なぎーでいこう

今日もあつはなつかった……。

……なんちゃって…冗談、てへ。

などと心の中でツッコミながら、

一部の悲しみを抱いて商店街を歩く遠野美凪。

遠野美凪は今、怠慢なる赤字経営によって、

廃線になった路線のある駅へと向かっていた。

名前などあればこんな遠回しな言い方などせずに、

ずばっと名前で言えるのだが……。

まあ、仮にE電駅とでも名付けておこう。

で、遠野美凪はそのE電駅へとマイペースに向かっていた。

あそこに無断で住み付きはじめた、国崎往人という、

黒のTシャツを着た国籍不明の男性に会いに行く為だ。

彼が何人なのか、何星人かと考えるだけで、

美凪の胸は不意に高まる。

火星人? アンドロメダ星雲第四恒星第十六惑星……、

以下漢字ばかりの単語が五十文字以上並ぶので省略する。

今、美凪の頭の中で往人は、

その百文字近い名前の星からやって来た異星人で、

目から光線を発射していることを詳しく夢想していたりする。

しかし、周りの人間は夢見がちな少女ということで片付けている。

美人というものは得だ。

それは遍く真理である。

まあ、そんなことは関係ない。

今、美凪の頭の中で往人は、

指パッチンの一つでかっ飛んでくるロボットの内部で、

『お前が欲しい〜!!』と力強く叫んでいる。

……ぽ。

周囲の人間は夏だから顔が火照っていると考えるのだろうが、

ところがどっこいこの美凪ちゃんはそこら辺の夢見る少女とは違うのです。

筋金入り、現実に影響を及ぼすほどの夢見る少女なのです。

……ぽ。

どうやら、まだ夢想は続いている様子。

と、硬直状態がようやく解けたようです。

今度は先日受けたツッコミの味が忘れられず、

どうすれば理想の漫才コンビになれるか具体的な想像を及ぼしています。

いや、みちるも入れてトリオの方が良いかも、

コンビだと解散したら片方だけしか有名になれないものねと、

やけに現実的なことを考えちゃってる辺り、やはり只者ではありません。

そこに、一人の少女と一匹の物体が美凪の目に飛び込んで来ます。

一人は黄色いバンダナを巻いた少女、学校でも何度かみたことあるのです。

実を言うとあの黄色いバンダナは真の力を抑えるための封印具で、

解かれた封印により真の姿を顕わし、黄金色の闘気と共に空を舞うなどと、

かなり格闘もの入った想像をしちゃったりしているせいで、

何故かパラパラの構えで対抗しようとする美凪。

ぴこぴこ。

怪しげな音が聞こえて、更に警戒を強める美凪。

しかし、その音が目の前にいる犬状のものから発せられていると分かって、

これはもしかして綿菓子型生物であの毛は粗目から作った、

美味しい綿菓子からできているのではないかと推測。

……じゅるり。

試してみようか、いや試すべき。

両目をらんらんと輝かせて近付くと、

ぴこぴこーーーーーと一段大きなぴこぴこを出して、

一目散に逃げて行きました。

今度こそはと思う美凪の前を、バンダナ格闘少女が追いかけて行く。

ぽてと待って〜と声をあげるのを聞いて、

まさかおじゃがさんの味がするのでしょうかと思いを巡らす美凪。

綿菓子のような食感の、新型おじゃが菓子。

素敵です……そう思いながら今度こそは捕獲決定。

みちると一緒におじゃがさんを食べる……。

……うっとり。

想像しただけで、目を輝かす美凪。

一瞬ぴこぴこぉと断末魔が聞こえたような気もしますが、

夢見る少女にはそれも妖精の囁きと等しいのです。

数時間ぶりに我に返って商店街を見回すと、

周りには人が余りいません。

過疎際の夏の商店街に、

人通りが少ないことは想像に難くありません。

老人にはきつい日差しです。

もし倒れちゃったりしたら、姉さん事件ですと、

某一流ホテルの副支配人口調になりかねません。

今、客が全然来ずに苛立たしげに通天閣のシャツを着たまま、

柄杓をアバン・ストラッシュの構えで殺気を込めて打ち水をしている、

スーパーシスコンドクターKの機嫌は直るのかもしれませんが。

その内、メスをやたら滅多らに投げ出すかもしれません。

美凪も一度その光景を見たことがあるのです。

いかにも軟弱な良いとこのボンボン男性に迫られて、

一気にメスを十本出して見せてその手際の良さに驚いたことがあります。

その内の一本はKの手を離れ、ボンボンさんに一本の紅い筋を作りました。

きっといつか彼女は美しい散り際の命の灯を見せてくれると美凪は信じています。

彼女は伝説の狩猟者の末裔であり、実は黒男先生に憧れ名工によって打たれたメスを携え、

更に双子の片割れを体内に吸収しちゃっていると美凪は確信しています。

目の前を子供達が通り過ぎて行きました。

砂遊びとままごとの道具を持って駆けて行く。

その内の一人がみちるに似てたので、つい双子説を夢想。

実は私はみちるのくろーんだったりするの。

そしてみちるを倒す役目を追っちゃってたりするの。

いけません。

これは本当に事件です。

なぎーとしてはぴんちのちるちるを助けなければなりません。

そうです、アンドロ(以下省略)から来た国崎往人(通称ゆっきー)さん、

本名、φ(発音不可能)さんに助けてもらいましょう。

また妙な設定が増えていますが、美凪だからOK。

いきなり目からビームを出しますが、敵の科学力に阻まれてしまいます。

ゆっきーぴんち、絶体絶命さあ大変。

そこにちるちるの愛でもって、相手は改心するのです。

ああちるちる、なんて心やさしいのでしょうか?

美凪さん、夢想大爆発中。

……うっとり。

しかし、敵の新たなる刺客はまたやってくるかもしれません。

戦えゆっきー、戦えちるちる、見守るなぎー。

ふぁいといっぱつごーごーじゃーんぷ。

薬品を飲むシーンはCMで禁止されてるからないんだよ、

また一つ賢くなったねで次回、めかゆっきー出現……ぱちぱちぱち。

……なぎーで行こう第一回終了。

ぶろおおおお。

空気を裂く音が商店街にこだまします。

乗っているのは伝説の紅い風こと神尾晴子。

これから峠を目指しにいくに違いありません。

風があたいを呼んでいる、だから行くんや。

でも、あと一点で免停なんです。

そうとも知らず、美凪は敵地に向かう晴子をずっと見送っていました。

ダウンヒルの魔物が迫る。

それを颯爽と交わして行く晴子。

伝説は塗りかえられる……。

……えくせれんと。

どんがらがっしゃーんと遠くの方でやばい音がしました。

とまあ、そんなことがありまして……。

「……こんにちは」

美凪は今日も往人に会うのである。


あとがき

電波系なぎーです。

それ以上でも――。

それ以下でもないのです、きっと(笑

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