まこぴー事件 解決編

前回までの粗筋
何故か、重傷を負っていたまこぴー。
薄皮を剥ぐように、事件の真相に迫る。
……ということはないでしょう。

何かを閃いた様子の水瀬秋子は、電話を掛けることなく、
再び二階へと上がって行く。
祐一も疑問に思いながら、二階へと上がって行った。

「お母さん、電話は終わったの?」 名雪が尋ねる。
「いえ、警察に電話する必要はありませんよ。これは、そう……不幸な事故ですから」
「事故?」

祐一は驚いて、訊き返した。

「でも、秋子さんだって、誰かに殴られたと思ってたんじゃ」

しかし、秋子は気にする様子もなく、淡々と語り出した。

「最初はそう思ってました。けど、現場の状況を見て、そうじゃないと分かったんです。
 今から、それをお話します」

秋子の言葉に、いつもは騒々しいうぐぅやあうーっも、黙って注目している。

「一体、この場所で何が起こったのでしょうか? 何故、真琴はああなったのでしょうか?
 そして、真琴をあそこまで連れて行った人物は?」
「さあ……あの時は、皆、お酒に酔ってたから」
「そう、ですね。それが、今回の事件が起きた第一の原因とするべきなのです」

秋子の言葉を、祐一は反芻してみた。

「えっと……どういうことなの、秋子さん」

祐一でも合点がいかないのだ、あゆの頭の中では河馬が逆立ちしていることだろう。

「うぐぅ、祐一くん、ひどいよ」
「ちょっと待て、どうして考えていることが分かる、あゆ」
「祐一、口に出して話してたよ……」

祐一の言葉に、呆れた顔で言う名雪。
なおも、怒り足りないあゆ。

「あうーっ、真琴も分からないよ」
「誰も、お前なんかに期待してない、安心しろ」
「祐一には聞いてないっ」

祐一はもう少しからかってやろうかと思ったが、やめた。
何やら横から、秋子の奇妙な波動が伝わって来るからだ。

「話を続けても、良いですか?」

秋子のそんな迫力に、皆が一斉に黙りこむ。
それにしても、微笑みながら、こうも人を圧倒出来るなんて……
改めて凄い人だと祐一は思った。

「みんなが前後不詳、つまり酔っていて記憶や行動があやふやでした。そして、それは多分、
 突拍子のない行動を取らせたりしたでしょう」

祐一は大きく頷いた。
あゆのジャンピング・ショー。
真琴の親父っぽい愚痴の嵐。
けろぴーと会話する名雪。
奇行の嵐だった。

「誰かが真琴を二階に運んで行きました。しかし、真琴を二階に運んで、下に戻れば、
 階段に付いた血を踏む筈ですよね」

確かに……階段には血が点々と付いていたが、踏みにじられたような跡が、
階段やその下の廊下に残っていることはなかった。。

「じゃあ、犯人は二階の窓から逃げたのか?」

祐一が尋ねると、秋子は首を振った。

「いえ、もし、泥棒が入って来たとして、玄関が開いていたのに、
 わざわざ帰りは窓からなんてことは、しないと思いますよ」
「そっか、確かにそうだな」
「でも、だったら真琴を殴り倒した犯人は何処から逃げたの?」

名雪が、秋子の言葉に口を挟む。
二階の窓から逃げるような手間はしないと言ったが、では、階段を通らずに、
犯人はどうやって下に降りたのか……それが祐一もわからなかった。

「逃げる必要はありませんよ。真琴を運んだ人間は、ずっと二階にいたんですから。
 つまり、真琴を運んだのは、真琴が見付かった時、二階にいた人間……」

ずっと、二階にいた人間。
その言葉が、祐一の頭に染み渡るまで、大分時間が掛かった。

「つまり、真琴を二階まで運んだのは名雪です」
「ちょ、ちょっと待ってよ。わたしがやったの?」

秋子の意外な指摘に、指摘された本人である名雪でさえ、心底驚いている。
勿論、あゆや真琴もだ。

「でも、名雪に真琴をぼこぼこにするような動機なんてないですよ」
「そうだよ、お母さん。わたし、真琴にそんなひどいことしないよ」

祐一と名雪が続けて言う。

「普通ならそうでしょうね。でも、お酒が入ったら、人は何をするか分からないのよ。
 名雪……昨晩は、酔ってけろぴーに話しかけてたでしょう?」
「うーっ、覚えてないよ」
「俺も見てたぞ、その場面は」
「真琴は覚えてないよぅ」
「ボクもだよ」

どうも、騒がしいのが沢山いて、意見がまとまらない。
秋子は強引に押しきると、話を続けた。

「名雪、ところでけろぴーは二階に持って上がったかしら」
「えっと、確か持って上がったような……でも、部屋にはなかったし。
 それで、探しに部屋を出たら、真琴が廊下に……」
「あっ、そうか」

祐一はその時、秋子が何を言いたいのか分かった。
つまりは……。

「名雪、真琴の奴をけろぴーと間違って、引きずりながら運んで行ったんですね」
「そうです」

秋子は、良く出来ましたというような笑みを祐一に向けた。

「そして、運んで行く途中で、階段に頭をぶつけ、それで血が出たんです。
 もし殴られたなら、二階の他にももう一箇所、血溜まりがないとおかしいですから。
 でも、そう考えれば、不自然さも解決できます」

極めて妥当な考えだと、祐一は思う。
しかし、名雪はまだ納得していないようだった。

「でもわたし、片手で真琴をひきずっていけるほど、力は無いよ」
「片手じゃなく、両手で引きずって行ったかもしれません。それに、お酒を飲むと、
 人によってはいつも以上の力が出る人もいますから……」

秋子の言葉に、名雪もようやく納得したようだった。

「全ては、偶然が積み重なった事故だったわけか。
 まあ、誰も不幸な目には合わなかったわけだし……」
「真琴は不幸よっ!!」

〆にかかろうとしていた祐一に、真琴は怒鳴り声を浴びせた。
その後、真琴を宥めるのに、肉まんを十個奢らされる羽目になったが、
それはこの事件とは関係の無いことだった……。

まあ、真琴は名雪のことをすぐに許したし、
(祐一が同じことをやったら、あれの百倍の謝罪が必要だろう)
この事件で家族関係がぎくしゃくするようなことはなかった。

この事件で変わったことといえば、水瀬家では酒が完全御法度になったこと、
そして、真琴があれから蛙のパジャマを着なくなったということである。


あとがきだよもん

予告したように、まともな解答ではありませんでしたね……あははーっ。
それにも関わらず、正解した人物が一人いました。
細雪さん、あんたは凄い。

それでは、次回(多分ないと思いますが)で、
またお会いしましょう〜。

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