名前だけ聞くと知らないという方が殆どでしょうが、『スパイラル―推理の絆―』の原作者と言えば分かって貰えるかと。元々、これはスパイラル本編の後書きで初めて存在を知り、当時大学生活で根城にしていた岡山市の本屋を探し回った挙句、ようやく発見したという代物です。[販売]欄にもありますとおり極めて稀少ですが、決して売れてないからではないと個人的には思います。寧ろ、こんな優れた作品が何故埋もれているのか――と思ったくらいの秀作です。
『名探偵に――』で兎に角、上手いと思ったのがその二部構成の妙。第一部も単体として唸るくらいの内容なのですが、それよりも謎が解き明かされた後、第一部の設定を引き継ぎ、第一部以上の謎と物語を提供してくれる点に本作品のの凄さがあります。
また、瀬川みゆきという名探偵も実に魅力的でした。名探偵という業に悩み、それでも事件に果敢に挑んでいく姿。女性らしさどころか人間らしさをも極力排除しようとしていく瀬川。しかし、彼女の一挙手一投足には、目を釘付けにされる力と魅力が確かに存在します。
徐々に明かされる名探偵の業、そして繰り返される名探偵の業。それでも謎と真相を求めることを放棄できない強さと弱さ。真実に垣間見える光と影。読み終えた時、探偵の切ない思いが私の胸を捉えて離しませんでした。こういうのを本当の意味で探偵小説というのでしょう。
これは間違いなく傑作です。数は非常に少なく手に入り難いのですが、見つけたら絶対手に入れ、そして腰を落ち着けて読んでみることを是非お薦めします。本当に素晴らしい物語です。あと、城平京氏のルーツも知ることができて興味深いかと思われます。