−1−

蛍光灯の光すらなき無明の闇の中。

ただ、蝋燭(ろうそく)だけが呪術的な幻燈(げんとう)を煌かせていた。

「わあ、結構本格的ですね〜」

「うぐぅ、恐いよぅ」

「わあ、何だか怪奇ドラマみたいでどきどきします」

「あうーっ、何も見えないよぅ」

そんな闇を掻き消すような、妙に甘く騒がしい声、声、声。

誰が誰かは……言わなくても分かるだろう。

「じゃあ、そろそろ始めるぞ」

この怪の主役である相沢祐一という少年が、蝋燭を両頭に装着し、細い声で言った。

あゆやまこぴぃなどはその姿を見た途端に脅えだす。

それはまるで、怪しげな呪術をかけようとする祭器の主のようだった。

「ふーん、祐一ってそういう格好も似合うね」

「元がギャグキャラだからな」

「言えてるわね」

暗闇から漏れる、呑気な声、声、声。

やはり、誰の言葉かは言わずとも分かるであろう。

「ふふ、こういうのって年がいもなくどきどきしますね」

一人の声が聞こえる。

ちなみに、闇の中に埋もれている者が約二名。

天野と川澄という、物の怪と近しい世界に存在する者たちだ。

彼女たちは闇の中に佇んでこそ、真の存在感を発揮していた。

声も無き夜の住人……そんな言葉がぴったりだ。

総勢十一名が、水瀬家のダイニングに集まっていた。

以前にもこういうことがあったような気もするが……それを蒸し返すのは野暮だろう。

−2−

物事には皆、発端というものがある。

今回の集まりの発端は、月宮うぐぅという少女が稲○某の半ばマンネリ化した語り口に心底脅えているのを、相沢祐一という少年が面白そうに見ていたことにあった。

うぐぅをからかうという本能を持っているこの男が、実際に水瀬家で怪奇話をしようと思い立つのに時間は掛からなかった。

こうして家主である水瀬秋子の『了承』を得て、今日のこの怪が実現したというわけである。

当日、うぐぅは文句を言っていたが、半ば強引に押し切った。

こうして何故か総勢、十一名にも膨らんでいたメンバによる恐怖話の怪が開こうとしていた……。

「こういう話をすると、霊が集まるっていいますよね……ふふふ」

「うぐぅーーーーーーーーーっ」

何気ない秋子さんの一言が、うぐぅの恐怖心に油を注ぐ。

この人はたまに分かっててやってるんじゃないかと、祐一は思う。

あゆ(可哀想だから、本名に戻そう)は脅えるが余り、祐一の右腕をぐっと手に取り、体を思いきりすりよせていた。

その感触が気持ち良くて一瞬変な気分になったが、すぐに思い直す。

今日は、恐怖と悪夢との晩餐なのだ。

「では、そろそろ始めようと思うが……」

なるべく荘厳な雰囲気を出したつもりだったが、あゆが右腕に貼り付いていてはその効果も半減だ。

予め、くじによって順番は決められている。

その一番手はわざとらしく咳をして見せた後、芝居じみた声を出した。

「では……私が最初ですね」

氷のように冷たい声は、いつもの彼女からは考えられないものだった。

そう……この場に似つかわぬ冷厳なる空気が、徐々にこの場を支配しだしたことに。

まだ、誰も気付くものはいなかった……。


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