった。先程、正面の扉から見えた礼拝堂が吹き抜けになっており、採光のために設置された天井窓から存分な陽光が注がれていたのだ。緩く舞う塵が乱反射を起こし、きらきらと輝いている。それは、聖書の端々に出てくるダストという存在を、聖に思い起こさせた。土から生まれたものは土に、塵は塵へ。塵は魂の比喩とされている。ならば教会が巧みに光を取り入れるようできているのは、照明のためだけでなく塵を、人の魂の欠片を見せるためでもあるのかもしれない。

 とても静かな、そして少しだけ霊験に近い場所。聖は魅了されそうになる自分を抑えようと、志摩子の姿を目で追う。彼女は透明な陽光と塵に覆われ、まるで自身から発せられたかのように輝いていた。透けているかのように、薄い存在感。まるで今にも羽根を生やし、壁を越えて遠くに飛び立ってしまいそうだ。体に畏気が走り、聖は思わず呼びかけていた。

「志摩子……」

 激情が身に走る。抱きしめ、その在り方を確かめずにいられないほど、聖の心は目の前の少女に捕らわれていた。後ろから肩越しに抱きしめようと、無意識のうちに手が突き出される。いけない、聖は心の中で叫ぶ。こんなことをしてはいけない。感情に呼応するよう――実際は聖の声が届いたからなのだが――志摩子が、後ろを振り返る。彼女のきょとんとした表情に、先程感じた儚さは既になく、存在も確としていた。

「はい、何でしょうか」志摩子の目は、だらしなく前に突き出された腕に注がれている。聖は慌てて、それを引っ込めた。「お手洗いでしたら右手の廊下の、一番奥ですよ」

 聖の葛藤など全く存じぬ、平和そうな志摩子の声。別に切迫しているわけではないが、他の言い訳が思いつかない以上、どうしようもない。聖は「そうか、ありがとう」と礼を述べ、W・Cの案内板が付いたドアに駆け込み、用を足すフリをする。

 わざとらしく、深呼吸をする。何度も、何度も。そして、自分の中を未だに淀む感情をできる限り吐き出した。聖は思わず呟く。「冗談じゃない……」

 そう、冗談じゃない。聖は今一度、心の中でそう呟くと、軽く溜息を吐いた。これでは何もかも、昔と同じだ。相手の全てを独占しようと焦がれ、煩悶し、自分ではとうてい手の届かない存在に挑み、無残に敗北させられてしまった、佐藤聖という人間と。

 それでは、いけないのだ。聖は自分に言い聞かせる。それだけは決して、許されない。

 聖はお手洗いを後にすると、志摩子の肩をぽんと叩いた。その行為に特別な意味はないし、こめてはいけない。彼女は一瞬その身を震わせ、手の主が聖だと分かるや否や、拗ねたような口調を浮かべてみせた。

「もうっ、驚かさないでください」いつもより険が強いのはやはり、まだ怒っているからなのだろうか。心配する聖を他所に、志摩子は意外と楽しそうな表情を浮かべている。「まあ、良いですけどね。それでは、珠子さんの部屋に向かいましょう」

 色々と気になる言い回しだったが、追求する機会は与えられなかった。志摩子は吹き抜け沿いの廊下に面した二つのドアのうち、手前の方を二度、慎ましやかにノックする。暫しの間を置いて、木製の壁越しに「どうぞー」という気だるそうな声が聞こえてくる。病人特有の、覇気が抜けた鼻声だ。

 志摩子はドアを開け「失礼します」と、ベッドに横たわる女性に声をかけた。聖も志摩子に倣い、挨拶をしてから中に入る。

 女性の部屋らしく、壁にはポプリやドライフラワがいくつも飾られており、それらの香りで中は心地良く満たされている。ベッドの他には三面鏡台とタンス、机と小さな本棚があるくらいで、八畳ほどの広さからすれば余裕のある内装だった。どれも年季の入った家具で珍しいのだが、それ以上に目を引いたのは聖の予想とまるで異なる珠子さんの容姿だった。

 ピアノという繊細な楽器の弾き手だから、細身の姿が指の長さを目立たせるような人物を想像していた。しかし、実際はふくよかで随分がっしりとした体格の持ち主だった。と言っても見苦しいわけではなく、今の体格が丁度良いという感じの肉付きをしている。風邪を引いてなければさぞかし、活動的に見えただろう。

 そんなことを考えていると突然、『珠子さん』がくすくすと笑い出した。

「まさか、こんなに体格の良い女性とは思わなかった、って顔してるわね」図星だったので、聖は思わず視線を床に逃がした。それがどうやら滑稽な仕草だったようで、彼女は殆ど哄笑せんばかりの笑い声をあげた。そして、大きなくしゃみを一つしてから、言葉を続ける。「別に怒ってるわけじゃないの。そう思われるのには慣れてるからね。ピアノの奏者は、音楽家の中で特に繊細な体つきをしていると誤解されやすいから」

 目と目が合い、聖はようやく互いが初対面であることに気付く。気さくな仕草と話し方をするので、違和感をおぼえなかった。

「こんにちは。これまた、可愛いお客様ね。お見舞いに来て下さったのかしら」彼女は気だるそうに上半身を起こす。皺の寄った寝間着が、病床であることをより引き立てていた。「ごめんなさい、こんな姿のままで。気分は悪くないんだけど、まだ体の節々が痛くて。家系なのか知らないけど、風邪を引くと関節の痛みが最後まで残るの。全く忌々しいったらありゃしない」

 珠子はどこぞの女流推理作家の作品に出てくる関節痛持ちの名探偵みたく、その辛さを溜息混じりに語りきった。そこでようやく、聖と初対面であることに気付き、瞳をぱちくりとさせる。あら、カレーを作っているのに玉葱が足りないわどうしましょう、といわんばかりのみたいな表情で聖に尋ねてきた。

「そう言えば貴女、見かけない顔ね。新しく越してこられたのかしら、それとも志摩ちゃんのお友達?」彼女は先ず聖の目を見据え、それから志摩子を一瞥する。それだけで合点が入ったのか、友好的な笑顔と共に握手を求めてきた。「その反応だとどうやら後者のようね。志摩ちゃんの友人なら、私にとっても友人よ。えーと、そう言えば名前を聞いてなかったね。私は東雲珠子。貴女は?」

 リリアンなどでは到底考えられない、くだけたものの尋ね方は、接するに気が楽だった。迷うことなくフルネイムで答えると、彼女はふんふんと肯く。

「せいという字は、火星の星? それとも聖書の聖?」

「……聖書の聖です」

 聖なるの聖……その一語を重く感じてきた聖にとって、キリスト教の原典で名乗りを上げることには躊躇いがある。しかし、置き換えるのも不自然だったので、迷った末にそのまま答えた。不遜、という言葉が胸をよぎる。

「それは素敵な名前ね。もしかして、両親がキリスト教徒なの?」

「いいえ」聖の両親は、クリスマスも正月も月並みに祝うし、盆には墓参りに行く。言わば、日本風ごちゃ混ぜ教の熱心な信者だ。「普通の日本人です」

 それを聞いて、珠子はシーツをつかみ身を捩らせるほどの笑い声をあげた。

「日本人! 良いね、私は冗談を知ってる娘は好きよ」

 別に冗談を言ったつもりはないのだが、彼女には可笑しかったらしい。どうやら笑いのつぼを沢山持っているらしく、笑顔が絶えない。相手の性質を見抜くことにも長けているようで、成程これはとことんまで教職向きの性格だと、聖は検討をつける。

「で、彼女は志摩ちゃんのクラスメイトなの?」珠子は首を僅かに曲げ、聖の隣にいる志摩子に声をかける。「どちらかと言えば、先輩の方がしっくりくるけど……そう言えば志摩ちゃんはリリアン女学園の出身だったよね。もしかして、お姉さまだったりする?」

 お姉さまという言葉が飛び出した途端、聖にも明らかなほど志摩子の表情が変わる。それは一瞬であったが、誰の目にも分かる隙だった。その名残は微かに、赤みさす頬として残っている。一応、意識はされているのか……そう思うと、何だか恥ずかしくて表情を崩してしまいそうだった。

 珠子は「わお」と驚きの色をもらし、瞳をきらきらと輝かせている。更なる話を切り出そうとうずうずしているのが丸分かりだった。

「以前はリリアン高等部の娘を何人か教えてたから、姉妹制のことについては聞いてたけど、実際に揃っているのを見るのは初めてなの。ねえねえ、志摩ちゃんも佐藤さんのことをお姉さまって呼んでるの?」

 興味本位であることを隠そうともしない彼女の語り口は、しかし清々しくて嫌味がない。とかく他校出身の人間がリリアンの『姉妹』について尋ねる時、そこには何らかの邪推が含まれるものだ。珠子にはそれがなかった。純粋な好奇心というわけではないが、邪悪でもないことも確かだ。

 志摩子は明らかに気後れし、聖に悩ましげな視線を送ってくる。公言しても良いのか、そう無言で尋ねているのだ。聖は普通ならば、事を荒立てないほうが良いということを知っている。しかし、師匠に嘘を吐かせるのは良くない。隠し立てするような関係ではないし、それに……正直なところ聖は、志摩子に自分のことをお姉さまとして紹介して欲しかった。聖は瞬きしながら、顔を素早く上下に動かす。それだけで通じたようで、志摩子は少し俯きながらもきちんと答えた。

「はい、そうです。生憎、随分と不肖の妹でありますが」

 志摩子が不肖の妹なら、自分など不肖をいくら並べても追いつかないくらいの情けない姉だ。そんな言葉が喉元まで出てきたが、辛うじて飲み込む。ここで謙遜し合ったら折れてしまうのは自分だし、余計に志摩子を萎縮させてしまいそうだった。

「成程、そういうことか」志摩子の仕草と自分の表情から何を読み取ったのか、聖には分からない。珠子はまるで眩しいものを見るように二人を視界にいれ、満足そうな笑みを浮かべた。「だからこそ成り立つ姉と妹の絆もある、か。全く、人間というのはなかなか奥深いね」

 だからこそ成り立つ絆……聖はその言葉を心中で反復する。珠子が自分の何を捉えたのか気になったが、志摩子の前で問うことは躊躇われた。あの日、志摩子にあれだけ偉そうなことを言ったくせに、姉妹であることの意味を未だ迷っているなんて、知られたくなかったのだ。志摩子も志摩子で何を想っているのか、口を開こうとしない。

 だから、絶妙のタイミングで牧師が三人分のカップを盆に乗せて現れた時は、ほっとした。これで、話題を逸らすことができる。

「お待たせしました。ささ、お二人とも空いてる席に腰掛けてください。立ったままだと、落ち着かないでしょう?」

 鏡台と机の椅子を聖と志摩子に勧め、それから机に盆を置く。カップを二つ持ち、先ず志摩子と聖に手渡した。そして、一つだけ色と大きさの違うカップを珠子に渡す。両の手を包み込むようにして支える仕草は微笑ましいが、二人の仲睦まじさを見ても心は妙に浮ついたままだった。

 カモミールの甘酸っぱい匂いが、部屋の空気をゆっくりと書き換えていく。聖は胸一杯になるくらい茶の香りを堪能すると、音を立てず一口啜った。ほんのり酸味の利いたその味と、控え目に加えられた蜂蜜からは、淹れた人間の拘りがダイレクトに伝わってくる。

「美味しい」

 志摩子の口から思わず、感嘆の声がもれた。聖も思わず大きな息を吐く。どのような調合と淹れ方をしているのか分からないが、自分には一生、真似の出来ない味だなと思う。珠子は平然とした顔で「これなら、60点くらいね」と、辛口の点をつけた。しかし、その採点は牧師を事のほか喜ばせたようだった。どうやら、いつもは赤点ばかりをくらっているらしい。これ以上、何を追及するものがあるのかと聖は思うが、嫌になりそうなほどの薀蓄として返ってきそうだったので、黙っていることにした。

 暫し、部屋の中は茶を啜る音と溜息とで満たされる。このまま平和裏に有耶無耶に、お茶会が終わったら直ぐにでも退出しようと心に決めた頃、扉越しに、怒鳴るような大声が聞こえてきた。

「すいませーん。雄二さんはいらっしゃいますかー?」

 最初、誰のことだろうと思ったが、すぐに先刻の自己紹介を思い出す。細い目をした牧師は外に出ると、礼拝堂の入り口近くにいるであろう男に大声で話しかけた。

「どうされたのですか、東谷さん。またお隣の夫婦が喧嘩でも始めましたか? それとも庭の柿が子供達にでも盗られましたかー?」

 教会に急いで駆け込んでくるから宗教めいた深刻な悩み事かと思えば、どこにでもありそうな世間のごたごたのようだった。

「おお、良かった。雄二さん、今日の夜に公民館でビデオの上映会をやると言ってたでしょう。それなのに、映写機が壊れて動かんのですよー」

「成程、それは大変ですね。分かりました、お役に立てるか分かりませんが、尽力します」

「いつもいつも、すいませんねー」

 礼拝堂から人が去ると直ぐ、牧師は隣の部屋に入り、何やら派手な音を立て始めた。薄い壁一枚隔てて、何が起こっているのだろう。志摩子など、平然とした表情だが実はかなり怯えている。聖も、実は少しだけ怖かったりする。

 音が止むと同時に、万能工具箱らしきものを担いだ牧師が再び姿を表す。

「お客様がいるというのに申し訳ないのですが、私急ぎの用ができたので、少しだけ出かけてきます。三十分ほどで戻ってくると思いますので、ゆっくりしていってください」

 それだけを言い残すと、矢のように教会を飛び出していく。聖は唖然としてその姿が、そして音が消えるまで惚と立ち尽くしていた。

「あー、二人とも心配しなくて良いから」珠子はいつものことだよと言わんばかりに、苦笑してみせる。「私の夫はね、とにかく無類の機械好きなの。そして、名うてのコードスリンガ。まあ、ぶっちゃけ言えば機械修理はお手の物ってやつだよ。隣、見てみるかい? 工具から基盤からPCから、足の踏み場もないほどごろごろしてるから」

「いえ、遠慮しておきます」

 もしうっかり、機械の一つでも壊してしまおうものなら、大変なことになりそうだったので、聖はきっぱりと断った。志摩子も追随し、強く肯く。

 怒涛の流れと共に、穏やかな空気もどこかに逃げていったかのようだった。続いて志摩子が慌てて立ち上がり、ぽんと手を叩く。

「それでは私、カップを片付けてきますね」

 皆、紅茶を飲み終えたのを目ざとく見つけたらしく、志摩子が素早くカップを回収する。聖は声をかけようとしたが、その前にそそくさと部屋を出て行った。

 聖は追うべきか否か迷ったが、結局立ち竦むことしかできない。それを見ていた珠子が、くすくすと笑う。それが故意に神経を逆撫でするものと理解できても、感情は素直に怒りを表していた。

「何か、おかしいところでもありますか?」

 棘のある言葉を相手にぶつける。小さい頃から、聖の得意技だった。どんな人間だって、きつい言葉を浴びせかけられれば不快感の一つも示す。そして、その反応を見ることで聖は落ち着くことができる。ああ、相手も自分と同じだって。どうでも良いことに、醜く腹を立てる種族。自分と……同じ人間だ。

 でも、時折例外が存在する。ベッドに横たわる彼女は不快の一つすら、感じていないようだった。

「可笑しいよ」彼女は、繕うことなく言い切る。「佐藤さんと志摩ちゃんは、いつもああいう感じなのかい? 不器用で、余所余所しくて、それでもお互いを想わずにいられない。何より、似たもの同士だ」

 かつて思っていたことを、彼女が指摘する。しかし、当の聖にはそこまでの確信が持てなくなっていた。やはり、自分と志摩子には大きな断絶が存在するのではないだろうか。そのことを疑問に思い続けているからこそ、問わずにいられなかった。

「どうして、そう思いますか?」

「うーん、確信がある訳じゃないけど。私には貴女も志摩ちゃんも、とても遠い存在に思えるの」

「遠い?」

「そう、とても遠いの。少なくとも志摩ちゃんについては私、ずっとそう思ってきたの。すぐ側にいるのに、時々とても遠くにいるよう錯覚してしまう。いつのまにか、どこにもいなくなってしまいそうで。そして、気が付くと遠い場所を見つめてる。その、深い、深い瞳でね」

 ああ、と聖は心中の声をあげる。彼女もまた、志摩子に所在無い不安を感じてきたのだ。

「音楽にも、それは強く出てた。いや、音楽だからこそそこには言葉にできない本質が現れるの。志摩ちゃんのピアノの腕は、私が教えてきた中でも群を抜いてる。細くて長く、そしてしなやかな動きをする指を巧みに操ってみせる。そうするだけの能力があるの。私が怖いと思うくらいに、綺麗な音を奏でるんだよ。素晴らしいが、私は聴いてて落ち着かなかった。

 彼女の音は、この世のものではないみたいだった。まるで異界の感情で奏でられた、どこか理解し難い響きを含んでいた。まるで、畏怖されるために、何かに迫るために、紡がれていた。誰もが彼女の音楽を誉めるが、求めようとはしなかった。彼女は、音という世界の中でさえ、遠く孤独だったんだ」

 聖には何となく分かるような気がする。志摩子にせがみ、初めてピアノを聴かせてもらった時。聖は曲の終わりと同時に、志摩子が消えていってしまわないか、とても心配になった。光に包まれていた志摩子に感じたのと同じよう、その身をかき抱きたいと思わずにはいられなかった。

 衝動の迸りが、どれだけ自分を惨めにさせたか。そんなこと、思い出したくもない。

「そして……私は、貴女のこともどこか遠くに感じるの。志摩子とは違うけど、貴女はどこか遠いものに恋焦がれているような気がする」

 どこか遠いもの。聖にとって遠いものとは、まるで神聖なもののように微笑む存在だった。そして、日々を慎ましく暮らす全ての人たちだった。全てが、自分から余りにも遠すぎる。

 だからこそ、眩しいのだ。

「佐藤さんは、神様って、信じてる?」

 その問いは、明らかに聖を面食らわせた。彼女が何を意図しているのか、理解できない。

「別に、変な勧誘をしようってわけじゃないの。ただ、純粋に興味がわいただけ。貴女と、志摩ちゃんの求めるものは同じものなのかなって」

 志摩子の求めるものは、信仰というものの先にある遠い存在だ。しかし、聖はそれを左程信じていない。いるかもしれないと思ったことはあっても、畏敬の対象として祈ったことはない。

 だから、素直に首を横に振る。その片隅で聖は、初対面の人間に何故、こうも自分の気持ちを喋っているのか、不思議に思っていた。目の前にいる女性が、巧みに問いかけてくるからだろうか。それとも、今いる建物の力だろうか? 否、単に聞いて欲しかったのだ。自分の気持ちを理解できる人間に、自分でも理解できない気持ちを。志摩子のことを知っている人間なら誰でも良かった、それがたまたま目の前の人物であるというだけだった。

「私は……神様なんて求めていない。ただ、一人だけ側にいてくれれば良い。私の何もかもを分かってくれる人、私が好きでいられる人、それだけで他には何もいらないんだと思う。それはとても……ええ、本当に自分本位な考えなんだろうけど」

「つまり、貴女はただ一つで良いんだね。例えば、藤堂志摩子という女性がいれば、他には何も必要ないと。他には誰も必要にしないと」

 肯きかけ、しかし聖はすんでのところで止める。確かに以前は、そう思っていたし、願っていたし、また望んでもいた。でも、志摩子に同じ気持ちを抱いているのだろうか。自制しているけど心のどこかでは、お互いだけのお互いになることを望んでいるのだろうか。

 それは、何だか違う気がした。志摩子がどう思っているのかは分からないが、少なくとも聖はそんなことを考えていない。単純な馴れ合いという関係では片付けられない。口で説明するにはとても難しいもののように思える。

「志摩子は、私が必要でなくなったら、いなくなっても良いんです。それは、しょうがないのかなって気がします」

 少なくとも、とても悲しいことだろうし、苦痛も伴うに違いない。だが、その日は思うよりも早くやってくるのではないだろうか。聖には、そんな気がしてならない。

「でも、側にいて欲しいと思うなら、志摩子は私の側にいて良いし。私がいなくなれと言っても、志摩子は私の側にいても良いんです。つまりは、そういうことなんでしょう」

「それは、貴女が志摩ちゃんに、側にいて欲しいというわけじゃなく?」

「ええ、私も望むけど、それ以上に志摩子が選択するべきなんです。望むならどのように利用しても良いし、縋っても良いし、相談に乗る事だって厭いはしません。だって……」

 ぐるぐると回る思考の中でその一語を見つけた時。聖はようやく、自分の心に光を見出せたような気がした。自分の言葉が正しいかは分からないけど、胸を張って言うことはできる。

「私は、志摩子の姉ですから」

 聖は、思わず溜息を吐く。たったこれだけのことを口にするのに、自分はそこまで迷わなければならない。言い訳がましく考え込んだり、回りくどい言い方をしなければならない。なんて不器用なのだろう。

「そう。だったら別に私がちょっかいを出す必要もないわけだ」

 彼女は、聖が見ている中で初めて、笑顔らしい表情を引っ込めていた。

 さあ、それはどうだろう。聖は心の中で肩を竦めて見せる。私などに出会わなければ、志摩子はもっと楽に生きられたかもしれない。聖は、子供達を送り迎えしている時に見せた志摩子の悲しそうな顔を思い出す。自分は志摩子にあんな顔をさせることすら、容易にできてしまう。

「出した方が良かったと、後悔するかもしれませんけど」

 思わずぽつりともれでる本音。でも、それはきっぱりと否定される。

「そんなことはない。私、今日久しぶりに志摩ちゃんのピアノを聴いたんだけど」笑顔に戻った珠子が飄々とした様子で聖に語りかける。「以前より雑味があって、揺らいでいたね。音にも精彩を欠くし、迷いがあった」

「それは、下手になったということじゃないですか!」

 何故、そんなことを嬉々として話すのか。どう控え目に解釈しても、志摩子に悪影響を与えているとしか、聖には考えられなかった。

「一面的な見方をすればそうかもしれない。でも、それは音に感情を乗せることを覚えかけているということでもあるんだ。迷い、揺らぎ、そして精彩を欠く己の音色に苦しみ、それでも研鑽を怠ることなく制御できるようになってこそ、音楽はより深く大きくなる。いくら小手先の技術だけが上手くても、それだけでは何も生まれない。心のこもっていない歌詞が、綺麗な言葉を多用していても陳腐であるようにね」

 それが一般論であるかどうかは分からないが、彼女はそう信じているようだった。

「志摩ちゃんは少しずつだけど、近付いてるよ。この愚かしくも傷つきやすく、傷つけやすい人たちの集うこの世界にね。そして、求めるものにも」

 それは反して言えば、向こう側から遠ざかっているということだ。それなのに、近付いているとはどういうことなのだろう。宗教的な問いかけというのは分かり難くて、嫌いだった。

「今のは忘れてもらって良いよ。子供風情で自覚することじゃないし、するべきでもない。もっと年を取り、それでも信仰心を失わないのならば、自然と実感できる。答えを焦ってはいけない。そう、全て答えは焦って出しちゃいけない。とても大切なことよ」

 それは、何よりも自分に向けられている言葉のような気がして。聖は重々しく肯く。確かに、自分にはそんなところがある。早急に答えを出して、頑なに他を排斥する無意識。聖の中に、在りし日の蓉子と栞の姿が蘇る。あの時、答えを決め付けてしまわないで、形のないまま慈しむことができたなら。異なる光景が存在していただろうか。

 いや、と聖は否定する。もしも、ではない。だからこそ、今度は志摩子と一緒に沢山のものを埋めていかなければならない。言葉も形もないものを一杯見つけて、少しずつ色々なものに心を合わせられるようになって。それは全体からすれば、ほんのちっぽけな塊かもしれない。それでも……少しだけ幸せになれるのではないだろうか。

 それが、大切なのだと、聖は思う。

 二人の間に、沈黙がおりる。それは、既に語り尽くしたということを意味していた。そう言えば志摩子、カップの片付けだけにしては遅いな、下に様子を見に行こうかな、と思い始めた頃。

 一仕事を終えたための満足なのか、先程と違い偉く機嫌の良い志摩子が部屋に戻ってきた。必死で隠そうとしているけど、どうしようもなく嬉しくて笑顔にならずいられない……そんな表情だ。元々、考えていることの分かり難い志摩子だが、ここまで謎なのは初めてだった。

「珠子さん、片付け終わりました」

「ん、了解。今日は朝から色々とごくろうさま。宗派も違うのに朝から色々と引っ張りまわしたり、頼んじゃったりして。落ち着かなかったろ、やり方が違うと」

「いえ、子供たちは思いのほか懐いてくれましたし、たまには異なる活動に身を寄せるのも楽しいですから。それに……」

 志摩子は何か言おうとして、口を噤んだ。

「それに……お茶も美味しかった」

「ええ、そうです」志摩子は慌てて言葉を重ね、それが全てであるかのように何度も肯いて見せた。「あれは美味しかったです」

「そうか、ならまた来ると良いよ。何杯でもご馳走するから。それじゃ、これで用は済んだけど志摩ちゃんと佐藤さんはどうする? デートでもして帰るかい?」

 あまりに直裁的な質問を飛ばすものだから、志摩子は遠く離れていても分かるくらいに顔を紅くした。意外と隠し事がきかない様を見て、聖は可笑しくなった。

「成程、よく分かった。夫には私から挨拶しておくから。それと本当にバイト代はいらないの?」

「以前、珠子さんには色々とよくして頂いたのですから、こういう時くらい力にならなければ、それは色々なものに嘘を吐いたことになります。それとも、私を嘘吐きにされたいのですか?」

 少しばかり小首を傾げ、絶妙の笑みを浮かべる志摩子。こうなると、誰も抗えはしない。珠子は見せつけるように激しい溜息を吐き、聖は彼女のらしさに苦笑する。

 と、志摩子の瞳が微笑みのまま僅かに瞬く。

「あの、でしたら一つだけお願いがあるのですけど」志摩子はこれまた妙なことを、ぽつりと呟いた。「懺悔、しても宜しいでしょうか」

 予想外の言葉に珠子は目を瞬かせたが、すぐに左の耳を差し出す。

「私でよければ聞いても良いが、しかし……どんなことかね」

 志摩子は、差し出された耳に顔を近付け、聖には聞こえないほどの小さな声で、幾言か告げる。

 珠子は、神妙な面持ちで志摩子の肩に手を添えた。

「貴女の懺悔の言葉、確かに神が聞き受けました。それはとても重たい罪ですが、悔い改めてこれからの世を全く生きると誓うならば。貴女の罪は許されるでしょう」

 志摩子は跪き、両手を胸の位置で組んで頭を垂れた。そして一言。

「ええ、誓います」

 志摩子は顔をあげ、珠子の笑顔を見ると、小さく頭を下げた。

「ありがとうございます。風邪のほう、お大事になさってくださいね」

「ああ、気をつける。では佐藤さんも。願わくば、また会える日を」

 聖は心ここにあらずといった表情で「ええ」とだけ答えると、部屋を辞した。先を行く志摩子の後に続き、教会の外に出る。時間にしてたかだが三十分足らずだというのに、随分と長く居たような気がする。

 先ほど来た道を戻るようにして、志摩子と二人で歩む道。隣をゆくその姿はやはり、どこか浮かれていて。まるで、数ヶ月分のハッピィを一日で体験できたかのような表情をしている。十分間、ティーカップを洗うだけでどうしてかのような境地に至れるのだろうか?

 カモミールの紅茶が志摩子に妖しく作用してしまったのではと、有り得なさそうな可能性にまで思いを広げてみても、多幸感の原因はつかめない。

「志摩子」気味が悪くなって、聖は思わず尋ねていた。「何で、そんな嬉しそうな顔をしてるんだ? 良いことでもあったのか?」

「ええ」志摩子は即答する。「とても、良いことです」

 聖は思わずむむむ、と声をもらす。志摩子は故意に、曖昧な答え方をした。明らかに焦らしているのだ。何故、私はハッピィなのでしょうか? そう問いかけているのだ。さて、何故だろう?

 もしかしてひょんな偶然から小さい頃、思い焦がれていた憧れの人の存在でも見つけたのだろうか。苛めっ子に追い詰められていた志摩子を救い、日向から影から助けて回った勇敢な男の子の姿は色濃く記憶に残り、そして今日、薔薇が背景に舞うような再会を……。

 馬鹿馬鹿しい。聖は英雄物語的な推測を打ち消すと、志摩子の問いを保留と書かれた脳のフォルダに押し込んだ。答えはあるのかもしれない。けど、焦ってまで求める必要はない……そう思ったからだ。

 また暫し、沈黙が続く。しかし、それは既に居心地の悪いものではなくなっていた。理由は分からないが、志摩子の幸せそうな様子を見ていると、それだけで心が和んだ。これ以上、近付く必要はない。自分と志摩子だけが持つ、穏やかな距離を、噛みしめるようにして歩を進める。

 すると脈絡なく、志摩子が話しかけてみた。

「ほら、お姉さまだって分からないじゃないですか」

 いきなりそんなことを言われても、聖としては驚くくらいしかできない。何が分からないのか問い質そうとする前に、志摩子が予想外の早口でぴしゃりと言い切った。

「私が何を考えているか、全然分かってません」

 志摩子の拗ねたような口調で、ようやく聖にも合点がいった。先刻の意趣返しをされているのだ。そう言えば、謝りの言葉一つかけていないことを思い出し、聖はしどろもどろしながら言葉を紡ぐ。

「悪かった。何も言わないのに、自分の考えていることを分かれなんて、これ以上の傲慢はないというのに。志摩子にそれを押し付けた。許してくれ」

 すると、志摩子は少しだけ考え込み、それから上目遣い気味に聖を伺った。

「では、一つだけお願いがあります」

 お願い。それは、志摩子にしては積極的な言葉で、聖は思わず力を込めて身構える。しかし、志摩子のお願いは本当にちっぽけなものだった。

「折角、偶然に出会えたのですから。その偶然を、もう少し噛みしめてみませんか?」

 それは、もう少し側にいてくれませんかを、最上級に婉曲としたものだった。

 志摩子の捻り出した精一杯の冗句に、聖の顔は思わず綻ぶ。距離を置くべきだと思っているのに、これくらいの些細な申し出が、嬉しかった。口調も自然とおどけてしまう。

「ああ、分かった。どこへでも何なりと、お嬢様」

 ここで、手を差し出そうかと思ったが、それはやめておいた。デートで手を繋ぐ権利くらいは、将来の志摩子の旦那様に残しておこう。そんな殊勝なことを考えたからだ。

 代わりに聖は、前触れもなしに走り出す。駅前には小さなデパートがあったはずだし、繁華街をウインドウショッピングしながら歩き回ることも出来る。都会というのはそのようなスポットに事欠かない。一秒でも早く、一秒でも多く、楽しみたかった。

 最初は慌てていた志摩子だが、それでも笑みを崩さず聖の横をついてくる。そして、絶えそうな息の隙間をぬって、聖に言った。

「私がいなくなれと言っても、お姉さまは私の側にいて良いんですよ」

 その時、聖は志摩子の上機嫌の意味と懺悔の意味を両方同時に悟った。ああ、そういうことか。分かってみれば、簡単なことだ。でも、言葉にしなければ伝わらない。残念なことに、今の気持ちをきちんとまとめる言葉を聖は知らない。そもそも、その気持ちに言葉があるかどうかさえ怪しいものだ。でも、今はそれで良いと思った。

 二人の少女が、馬鹿みたいに道路を全力疾走で駆け抜けていく。

 形のないものを抱えて、それでも。

 明るい道を、進んでいく。

 折りしも今日は全国的な秋晴れの一日。

 絶好の、デート日和だった。

 

 Fin

[TO STORY INDEX] [TO SITE INDEX]