19世紀の英国を舞台に繰り広げられる五代、五家族にわたる複雑な人間関係と陰謀、妄執を3000枚強という途方もない量で描き切った大作です。本当は、もう少し冷静にかつ気の利いた言い回しで表現できるのでしょうが、拙い私の頭ではこれ以上の宣伝文句は思いつきません。兎に角、読んでて何度も気後れするくらい、壮大な物語でした。主人公、ジョンの視線を中心にして物語は進んでいくのですが、序盤のこれでもかというくらい穏やかで品のある生活から一辺、ロンドンに逃れみるみるのうちにどん底の生活へと堕ちていく描写は精緻にして暗澹の一言に尽きます。主人公の予想をいつも越える範囲で、張り巡らされた陰謀と悪戯めいた運命がジョンを遂には底辺労働者へと追い詰めていくのですが、当時のロンドンの汚染具合と混沌さが滲み出ていて、思わず溜息を吐きそうになることは必死です。私は幸運にもこのジョンという少年に入れ込むことができたので、余計に気になって気になってしょうがない。下巻に入ってからも過酷な生活は続き、しかも過去の殺人事件まで絡んできて、ここで一度人物の整理をしていなければ、もっと混乱したまま物語を終えていたかもしれません。それくらい、登場人物に張り巡らされてきた伏線が一気に収束します。そして、果て無き物語の果てに、物語は――そっと幕を閉じていきます。どういう結末だったのかは、未読了者の方に対してネタバレになるので申しませんが、読んだ後に重くそれでもようやく一筋の光を見出して溜息をもらすような、微妙な読後感が得られたことを、ここに述べておきます。
内容的には完璧に満点なのですが、数度挫けそうになったことをふまえると、最終的には上のような評価になりました。しかし、割合的には極めて10に近い9ということも付記しておかなければなりません。ハッファム、モンペッソン、クロウジャー、パルフラモント、マリファント――五代、五家族から成される壮大なミステリィにして冒険小説。上下巻で合わせて8000円と確かに割高ですが、もしお金に少しくらい余裕があって、気の狂わんばかりに長い話を読みたいという方は、手を伸ばして見るのも選択肢の一つかもしれません。