水瀬家の食卓 名雪篇

「はふん…残酷過ぎるよお」

(「ONE〜輝く季節へ〜」より引用)

今日は、Kanonキャラが皆で集まって闇鍋をやるらしい。

祐一にKanonキャラって何? って聞いたら、名雪は深く知らないでいいって祐一が言った。

でも……香里や北川くんはいいとして、どうしてこんなに女の子が多いのかな?

もしかして、祐一って浮気者なの?

そんなことを考えていると、

『シナリオの都合上ですよ』

そうお母さんは話してくれた。

『でも、シナリオって何?』

『……企業秘密です』

こうしてわたしたちは、鍋を囲んで座っているのだった。

 

台所から、お母さんの声が聞こえて来た。

「皆さん、出来ましたよ」

テーブルの中央に置かれた鍋からは、良い匂いが漂って来ている。

お腹がきゅるきゅるとなる。

だれかに聞こえなかったかな、と思って辺りを見回したけど、大丈夫なようだった。

ほっと、息を吐き出す。

そんなことを考えていると、部屋の電気が消された。

緊張する。

それは部屋が暗くなったから?

それとも?

取りあえず、わたしは食材を取り出した。

まえまえから思ってたんだ。

なんで鍋にイチゴを入れないんだろうって。

だからわたしは、用意しておいたイチゴを何個か、鍋に入れた。

ぽちゃぽちゃと、音がし、しばらくして鍋の蓋が閉じられる。

それから数分、鍋の蓋が開けられた。

しかし鍋から漂って来る匂いは、俄かに信じられないようなものだった。

「うぐぅ、へんなにおい〜」

「あうーーっ、何よこれ」

「……この臭い、嫌い」

そんな声が、色々な場所から聞こえて来る。

この匂いは……大丈夫なのかな?

わたしは心の中で呟いた。

 

お母さんの合図で一斉に箸を入れるわたしたち。

わたしが最初に掴んだのは、どうやらお肉のようだった。

口の中にいれて見ると、下味の付いた美味しい牛肉だった。

「おいしいよ〜、お肉」

わたしがそれを味わっていると、

「……人類の、敵です」

「無理すれば、食べれないこともありません……だって? あかね〜〜〜〜っ!!」

そんな声が聞こえて来た。

……よく分からない言葉だったけど、何となくわたしの予感が告げていた。

アノフタリハモウオワリダ。

ま、まさかね、そんなことはないよね。

わたしは心の中で呟く。

「うぐぅ、あったかいイチゴ……」

「……卵」

「あう〜〜っ、梅干し……」

「……紅生姜?」

それから聞こえて来る声は普通だったので、わたしは安心した。

そして多少緊張しながらも、次の具材を箸で掴んだ。

ずるっ、べちゃっ。

箸で掴んだそれは、具材にしては妙に大きい形をしたものだった。

表面には暖かそうな毛が生えていて、まるで猫さんみたいな……。

その考えにはっとしたわたしは、箸で掴んだものを恐る恐る触ってみた。

ふさふさの毛は鍋の汁を吸い込んでべちゃべちゃ。

でも、姿形は猫さんだった。

だ、誰かが猫さんをいれたの〜?

わたしは震えた。

恐くて震えた。

「ふふ、ふははははははははははは、あはははははははははっ……」

その時、突然祐一の笑い声が聞こえた。

まさか、祐一が入れたの?

いや、そんなことは無いよね。

祐一に限ってそんなことは……。

第一、暗闇だから何も見えないし。

「キョウジ兄さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

その時、今度はあゆちゃんの叫び声が聞こえた。

何? 何が起こってるの?

怖いよ〜。

恐怖と恐怖の板挟みに、わたしは震えていた。

その時、そんな気配を察したのか、お母さんの口が開いた。

「名雪、一度箸で掴んだものは口にいれないといけないんですよ」

お母さんの声。

笑ってる?

猫さんを口に入れる、食べちゃうの?

わたし…わたし…

暗闇の狂気の中で、わたしの恐怖心は限界に達した。

「ニンニンネコピョーン」

ワタシハサケンダ。

キョウフデサケンダ。

ソシテ、ワタシハドコカデサケビゴエト、

「ソレワゲームガチガイマスヨ」

トイウコエヲキイタンダ。

 

名雪篇 終了


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