『ライラの冒険(英題名:His Dark Materials)シリーズ』の第二部を成す作品です。物語はわれわれの世界と少し違う場所から、われわれ自身の世界に移動します。つまり、第二部は現実世界をモチーフとした英国より開始されるのです。貧困と謎の敵に惑うウィルは、一騒動を起こした挙句に辿り着いたロンドンの地で、偶然に異世界の扉を通り抜けてしまいます。そこで巡り合うは 『黄金の羅針盤』 にて数々の冒険を潜り抜けてきたライラ。二人の出遭い、そして新たなアイテム 『神秘の短剣』 が、空間や次元すらも超える冒険へと、二人を誘っていくのです。
ここで物語のもう一人の主人公、ウィルが登場します。この子は父親を早くに失い、母親と二人で生きてきた強かでたくましい少年。しかし、その強さはある意味、ティーンエイジャの持つ強さではありません。大人顔負けの要領のよさ、そして自分をつまらないものに見せてしまう振る舞いを身につけている――しかし磨かれた石のように強固な少年です。彼の持つ独特の存在感は、ライラの信頼と友情とを勝ち得ていき、立ち難い絆を築いていきます。これも第二巻の見所の一つと言えるでしょう。
この第二部は新たな世界、そして最終章となる第三部 『琥珀の望遠鏡』 へと繋がる冒険が語られます。何と言ってもこの巻で語られるべきことは、スペクターという人の精神を喰らう化け物の存在、ある意味で大人より怖い子供、メアリーという女性との出会いと暗黒物質の正体に対する考察、そしてある一人の人物の勇敢なる死です。最後の項目についてはネタバレになるので答えられませんが、スペクターの大人の精神を食らう描写は内面に虫が這いずるかのような感触を覚える、余り気色の良いものではありませんでした。勿論、そういう感じを促すというのは描写力が優れているという証左なのですが。なかなか喚起し難い生物ですけど、XenosagaというPS2のゲームをやったことのある方なら、グノーシスという生物の行動理念と形状に近しいものを感じるかもしれません。私は大体、スペクター=グノーシスという形で頭の中に思い浮かべてました。
あと、ライラとウィルがある行為を行った後の子供達の行動がある意味、化け物より怖くて――おお、おお、それは言えませんが、子供が天使だって考えを私たちの頭から完全に吐き出してくれる筈です。序盤から巻き起こる冒険と危機、そして時には涙と感動を引き起こす人の強さとが、400 ページという長さを感じさせることは殆どないでしょう。私は駆け抜けるように、最後まで読み終えました。
第一巻で現れ衝撃の行動に打って出たアスリエル卿は権威との最終戦争に向けた要塞を建築し、着々とその牙を研ぎつつあります。そして、同じくコールター夫人はその魅力と破天荒な行動で人間だろうと異界の怪物だろうと引っ掻き回し続けていました。
第一巻に輪をかけて暗く重たいお話です。しかし第一部ではまった人なら、駆け抜けるように読み終えることが出来るでしょう。そして、物語は第三部へと続いていくのです。今だ残る幾つかの謎と、側まで迫る危機を残して――。