第七話 白夜の如き長い夜(後編)

祐一は明かりのスイッチを付けた。ぱちぱちっと弾けるような音が数度して、明るさに包まれる。それから舞を部屋に招き入れた。

祐一はベッドのシーツの皺をお座なりに伸ばすと、舞に向けて一言。

「まっ、適当に座って良いから」

舞は無言で頷くと、ベッドの端の方に腰掛ける。祐一も少し離れて隣に座った。

そのまま音が途切れる。

途切れた音は、風の音や時計の動く音に変換される。

つまり動きがなかった。

こういう時、何を話していいか分からなかったし、舞は勿論知らないだろう。

緊張する。

音すらも消失する。

「……祐一」

舞の突然の言葉に、祐一は僅かに体を震わせた。

「な、何だ?」

「……眠いのか?」

舞は沈黙のわけを、祐一が眠いからだと考えていたらしい。

「いや、そういうわけじゃないけど。舞は何か話したいことはあるのか?」

「……私たち、どうなるんだろう」

「どうなるって?」

「……人が死んだ」

「まあ、そうだけど……」

「……恐くないか?」

恐い……確かに得体も素性も知れない殺人者がこの中に混じっているかもしれないのだ。恐いわけは無い。けど同時に、現実感というのが極めて希薄だ。

まるでドラマの一シーンを演じているような感じだ。よくテレビであるサスペンス・ドラマのように……。

けど……祐一は平瀬峰子の部屋で見た死体のことを思わず思い返した。どんよりとした目、生気の無い肉体、血、胸に刺さったナイフ、鼻にこびりつくような臭い。吐き気を催すような光景だった。

あれは全て現実なのだ……そう思うと、俄かに悪寒が体の中を駆け巡るのが分かる。

「正直言うと、少し」

祐一はそこまで考えてから、正直に答えた。嘘を付く気にもならなかったし、つく必要もなかったからだ。

「……私はとても恐い」

「ふーん、とても魔物を追い駆けていたなんて思えない台詞だな」

「……あれとは違う。それに襲われるのは恐くない」

舞はぼそりと答えた。縋るような目で祐一を見ている。

「……恐いのは死。人の死。特に佐祐理や祐一の死」

「舞……」

「……祐一は死んだりしない?」

死んだりしない? 舞の言葉。人はいつか死ぬだろう。歳を取れば必ず死んでしまう。けど、そんなことを今の舞に言う必要はない、そう祐一は思った。

「ああ、俺も、佐祐理さんも、ずっと、舞と一緒だ。三人で、ずっと」

祐一は舞の目を見ると、言い聞かせるように言った。

舞は僅かに瞬きする。

不安の色は消えていた。

「……ありがとう」

舞はあいも変わらず、淡々とした口調で答える。

「舞、少しは落ち付いたか?」

「……落ち付いた」

「そうか、よしよし……」

祐一は手を伸ばすと、舞の頭をごしごしと撫でてやった。何となく、そうしたかったのだ。舞は薄目を開けて、最初は鬱陶しそうにしていたが、最後には気持ち良さそうにしていた。

そんな子供っぽい舞が可笑しくて、祐一は忍び笑いを漏らした。

「……何が可笑しい?」

「いや、何でもないって」

祐一は手を離すと言葉を濁した。舞のことだから、子供じゃないなんて言ってくると思ったからだ。

「じゃあ、もう眠れるか?」

舞はこくりと頷くと、布団にくるまった。この部屋の布団に……だ。祐一は最初、何をしているのか判別できなかった。しかしその行為の意味に気が付くと、

「舞、何をしてるんだ?」

「……今日はここで寝る」

「じゃあ、俺は何処で寝ろと?」

「……ここで寝れば良い」

舞の余りに無防備な言葉に、祐一は大きく息を付かずにいられなかった。それをしたいのはやまやまだが、男としてそれをしてはならないことも同時に祐一は知っている。

人というのは複雑なものだ。

「そういうわけにも行かないだろ。じゃあ俺は舞の部屋で……」

祐一が言う途中で、舞が服の裾を掴んだ。

「……祐一、行かないで欲しい」

また恋愛ドラマではお決まりのような台詞。しかし舞の場合、純粋に一人になるのが恐いのだろう。初めて会った時には想像もつかないであろう、舞の部分。

「分かった分かった、だからそんなに引っ張るなって」

舞のしなやかな手は、しかし物凄い力で服を握っている。多分握力比べなんかしたら、数秒で握り潰されるだろう……そう祐一は思う。

だが握り締める手と腕の隙間から漏れるパジャマの柄は、間違いなく年頃の女の子、いや、それよりは幼いというべきだろう。動物の柄の入った薄い色、動物好きな舞らしい。

とはいえ、幾らベッドがセミダブルほどの大きさがあり作りもしっかりとしているとはいえ、別の問題がある。理性が耐え得るか……祐一は3:7で負けると考えた。

舞は目を僅かに潤ませて祐一をじっと見ている。その表情を見て2:8に下方修正する。というか、その顔は祐一にとって反則だった。

「じゃあ、俺は床に寝るから。それならいいだろ?」

「……祐一も一緒で良いのに」

祐一は舞の有り難い言葉を丁重に断った。そしてベッドから布団を一枚引っ張り出すと、フローリングの床に直寝した。クッションも何もない床は、接触した部分がすぐに痛くなる。その度に寝返りを打ったり、元々興奮していた(色々な意味で)こともあって、全く眠れない。

ベッドの方を見上げると、やはり眠れないのか目を開いた舞と顔が合う。

「……祐一、背中痛くないか?」

「物凄く痛い」

「……だからベッドで寝れば良いのに」

「そういうわけには行かないんだ」

「……何故?」

それを言えというのか? 祐一は心の中で叫んだ。

「いいか舞、男というのはどんなに優しい奴でも本性は狼なんだ」

「……祐一、狼なの?」

「そう、で舞は羊」

「……ひつじさん?」

「そうだ、分かるか?」

祐一の言葉に、舞はクエスチョンマークを一杯にしたような顔をしていた。

「……人形劇でもやるのか?」

祐一はずっこけて頭を床にぶつけた。

「もういい。つまりはだ、そう、如何わしいことをしたい気分になるってことだ」

もうどうでも良いと思い、単刀直入にいう。言葉を下手に濁しても、舞には伝わらないと思ったからだ。

「……祐一の変態」

「今更言うな!!」

祐一は思わず声をあげていた。舞との会話がこんな空回りをするのはいつものことだったが、ここまでずれていると大声でつっこみたくもなる。

「……それで、どうするの?」

「どうするって?」

「……床で寝るの? ベッドで寝るの?」

祐一は思わず唾を噴き出した。

「……汚い」

舞が言うが、そんなことは殆ど頭には残らなかった。それはつまり、それはつまり、であるからしてつまりは……頭が混乱して、そんな思考がループを形作る。

Ctrl+Cで強制停止すると共に、祐一の顔が俄かに熱くなるのを感じた。

思考が暴走すると、人も熱を発する。

「じゃあ……」

既に思考の半分吹っ飛んだ祐一が腰を上げた。

コンコン。

僅かに何かを叩く音が、ここまで聞こえて来た。

祐一は無粋な邪魔者(と同時に、完全にその気になっていた自分を心の拳骨で叩きながら)の出現に、ベッドに突っ伏してしまう。そして柔らかい感触。

顔を埋めたのは、舞の胸だった。

時だけが自然に流れる。あとは不自然だった。

コンコン。

二度目の音がして、ようやく時以外が正常に流れ始める。

思考、羞恥心、その他諸々。

「うわっ、舞、ごめん。その……ごめん」

「……廊下から音がする」

会話が噛み合っていない。舞にとって自分の胸に顔を埋めたことなど些細なことなのだろうか……一瞬そんなことを考えたが、すぐに振り払った。

今は廊下にいる何者かの姿を確認することが先だ、そう自分に言い聞かせた。

ドアを開けて廊下の様子を見る。そこには舞の部屋のドアをノックしている五反田成海の姿があった。

「五反田さん、そんな所で何やってるんですか?」

彼女はそれに答えずに、顔を歪めてこっちにやって来た。

「相沢くん、川澄さんの部屋から反応がないんだけど」

「ああ、舞なら俺の部屋……」

祐一はそこまで言って、口を噤んだ。しまったという感情が、体の表面まで溢れる。

案の定成海は、先程までの不安そうな表情を一転させて好色そうな笑みを見せた。

「ふーん、川澄さんと一緒ねえ。こんな時にお二人で一体、何をやらかすつもりだったんでしょうね〜」

「いやそういうわけじゃなくて、恐いからちょっと話し相手になってくれと言われただけで……」

もう十分遅ければ、そんな言い訳は利かなかったかもしれないが……。

今の段階では、それは嘘ではない。

「それより五反田さんこそ、何やってるんですか?」

「あっ、それは〜……何か目が冴えて眠れなかったから、彼女に話し相手になってもらおうかなって思って。本当は倉田さんにしようかと思ったけど、彼女凄く眠たそうだったから起こすの悪いなと思って。あ、中入って良い?」

成海は断ることも無く、するりと中に入っていった。祐一も慌てて後を追う。

「こんばんはー、川澄さん」

例によって明るい声で舞に声をかける。

「……こんばんは」

舞の口調には、戸惑っているような様子はどこにもない。すると先程の言葉の意味は、やはり深い意味などなかったのか……祐一は頭を掻き回しながらそんなことを考える。

「あら、意外と動揺しないのね……」

舞の反応は彼女にとっては予想外だったのだろう。少しがっかりとした口調だった。

「なんか、テンション高いですね」

祐一が茶々をいれると、成海は鋭い目でこちらを見た。

「そりゃ、こんな決定的瞬間を捉えればね」

出刃亀で興奮するなんておばさんくさいと思ったが、それは口には出さなかった。そうしない方が人間関係が円滑になる場合だってある。

「それより何か話をしましょう。何か話はある?」

しかし、いきなりそんなことを言われても話題がすぐに沸いて来るわけではない。話題とは考え付くものではなく、涌き出るものだからだ。

祐一は頭を捻って一つだけ話題を掘り当てた。

「そう言えばトランプやってる時に五反田さんの職業のことは話題になりませんでしたけど、どんなことをやってるんですか?」

「良い質問ね。前にも話したけど私の場合はSE、つまりサウンド・エフェクタ、効果音作成係って所。人を殴る音とか、衝突音とかそんなの。バキッとかガッシャーンとか、ゲームでもあるでしょう?」

「へえ、そういうの作るの担当っているんですね」

「ええ、本当はBGMとかもやりたいけど今は下っ端。まあ技術だってまだまだだし、仕方ないってところはあるけど、将来的にはね、うん、綺麗な色のBGMを自分で作ってみたい」

「綺麗な色?」

音に色彩的な表現と言うのは、些か不思議な感じがした。

「私の場合ね、音楽が色として入ってくるんだ。例えばドは浅い青って具合。こういう感覚の持ち主って結構いるらしいけど。私、絵のように綺麗な曲を聴くのが好きなの」

「それって絶対音感ってやつですか?」

「えっと、それとは違うな……」

成海は手を何度か振ると、考え込むような仕草を見せた。

「絶対音感っていうのはね、例えば机をコンコンって叩いてみると、それがすぐに音階として浮かんで来る人。端的に言えばそうね。私はそこまで音に対して鋭くないから。でも人とは違う音の見え方が出来るってことが結局、音楽に携わる仕事に就いた第一の理由」

「じゃあ、なんでゲーム・ミュージックなんですか? もっと別の分野にだって、音楽を必要とするものって一杯あると思いますけど」

「……なんか、面接官みたいなこと訊くのね」

「あ、すいません……」

成海にそう言われて、祐一は僅かに顔を伏せた。そんなことを言うからには、実際に聞かれたことがあるのだろう。

「そうね、一番綺麗な曲がゲームの曲だったから、かな」

彼女はそういって微笑して見せた。

「成程、結構考えてるんですね」

「結構とは失敬ね。まあ普段、余り考えているわけじゃないんだけどね」

「じゃあ、舞と一緒みたいなもんだ」

祐一はちらりと舞の方を見た。

「……そんなことない」 舞が案の定反応する。

「あら、彼女は賢そうな顔してるけど」

「そうですか?」

成海に言われて、祐一は舞の顔をまじまじと見た。

「……祐一、ジロジロ見すぎ」

その言葉と共に、舞のチョップ。照れ隠しが入っていたのか、いつも以上の威力だった。

「いてえっ……予告もなしにやるな」

祐一は声をあげる。そんな様子を見て成海は、必死に腹を抑えている。

「あはははっ、やっぱりあなたたちって面白いわ。お似合いって感じ、倉田さんには悪いけど」

「どうしてそこで佐祐理さんのことが出て来るんですか」

祐一が大声で言う。

「だって、彼女も相沢くんのこと好きなんでしょう?」

成海の言葉に、祐一はまたもや噴き出した。

「汚いわねえ……そんなに意外?」

「意外って……あ、まあ、そうでもないか」

佐祐理の好きというのは、愛情ではあるがそれとも違う。好きだと言う言葉に、なんら意味を含ませていない、純粋な好き。佐祐理らしい好きなのだと、祐一は思う。

「ふーん、自覚はしてるんだ、この色男」

成海は肘で祐一を小突いた。それから大きく欠伸をする。

「笑ったら眠くなって来たみたい。じゃあ少しだけど、付き合ってくれて有り難う。もう邪魔はしないから、戸締りはちゃんとするのよ、最中に襲われるなんてホラー映画の馬鹿共のようにはならぬように、では」

そう言って二人にウインクを浴びせると、成海は呆然とする祐一と舞を残して去って行った。

あとには二人が残される。

「……どういう意味?」

「さあ」 祐一はとぼけてみせた。

「……で、どうする。もう寝るか?」

「ああ、そうだな」

固いフローリングの床で、と祐一は心の中で付け加えた。祐一は戸締りをしてクロゼットで支えにすると、床に寝転がった。木の感触は祐一に容赦無い。

たださっきの話で緊張もほぐれたのか、今度は割とすっぱり眠りに付くことが出来た。

 

その筈なのだが、祐一は再び目が覚めてしまった。

時計を見ると、時刻は夜中の四時過ぎ。

ベッドの方を見ると、舞はすうすうと気持ち良さそうな寝息を立てていた。祐一は上体を起こすと、背筋を目一杯伸ばす。それからしばらく、何もすることも考えることもなく、ただ虚空を眺めていた。

祐一は窓に注目した。音がしない。

カーテンをそっと開けて窓を見てみると、雪はその勢力を完全に弱めていた。今はちらつく程度の量しか降っていない。その様子をみて祐一は安心した。これなら復旧作業も早く進む筈だろう……この時はそう思った。

祐一はカーテンを閉めると、寝床へと戻ろうとした。そこへ三度、

コンコン。

ノックの訪問者。

祐一は溜息を付く。

祐一はクロゼットをどけるとドアを開けた。

「あっ、起こしちゃいましたか?」

ドアの前に立っていたのは佐祐理だった。高そうな生地を使ったネグリジェを身に纏っており、恐縮するような表情で祐一を見ている。

「いや、俺も丁度眠れなかった所。佐祐理さんも眠れないのか?」

「ええ、ふと目が覚めてしまって……でも、もって言うのは?」

「まあ、中に入れば分かるって」

祐一はそう言うと、佐祐理を部屋の中に招き入れた。彼女は最初、不思議そうな顔をしていたが、ベッドで寝入っている舞の姿を見ると、片手を口に当てた。

「はえーーっ、もしかして佐祐理はお邪魔でしたか」

「違う違う、舞、一人で寝るのが恐いから一緒にいてくれだって尋ねてきてな。全く、大人びた表情してるのに子供っぽいんだから」

「ふえ、じゃあ佐祐理も子供ですね」

祐一の言葉に、佐祐理は少し嬉しそうな顔をした。

「えっ、じゃあ佐祐理さんも?」

祐一は驚きの声をあげた。

「目が覚めてみたら急に不安になったんです、舞や祐一さんは大丈夫かって。それでいてもたってもいられなくて……でもよく考えてみれば迷惑でしたよね」

「いや、そんなことはないって。心配になってわざわざ尋ねて来てくれたんだろう?」

少し寂しそうな顔をする佐祐理に祐一は言った。

「そういって貰えると助かります」

佐祐理は控え目な微笑を浮かべると、舞の方に目をやった。

「それにしてもよく眠ってますね、舞」

「ああ、寝る子は育つっていう諺は嘘じゃないようだな」

「そうですね」 佐祐理が両手を合わせる。

「じゃあ俺はもう少し寝るけど佐祐理さんは?」

「えっと……じゃあ佐祐理もここで眠っていいですか?」

少し上目遣いに祐一を見る佐祐理。

「じゃあ、舞の隣にでも寝てくれよ。俺は床で寝るから」

「三人で一緒には寝ないんですか?」

「遠慮しとく」

祐一はきっぱりと言った。理由はいわずもがなだ。

「そうですか……いきなり押しかけてすいません」

「いや、いいって。俺、床で寝るのは慣れてるから」

それは嘘だったが、佐祐理に気を遣わすのは何となく気が退けてそんなことを言った。

「ではーっ、お休みなさい」

「お休み、佐祐理さん」

佐祐理と挨拶を交わすと、彼女は舞の横にするりと入り込んだ。

祐一は二人が眠るのを確認してから、目を瞑る。

今度は驚くほど、素直に眠りに入ることが出来た。

 

何かの音が聞こえる。

まるで腹の底に響いて来るような、太鼓の音。

誰だ、朝っぱらから思いきり太鼓なんて鳴らしているやつは。

祐一はそう思い、出元を一所懸命に探す。

今度は地震まで来たようだ。

激しい震動が、祐一を襲う。

そこで目が覚めた。

「祐一さん、起きて下さい」

「……祐一、起きろ」

二人の言葉に、祐一はようやく目を開いた。

舞と佐祐理、覗き込む顔は四つに見えた。

祐一は目をしばたく。

今度は二つ。

そして上体を起こした。

太鼓の音はまだ鳴り止まない。

「おい、相沢くん、起きてくれ」

ドアの向こうから、誰かの声が聞こえる。

男の声のようだが、ドア越しではっきりとは分からない。

祐一は立ち上がると、脱兎の如くドアを開けた。

立っていたのは高宮浩だった。

「どうしたんですか? こんな朝っぱらから騒がしくして」

だが高宮は、祐一の意など解せぬように話を始めた。

「大変なことになった。またやられたんだ」

「やられた?」

祐一はその言葉の意味を、脳内の辞書に次々と当てはめる。そして一つの最悪な可能性が浮かぶ。

「やられたって……まさか、また人が殺されたってことですか?」

高宮がこくりと頷く。その言葉を聞いて、舞と佐祐理が心配そうな顔をして駆けつけた。

「で、誰ですか? 殺されたのは」

「倉木光さん」

高宮は鋭く言った。祐一は驚いて声がでない。

「とにかく相沢くんは彼女の部屋に向かって欲しい、場所は分かるな。そちらの女性二人は部屋で待機しておいてくれ。何かあったら連絡を入れて。自分は他の人を起こしてくる」

そして休む暇も無く、今度は隣のドアを叩き始めた。

「とにかく言って来る、二人はここで待っててくれ。絶対に動かないように」

祐一は二人に釘を刺すと、急いで部屋を飛び出した。そして入口の方に向かう。そこでは上田と半田の二人が、秀一郎の部屋で腕組みをしていた。

「おお、来たか相沢くん」

半田が一瞬だけ顰め面を崩すと、祐一を迎え入れた。

「高宮さんが来て連絡を受けて……倉木さんが殺されたって本当ですか?」

「ああ、彼女の部屋で……」

そこまで言うと、半田は手で顔を覆った。

「それでまず、社長に連絡しようとしたんだけど、さっきから何度ノックしても返事が無いんだ」

その時、権田が早足でやって来た。

「また殺人が起きたってのは本当か?」

「ええ、多分……とにかく来てください、ひどいもんですよ、あれは」

上田はひどく顔を歪めて言った。その様子から見て、相当ひどい殺され方をしているのかもしれない。

「相沢くん、君も一応確かめてくれ」

「ええっ、俺もですか?」

「頼む。死体はベッドの背の辺りだ」

上田は一言だけ言うと、再びドアを叩き始めた。言い返す暇さえない。仕方なく、権田と共に光の部屋へと入る。ドアは破られた痕跡がないから、恐らく最初から開いていたのだろうと考える。

部屋に入ると、奥の方に人が倒れているのが見えた。

駆けよってみて、祐一は思わず息を飲む。

彼女はフローリングの床に身を横たわられせていた。体はくたりと糸操人形のように倒れ伏し、首は奇妙な方向に捻れている。そしてその頭部は、一目で見て分かるほどに変形していた。髪には血がこびり付いており、不気味な様相を一層強めている。

倉木光だったものは、頭部から流れ出たであろう血で顔を彩り、お面のようにその表情は凍り付いていた。部屋には冷気が漂っている。それは最初、死体があるという異様な雰囲気によるものかと思っていたが、窓が全開になっておりそのためだということが分かった。

「これはひどいな……頭を滅多打ちされとる。凶器はこれか?」

権田はそう言って、床に落ちていたものを指差す。それは祐一や舞の部屋にもあった、例の真鍮時計だった。どうやらどの部屋にも一つずつ配置されているらしい。

時計は文字盤の硝子が割れており、九時二十分過ぎの辺りで止まっていた。

「こいつは妙じゃぞ」

「妙って、何がですか?」

祐一には現場全てが妙過ぎて、何処をどう見て良いかさえも見当がつかない。

「午後九時過ぎといえば、わしらは皆トランプをやっとった」

「あ、そういえば……」

ほとんどのメンバは、午後九時前から深夜の零時過ぎまで食堂にいた筈だ。

「権田さん、どうですか?」

祐一と権田の二人がその意味を考えていると、上田がこちらにやって来た。

「確かにひどい。頭部を滅多打ち、見た所他に傷はないようじゃが……凶器は何か、重たい鈍器のようなものだと思う。例えば……」

「ご丁寧に俺らのアリバイのある時間で止まっている、真鍮製の時計……とか」

「可能性は充分あるな」

権田は無表情のまま言うと、死体を調べ始めた。祐一は無惨な姿の死体を見て(しかも昨夜までは確かに生きていたのだ)頭がくらくらした。

「ところで上田くん、あそこの窓は最初から開いてたか?」

「ええ、全開でしたね。それにエアコンも切ってありました」

「ふむ……となると念入りに調べておく必要があるな」

権田は指に顎をつけて何度かこすると、真剣な顔付きを見せた。

「相沢くん、顔色がよくないようだけど」

そういう上田の顔色も、お世辞にも良いものとは言えなかった。

「そりゃ、何度も人の死に連続して遭遇してたら、そうもなりますよ」

祐一はおもわずがなり声を上げた。少し怒りっぽくなっているのが、自分でも分かる。

「亮、男性軍は全員集めた。女性軍は全員、食堂の方で待機してもらってる」

背後から高宮の声がする。

「そうか……じゃあ権田さんは死体を調べておいてください。あと……そうだな、俺と浩はここに残ってる。相沢くんは御厨と半田さんと一緒に社長を起こして来てくれ」

「あ、はい」

祐一はそれだけ言うと、部屋を早足で抜け出す。正直言うと、あれ以上死体の前にいると頭がおかしくなりそうだった。そこまで考えてふと、彼らは辛い仕事を進んで引き受けたのかな……そんなことを思った。

廊下に出ると、御厨が秀一郎の部屋をノックしていた。

「どうですか?」

「だめだ、全然反応が無い」

御厨がドアを最後に思いきり殴り付けてから、強い声で言った。

「どうしますか? またドアを破りますか?」

祐一が言うと、半田は首を振った。

「……いや、もうちょっと呼びかけてみよう。もしかしたら、熟睡しているだけかもしれないから」

今度は半田がドアを叩き始めた。

「起きて下さい、社長。大変なことが起こって……」

強くノックをする音が、廊下中に響く。何度も、何度も、力を込めて叩く。

しかし反応は無い。

「どうなってるんだ? 流石にこれはおかしいぞ」

「まさか、社長も……」 御厨は言いかけて、言葉を飲み込んだ。

「どうしますか、半田さん。破りますか、このドア?」

「……いや、窓を破った方が早い。さっき見て来たら雪は既に止んでいたから、外に出ても危険はない筈だ。確か二階の物置に掃除道具が入っていたから取ってこよう。鍵が掛かっていたら、それで硝子を叩き割る」

半田はそうまくしたてると一人で二階に上がっていく。残された祐一と御厨は思わず向かい合った。

「こりゃ、とんでもないことになったかもしれないな……」

御厨が呟く。祐一は何か頭に引っ掛かるものを残しながら、思考が巧く働かない。

(えっと、何が変だと思ったんだっけ。確か倉木さんの部屋……)

しかし思考が固まる間もなく、半田が下に降りて来る。彼が持って来たのは柄のないモップだった。

「よし、行こう」 祐一と御厨も頷くと、三人でロッジの外に出る。

ロッジを出て左手(正面からむかえば右側)には二台の車が見える。

「あれ、あの車には雪が積もってませんけど」

祐一が尋ねる。

「ああ、あれは雪が積もっていたらまずいと思ってね。上田くんと高宮くんにも手伝って貰って雪だけでも落としておいたんだ。その帰りだよ、倉木さんの部屋のドアが僅かに開いていてね。それで不審に思って覗いたら……」

半田はそこまで言って、体を震わせてみせた。確かに車までは幾つかの足音が付いている。きっと三人が往復したあとだろうと祐一は思った。

ロッジを壁伝い回ると、外に面した窓が三つ並びで見えて来る。手前から秀一郎、峰子、光の部屋だ。近くには木や植え込みといった類のものはなく、まっさらな雪には何も怪しい跡は付いていなかった。

三人は秀一郎の部屋の窓の目の前に立つ。

「相沢くん、窓が開いているかどうか確かめて欲しい」

「えっ、俺ですか?」

言われてから、ああこれは一番客観性の高いであろう人物の確認を求めているのだろうと祐一は推測した。少し躊躇したが、祐一は窓に手をかけた。

造りのしっかりしたその窓は、祐一の予想に反して淀むことなく開いた。

「窓は開いてるんですね」

「そのようだな……相沢くん、続けてくれ」

半田に促されて、祐一はその手を伸ばす。二つ目の窓も鍵は掛かっておらず、すんなりと開いた。そして最後の障壁である、カーテンを引く。

カシャアッ……鋭い音と共に露わになった部屋の光景、そこもまた現実とはほど遠い世界だった。

まず目に付いたのが、ベッドに前屈み気味に倒れている平瀬秀一郎だった。彼は昨夜、祐一と別れた時人寸分違わぬ服装をしていた。

彼の両手は一振りの刃物を握り締めている。その刃物は腹にかなりの深さまで刺さっている。そこからは僅かであるが、血が滲み出ていた。

切腹……祐一が頭に浮かんだ最初の言葉がそれだった。

祐一は声を出そうとした。

しかし声がでない。

「と、とにかく確認しよう。まだ助かる望みだってあるかもしれない」

半田が顔を目一杯蒼ざめて言う。しかし祐一には、彼が生きているとは思えなかった。

「死体を調べたらすぐに部屋を出よう。倉木さんの部屋にいる人にも伝えないといけないから」

半田はそれだけ言うと、恐る恐る窓を乗り越えて部屋に入った。祐一、そして御厨がそれに続く。

半田はゆっくり近付くと、刃物を握り締めている片方の腕の脈を取った。祐一は否が応でも、死体を詳しく見ることになってしまった。

秀一郎の顔は苦痛に歪み、口からは涎と血とが混ざった液体が漏れ出している。それは腹部から流れた血と共に、ベッドのシーツを汚していた。彼が手にしていた刃物は、どうやら包丁らしかった。

祐一に分かるのはそれくらいだ。

その余りもの凄惨さに思わず目を背ける。ユニットバスと接近した側の方には、クロゼットと鏡台がぴったり密着して並べられている。祐一は再び、僅かな違和感を覚えた。

やがてその目が、鏡台に置かれた一枚の紙切れに向かう。

「駄目だ、呼吸もない……社長も死んでいる」

半田が重々しく首を振る。

ロッジの中で立て続けに事件。

これで三つ目。

眩暈がしそうだった。

いっそのこと、ここで倒れてしまえたら楽だったろう。

しかしそんなわけにもいかなかった。

祐一は気力を振り絞る。

「半田さん、鏡台の所に紙切れが……」

そう言って震える手でそこを指差す。

「何だって? まさか……」

御厨が言いながら鏡台の方に近付く。間もなく鏡台の鏡には、三人の姿が映し出されることになった。ボールペンを紙止め変わりにした紙に祐一が手を伸ばそうとしたその時だった。

ドアからノックの音が聞こえる。

「そうだったな、報告が先だ」

半田はそう言うと、ドアの鍵を開けた。そこに上田、高宮、権田の三人が流れこんでくる。

「どうしたんだ、いきなり音がしなくなったと思ったら……」

「いや、幾ら叩いても反応がないから窓から回り込んでみたんだ。そしたら……」

上田の上下関係も忘れた厳しい口調に、半田は細い声で答える。

「そしたらって……まさか!!」

「そのまさかだ、社長は死んでいた。どうやら自分の腹を刃物で突いたようだが……」

「自分の腹?」 上田は怪訝な表情を見せる。

「見れば分かる。それでそっちの方は?」

「それが……死体を調べていたら権田さんがポケットの中からこんなものを見付けた。例の脅迫状だ、字体も同じ」

「ほれ、この紙じゃよ」

権田は手に持っていた紙を半田に手渡した。

「なになに……『白い悪夢は、白夜の如き長き夜と共に去る。復讐は果たせり』……確かに同じ字だ」

脅迫状の文字は峰子の死体に添えられていたのと同じく、定規でも引いたようなかくかくとした文字だった。サイズも同じく、A4の用紙だ。

「とにかく俺たちにも見せてください」

上田はそう言うと相手の返事を待つことなく中に入っていった。

そして微かな呻き声をあげて動きを止める。

「こりゃあまた、酷いな……」

上田が思わず言葉を吐く。それから辺りを見回し、鏡台の方に目をやった。

「これか? 紙切れは……」

上田は上に置かれたボールペンをどけると、二つに畳まれたそれを慎重に開ける。そこにはみみずののたくったような文字で、短い一文が書かれていた。

『二人を殺したのは、この私である。理由はあえて言うまい、しかし犯した罪は拭い難いものである。故に私はこの命を絶つ……平瀬秀一郎』

「こりゃ、遺書か? となるとこいつは切腹ってわけか……いや、そう断定するのはまだ早いな」

「何故だい? 上田くん」 半田が不安そうな顔で尋ねる。

「考えても見てくださいよ。こんな震えた字、とても筆跡鑑定なんて出来ませんよ。逆に言えば鑑定されては都合が悪かったのかもしれない。それにそこの窓です」

上田は入ってきてから開けたままにしていた窓を指差した。

「割った形跡がないってことは、あの窓は鍵が開いていたってことでしょう。つまり犯人は、あそこから脱出したかもしれないってことですよ」

「まあ、確かにそうかもしれないが……」

「わしも自殺説には反対じゃな」

半田がなおも僅かに渋っていると、さっきから如才なく辺りを見回していた権田が床下を指した。

「大分拭き取ったようじゃが、僅かに残った血らしきものがある」

言われて祐一は目を凝らして床を見た。そこには確かに権田の言う通り、薄く赤くコーディングされた部分があった。

「成程、社長がベッドの上に座って自分で腹を刺したのなら、そんな所には血は残らない……となるとやっぱり他殺ってことになるな……」

上田は考え込むような様子を見せたが、やがて顔をあげていった。

「とにかくこの部屋も少し調べてみたい。彼女の部屋と同じく、荷物から何かが奪い取られているかもしれない」

「荷物から何か?」

よく事情の分からない上田の言葉に、祐一は思わず尋ねた。

「ああ、彼女……倉木さんのバッグが何者かに荒らされた形跡がある。何が盗られたかは良く分からないんだが、荒らされてるのは確かだ」

「良く分からないって?」

「いや、身の回りの者は全く手を付けられていないようなんだ。服も財布もその他諸々身の回り品も、全部残ってる。だから犯人には何が目的だったか分からない……それにどうも、彼女はあそこで殺されたわけじゃないらしい」

「えっ、そうなんですか?」 祐一は再びの意外な事実に声をあげる。

「権田さんが死体を軽く調べたんだが、流れ出た血が床に溜まっているような痕跡が見受けられないらしい。それに殴られた傷の殆どは生活反応がない」

生活反応……祐一は拙いサスペンスの知識からその言葉を引っ張り出す。確か生きている時に受けた傷と死んでから受けた傷とでは医学的に差があるとか、そんなものだった筈だ。

「殺人は別の場所で起きて、それから彼女の部屋に運ばれた。これが意味する所は分かるか?」

上田は祐一に問いかけ。祐一は無い頭を必死に振り絞って、そんなことをする必要があるシチュエーションを考える。

そしてふと、一つの考えが浮かぶ。

「犯行現場が犯人にとって不都合な場所だった……例えば犯人の部屋」

「ご名答。だから各々の部屋を調べれば、犯人が分かるかもしれない。あとは死亡推定時刻だが……」

「そっちはわしに任せとけ」 権田が力強い声で言った。

「じゃあ俺と浩は権田さんについてる。半田さんたちは先に戻って、女性軍に事情を説明してやってください……なるべくソフトに。あと警察にも電話お願いします」

「分かった、そちらも気を付けてな」

そう声を掛け合うと、祐一、御厨、半田の三人はまず電話を掛けた。

半田は会話中、受話器を近づけたり遠ざけたりを繰り返していた。恐らく刑事の怒鳴り声がかなり物凄いのであろう。しかしその内、半田は神妙な顔付きになって来た。声も少し震えている。

受話器を切った半田の顔は、ひどく苦しそうだった。

「どうしたんですか、半田さん。何か警察に言われたんですか?」

「それはこってり言われたが……とにかく食堂に行こう。このことは皆が揃ってから話した方が良いだろう」

御厨の言葉に口を濁した半田は、覚束ない足取りで進み出した。祐一は何があったのかと思いながら、後に続く。

食堂に入ると、佐祐理、舞、成海の三人が不安そうな顔で祐一の方を見た。

「祐一さん、大丈夫でしたか?」

「ああ、なんとかな」

佐祐理の言葉に余裕で答えることは、今の祐一には困難だった。そんな歯にものが挟まったような言い方を、彼女が見逃すわけなかった。

「なんとかって、まさかまたその……殺人なんですか?」

「ああ、そうだ。しかも驚かないでくれよ」

祐一はそんなの絶対無理だと思いながら、絞り出すように口にした。

「今度は、二人殺されてる。倉木光さんに、平瀬修一郎さん」

「嘘……」 思わず成海が掠れた声を出す。

「二人が死んだってどういうこと? 一体、何が起こったの?」

「それは私にも分からない」

ヒステリックな成海に、半田が諭すように言う。それから現場の状況を、なるべくグロテスクにならないよう丁寧に説明した。それでも、それは三人の顔を蒼ざめさせるのに充分なものだった。

「そんな……どうなってるの、ここは。一体、何が、どうして、何のために……」

彼女はしかし、もっとも肝心な言葉は口には出さなかった。

すなわち、誰が……。

そんなことは誰にもわからない。

犯人以外には。

それからは、誰もがほとんど口を聞けなかった。いや、聞かなかった。聞こえるのは時々、佐祐理がコホコホと咳をする音と、その度に気遣いの言葉を入れる舞と祐一の声だけだった。

「大丈夫か、佐祐理さん」

「ええ、ちょっと疲れただけですから」

少し苦しそうな笑みを浮かべる佐祐理。それを見て祐一は余計に心配になった。

再び佐祐理は咳をする。

「……佐祐理、大丈夫か?」

「うん、本当に平気だから」

その時、食堂のドアが開く。

入って来たのは戸惑いと不安とを隠し切れない上田、高宮、権田の三人だった。

「どうでしたか?」

御厨のそんな言葉に、上田がぽつりと漏らす。

「こりゃあ、思った以上に厄介だ」

「厄介って?」

「まず倉木さんの死亡推定時刻だけど、午後の九時から深夜の零時までの間。俺たち全員が安穏とトランプをやってる時間だ」

「つまり、ここにいるもの皆に完璧なアリバイがあるわけじゃな……」

権田の口調にも、いつもの快活とした調子がない。

「次に平瀬社長の死亡推定時刻じゃが、これは午前五時から六時頃……今が七時少し前じゃから、ほんのついさっき殺されたことになる。だが、上田くんの言葉を信じるならこれも不可能犯罪っぽいんじゃよ」

「不可能犯罪?」 祐一が尋ねる。

「俺は起きたのが五時前だったんだが、その時には雪は全く降ってなかったんだ。少し後に起きた浩も、窓の外に雪が降っていないのを確認してる」

その言葉を受けて、高宮が一つだけ強く頷いた。

そう言えば午前四時過ぎに祐一は部屋の外を見たが、その時には雪はほぼ下火になっていた。

「窓の外には三組の足跡、つまり半田さん、御厨、相沢くんの足跡しかなかった。となると降っている雪が足跡を覆い隠してくれる筈もなし、じゃあ犯人はどうやって足跡も残さずに部屋を抜け出したんだ? つまり、どうやらこれは足跡のない殺人ってやつらしい」

足跡のない殺人……その言葉が祐一の頭に伝播するまでにしばらく掛かった。

二つの殺人。

二つの不可能犯罪。

悪夢はまだ終わりそうもなかった……。


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