『ライラの冒険(英題名:His Dark Material)シリーズ』の第三部を成す作品です。といっても、この作品をネタバレ無しで紹介するのは難しいので、余り多くは語れません。しかし兎に角言えるのは、前作までの壮大な物語を締め括るに相応しい物語でもって、感動と興奮のうちに幕が閉じる――ということです。ダスト粒子、ダイモン、人間の生と死、原罪の意味、基督教、 死後の世界、天国と地上、人間の生きる意味、そして愛――やもすると大仰になりがちなテーマをまとめ上げた、極上の冒険ファンタジィと言えるかと。
この巻では第一巻、第二巻で登場したキャラが総出で登場します。誇り高き白熊イオレク・バーニソン、魔女セラフィナ・ペカーラ、ファーダー・コーラムを中心とする水の民ジプシャン、ダストの謎を追ってチッタガーゼに辿り着いたメアリー女史。そしてこの巻から登場する人物にも魅力に溢れたキャラが数多く登場します。天使バルクと天使バルサモス、体長20センチにてトンボを操る天性のスパイ種族ガリベスピアン、車輪の種子と共存し地を車のように駆ける種族ミュレファ――どれもが魅力ある存在として描かれています。特にガリベスピアンの誇り高さ、ミュレファの牧羊的な雰囲気は琥珀の望遠鏡の二面を表しているのかもしれません。即ち死と躍動的な冒険、そして生と静的な暮らし――二つが交じる所に物語の本当の終着点があるのですが、それは読んだ人のお楽しみということで。
というわけで以下はHis Dark Materialsシリーズの総評として。前にも述べた通り、このシリーズ――間口の広さとは裏腹にとんでもない深さを秘めた作品です。児童文学ですが、ある意味、子供にも大人にも己の価値観を真正面から見つめ直すことを問われます。生きること、死ぬこと。憎むこと、愛すること。よもすると哲学や独り善がりの語りになりがちなテーマですが、息もつかせぬストーリィと魅力的な登場人物、細かな設定により第一級の作品世界を作り上げています。一シーンごとが印象的で胸に染み入ってきます。収束とそれ以上の発展性を示唆したラストに胸を打たれるでしょう――それは幾ら言葉に尽くしても語り切れません。
或いはもっと簡単に、幾つもの文学賞を受賞したという言葉で語ることもできたでしょう。しかし、私はそれをしません。何故ならこれはアンチ・オーソリティの物語だから。だから精一杯、私の言葉でその魅力を語ったつもりです。
しかし、私がここで紹介したのはライラの冒険――His Dark Materialsシリーズの魅力のほんの一部でしかありません。ファンタジィ好きは勿論のこと、本を愛する全ての方に是非とも読んで欲しい作品です。小説の魅力を胸に思い起こすこと、間違いないでしょう。
――追記。ちなみにこのHis Dark Materials、映画化も決まっているそう。New Line Cinema制作で三部作として2003年から2004年頃、公開されるとのこと。こっちも楽しみですー。