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この話は、マルチサイトです。一人の話を見ただけでは、全ての背後関係は分かりません。

 

「相当、無理しないと駄目ですけど……」

(「ONE〜輝く季節へ〜」より引用)

水瀬家の食卓 北川篇

何故、こんなことになったんだ?

俺は心の中で自問していた。確か祐一が、

『今度、うちで鍋物のパーティがあるんだけど、北川も来ないか?』

確か、そんな感じだったような気がする。

最初はまっとうな話だった筈だ。

それなのに何故、闇鍋なんてことになったのだろうか。

闇鍋、古来より伝わる最恐の鍋物として、語り継がれている、伝説の鍋だ。

と、何処かの本で読んだことがあるような気がする。

とにかく闇鍋において、気を付けなければいけないこと。

それは言うまでもなく、毒物の混入だ。

この中で毒物を混入しそうな人物は、そう思い、俺は辺りを見回した。

そして、一人の人物に目を付ける。

相沢祐一、こいつは絶対に毒物混入という手段を取ることだろう。

こいつからは、離れなくてはならない。

俺は本能的にそう思った。

「皆さん、出来ましたよ」

秋子さんの声が聞こえる。鍋に満たされた黄金色の出汁は、良い匂いを漂わせていた。

しかし、食材(或いは贖罪)が投入された後も、そうかどうかは分からない。

ただ祈るのみ。

そして電気が消される。

食材が投入される音に、俺は戦慄が走った。

どくん、どくん、心臓が波打つ。

何かが起こる、そう俺の魂が警告を発していた。

しかし、逃げることは出来ない。

俺は……漢じゃけえのう。

何故か広島弁だったが、気にしない。

俺は意を決して、食材を取り出した。

細長く赤い色のそれを、俺は密かに祐一の方へと箸で流した。

(食え、そして悶絶するが良いわ)

脇役の執念、思い知らせてやる……そんなことを俺は思うのだった。

鍋が閉じられて、瓦斯焜炉に火が灯されて数分、再び鍋の蓋が開けられた。

そこから漂う空気は……先程までの良い匂いが嘘のような強烈な臭気を放っていた。

「うぐぅ、へんなにおい〜」

「あうーーっ、何よこれ」

「……この臭い、嫌い」

幾つかの声が、闇の奥から聞こえる。

「計画通りですね」

隣に座っている秋子さんは、そんなことを呟いた。

俺はその意味を理解できなかった。

まさか、毒物を混入したのか?

いや、そんな性格には思えなかったが……。

「合図をしたら、鍋に箸を入れて具を掴んで下さい」

秋子さんの合図で、一斉に箸を動かす俺たち。

その中で俺は、何かを箸で掴んだ。

それは非常に固い物体だ。まるで金属のような……。

まさか相沢、非食物を投入したのか?

しかし、一度箸で掴んだものは、口に含まなくてはいけない。

俺は意を決して、その物体を口の中に入れた。

ガキン。

どう考えても、それは鉄で出来ている。

しかも表面には、ぬるっとした半液体のものがこびりついていた。

それがまた、出汁と混ざって最悪のハーモニィを醸し出している。

俺は相沢に殺意を抱いた。

それは、目覚し時計だったからだ。

「無理をすれば、食べられないこともないです」

その時、俺の耳にそんな台詞が聞こえて来た。

目の前が、雨の日の空き地へとその姿を変えていく。

寂しそうに佇む、ピンクの傘の少女。

切なそうに、呟く。

そうか、俺にこれを食えと言うのだな。

ああ、食わせて貰うとも。あなたが望むなら。

「無理すれば、食べれないこともありません……だって? あかね〜〜〜〜っ!!」

俺は叫んだ。そして目覚し時計を再びかじる。

歯の欠ける音って、こんな音がするんだな……。

ああ、エイエソの世界に……。

北川篇 終了


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