矢吹駆シリーズの第五弾です。他にも紹介したい作品というのは山ほどあるのですが、数が100や200を下らない為、こうして偏った雑感となっていることをお許し下さい。まあ、ある意味で他の作品を放っておいてでも、読んで欲しい作品となっている訳です。今回もその例に漏れず、でした。
今回のテーマは『孤島の連続殺人』という、これまたミステリィにはお馴染みの内容です。ただ、シリーズを読んできているからには只の事件で終わる訳ないと思っていた当の矢先から、哲学や思想、雑学論議がこれでもかと華を咲かせていきます。『哲学者――』からは約三年のスパンがあった訳ですが、この雰囲気は変わらないなと、顔を綻ばせたのを覚えています。内容も序盤の期待を裏切らず、東野圭吾氏の某作品[注1]の法則もかくやと言わんばかりの、スリリングで緊張感の溢れる展開です。人が目に見えて減って行くのに、犯人が分からないということがこれほどまでに恐ろしいのだと、この作品は私に思い出させてくれました。孤島、館、装飾された連続殺人――本格推理小説を主眼とした重厚な物語、哲理、論理。難解な議論に満ち溢れているのに、こうも興奮し、夢中で読み下せる爽快感。『哲学者の密室』で私が受けた感銘は、この作品にもまた健在でした。
最近は奇を衒ったものが多いけど、やはり私にとってミステリィと呼べるものは、こういう読み物なのだと実感します。古式に則った、ペダントリィ溢れる謎。願わくばミステリィを冠した物語から、こういった真っ向からの謎に挑む本格のスタイルが永遠に消えぬように(願
[注1]ミステリィにユーモアの強烈な光を当てた『名探偵の掟』(東野圭吾著:講談社文庫)という小説のこと。この中の一篇で、シリーズ物の探偵が孤島の連続殺人というテーマをやると緊張感がないというような内容のことを書いたものがありました。しかし、少なくともこの『オイディプス――』には当てはまりません。