水瀬家の食卓 真琴篇

「あたしは妖怪かっ」

(「ONE〜輝く季節へ〜」より引用)

あたしは部屋の中で一人ほくそえんでいた。

何故かというと、今日は闇鍋というものをやるから。

闇鍋というのは……もう何処かで説明があっただろうから省略。

祐一、見てなさいよ。

今までの恨み、全部返してやるんだから。

 

台所から、秋子さんの声が聞こえて来た。

「皆さん、出来ましたよ」

テーブルの中央に置かれた鍋からは、良い匂いが漂って来ている。

あたしは涎が出て来るのを、咄嗟に袖でぬぐった。

美味しそうな匂い。

そんなことを考える間もなく、電気が消された。

するとすぐに、あたしは隠し持っていたものを全て取り出した。

祐一の部屋から持って来た目覚し時計。

ぬいぐるみ。

何処かで拾った茸。

同じく、何処かで拾った小瓶(表面にはS・Kと書かれてある)

そして肉まん。

それらを適当に、箸で混ぜた。

祐一の方に行ったかは、暗くて良く分からない。

でも、一つは当たるだろう。

そう思うと、自然に笑い声が出るのを必死に抑える。

(これで祐一もおわりね)

それから数分、鍋の蓋が開けられた。

しかしその匂いは、凶悪そのものだった。

「あうーーっ、何よこれ」

思わずあたしは叫んだ。この匂いはアブないわよ……何かの本能がそう告げていた。

「うぐぅ、へんなにおい〜」

「……この臭い、嫌い」

そんな声が、色々な場所から聞こえて来る。

やっぱり、色々いれすぎたかな?

あたしはちょっと反省した。

「合図をしたら、鍋に箸を入れて具を掴んで下さい」

秋子さんの合図で、真琴はそーっと箸を入れた。

少し苦戦したが、やがて何かを掴み取ることが出来た。その時、

「……人類の、敵です」

「無理すれば、食べれないこともありません……だって? あかね〜〜〜〜っ!!」

あたしは何か聞いてはいけないものを聞いてしまった気がした。

「うぐぅ、あったかいイチゴ……」

「おいしいよ〜、お肉」

「……卵」

色々な声が聞こえる。

けど祐一の声はない。どうやら外れのようだ。

今度こそは……そんなことを考えながら、掴んだものを口に運ぶと、

「あう〜〜っ、梅干し……」

出汁を吸った梅干しは、凶悪にまずかった。

 

そして二度目。

あたしは再び、梅干しらしきものを掴んでしまった。

辺りを見まわす。

そうよね、こんな真っ暗なんだから何も見えないわよ。

そう思い、掴んだものを鍋に戻そうとした時……。

「ふふ、ふははははははははははは、あはははははははははっ……」

突然、祐一の笑い声が辺りに響き渡った。

もしかして、ばれたの?

そう思って、あたしは鍋に伸びた手を咄嗟に引っ込めた。

「キョウジ兄さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

すると別の人が、妙なことを叫ぶ。

何? 何が起こってるの?

あたしは、身の毛もよだつほどの強烈な気を感じた。

「ニンニンネコピョーン」

今度は名雪の叫び声がする。

変、何かが変だ。

「ボクのこの手が……省略、ゴッドフィンガー〜〜〜〜」

先程の人の声で、そんな叫び声。

途端、髪の毛がとんでもない力で鷲掴みにされた。

「ぎゃ〜〜〜〜〜〜っ」

理不尽な攻撃に、あたしは思わず声をあげてしまう。

必死に振りほどこうとするが、力が強くて振りほどくことが出来ない。

みしみしぃっ……髪の毛が悲鳴をあげる。やがて……

「ひいいいいいいと、えんどおおおおお」

その叫び声と同時に、ぶちぶちぃっ……と何かがちぎれる音がした。

あたしは声にならない声をあげて……。

そのまま、奈落の底へと落ちて行った。

 

真琴篇 終了


あとがきだよもん

強烈に馬鹿っぽい電波を感じられる作品……としか、私にも言えません。

多分、続きます。

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