二月八日 月曜日

第三場 公園

 それは、いきなりの感触だった。

 厳寒の空気は容赦なく肌を叩き、皮膚と直に触れる部分が教室のヒータで温めた熱を留めることなく徐々に冷やしていく。青い空はまるで人々を嘲笑うかのように、覗く太陽にも些かの温かみすら感じられない。その中で、胸に微かに伝わる熱と力。香里が以前、この学校で俺にしたのと全く同じように胸ぐらを激しく掴み、半ば胸を埋めるようにして悲痛な表情で俯いている。強烈な既視感が頭を過ぎり、俺は思わず縋ってくる香里の顔を何とか確認しようと試みる。しかし、この体制では如何ともし難い。

 戸惑いが胸を満たすその一方で、自分に助けを求めている香里に対する強烈な庇護欲と言い知れない感情が浮かんでくるのがはっきり自覚できた。泣きじゃくってすらいないものの、今にも爆発寸前の感情を抱えた彼女の肩に、俺はそっと手を置こうとした。だが、ふと目に入った下校中の生徒の姿がそれを押し留めた。そして、ようやく今が下校真っ最中の時間帯だと再認識することができた。それは、気恥ずかしさの復活を意味する。この状況では何かと誤解を招きかねない、そう考えた俺は香里の理性の強さに期待して耳元で囁いた。

「香里、ちょっと周りに人が多過ぎるぞ。どこか別の場所で話さないか?」

 その言葉に、香里は強く肩を震わせた。恐らく仕出かしてしまったことを理解したのだろう、ゆっくりと顔を上げ、目線が水平まで到達したところで二、三度首を振って辺りを見回す。なびくウエイブのかかった髪の毛とその匂いが鼻をくすぐり、俺は微かにむず痒い感じをおぼえた。

 幾つかのグループの生徒たちが揃ってこちらを向き、ひそひそと話しているのを見て香里は頬を硬直して再び俯いてしまった。それから涙の跡を指で乱雑に拭うと、パニックを引き起こしたのか全速力で校門を抜け外へと走り去ってしまった。唐突な行動に、俺は一瞬のタイム・ラグの後、香里を追って全速力で走り始めていた。心の隅で、ああ俺たちの姿を見てどのような印象を抱いただろうかと思いを巡らすが、あまりにネガティブな思考しか生まれてこないのと香里の足が思ったより早いことから、風聞については意図して脳裏から葬った。焦点がより強く香里に定まり、足取りも自然と軽くなる。

名雪と毎日のように走っているせいもあるのだろう。徐々に香里との差は詰まっていった。もうすぐ商店街というところで香里は雪に足を取られ、転びそうになってしまう。バランスを崩しながらもなお走り続ける香里を、俺はようやく捕らえることができた。左手を掴まれながら、なおも逃げようとする香里を近くの路地に引っ張り込み、両肩に手を置いて宥めようと必死に声をかける。

「香里、落ち着け。もう誰もいないから。ほら、周りを見てみろって。誰も見てないから、もう逃げなくて良いんだ」

 駄々っ子に言い聞かせるように、何度も俺と香里以外、領域には誰も存在しないことを強調する。すると、ようやく我に帰ったのか香里は焦点を取り戻した目でこちらを凝視した。息を整え、胸元のリボンのずれを直すとふいと目を逸らす。

「ごめんなさい。いきなりあんなところで……」それから、自らに冷笑的な感情を向けると手持ち無沙汰に髪の毛を指でいじり、明らかに俺から顔を背けた。「それに、いきなりあんなこと言われても訳が分からないわよね。馬鹿よね、人に頼ったってどうしようもないのに」そして、最後に一瞬だけこちらを振り向いて一言。「だから、さっきのことは忘れて」

 路地を見回し、微かに零れた涙を気丈そうに手で拭うと、次には先程と違って極めて理知的に、他人を寄せ付けない強固な殻にも似た雰囲気を漂わせ早足で歩き始めた。一歩、また一歩、香里との距離が遠ざかっていく。表通りに出る寸前まで呆然とそれを眺めていたが、不意に強い感情が沸き起こる。何故か理由は分からない、しかし香里は何かのことでひどく悩んでいた。俺は、香里の抱えている辛さを少しでも和らげてやりたいと願っている。どんな手段が取れるかなんて分からない。けど、話を聞くくらいならできるのではないか。いや、俺は香里が何を思っているのか聞きたいのだ。香里のためか、それとも自分のためか。もうすぐ視界から消えようとしている一人の少女を追うことに一瞬の逡巡となった感情は、しかし次には遥か彼方に消し飛んでいた。今は香里を追うことだけをしなければ。

 再び黒く濁った雪の積もる道を走る。その足はすぐに目標を補足し、乱暴に伸ばされた手は香里のしなやかな手首をしっかりと掴んだ。その感触を予想できなかったのか、香里はこちらを振り向き抗議するような鋭い視線を浴びせた。

「どうしたの、相沢君」冷静な言葉とは裏腹に、怒りすら感じられる口調。「まだ、何か用なの?」

「用って、最初に頼って来たのは香里だろ。それで、すぐになかったことにしろって言われても俺は納得できない」

「だから、さっきのことは忘れてって言ったでしょ」俺の言葉にも棘を含んだ態度を崩さぬまま、俺に掴まれた腕を振り解こうとする香里。だが、俺だってそう簡単に離すつもりはなかった。「お願いだから……その腕を離して」

「嫌だ」俺は確固たる調子で言い返す。「世の中には忘れて良いことと悪いことがある。いつも気丈で、芯を張っているお前があれほどの弱音を見せるようなことだ、それは絶対に忘れちゃいけないことなんだよ」それから、少し意地悪く突き放してみせる。「それとも、俺は香里にとって十羽一絡げにまとめられる存在なのか?」

「違う、それは違うのよ」香里は辛そうな顔をして強く首を振った。「私、相沢君に聞いて欲しいと思ったの、悩み事とか色々なこと。でも、少しばかり辛いことがあるとすぐ他人に頼って、頼りたくなってしまう弱い自分になるのが恐いの。相沢君と話をすると、胸の痞えが取れて良い気持ちが保てるのを感じるわ。けど、他人に頼って保つ平常心なんてきっと凄く脆いものだと思う。相沢君は強い心であり続けているのに、私だけ他人に頼って、縋って逃避するのは卑怯だと思ったの。だから……」

 誰かに頼るということの否定、一人で全てを抱え込むことの肯定。香里の口から飛び出したのは、一種悲痛な決意に満ちたそんな言葉だった。確かに一人で難問に取り組み、壁を突破していくことは強さだと思う。けど、それにしたって釈然としないものを感じるのだ。俺はその不確定要素を心の中に照らし、やがてそれが何であるかを知った。それは香里の感情に対する強い否定。

「香里、それは違うぞ」憂いを帯びた香里の顔をじっと見つめながら、そう言葉を紡ぐ。「俺だって、泣きたくなることがある度に誰かに頼ってるし、これからもそうなんだろうな」現に、感情の迸りを優しく受け止めてくれる名雪や秋子さんの存在に俺は随分と助けられている。「本当に辛い時には誰かに頼って良いと思う。寧ろ、それができない人間の方が弱いんだよ。だから、香里の言ったことは……強さとは言わない」

 俺の言い分が正しいかなんて、それはきっと誰にも分からない。俺が言い切ったのは自分を支えてくれたものの存在のためであるし、それが他人の世界でも正しいかは俺には断定できない。香里なら一笑に附してしまうかもしれないし、結局は俺の言いたいことなんて全然伝わらないかもしれない。ただ、きっかけになれば良いと思った……それだけだ。 香里は戸惑いの様子を瞳に宿し、如才ない表情は救いを求めるようにコンクリート塀、光を称える青空、電信柱へと視点を移す。

「そう、なのかしら。私には……よく分からない。自分で抱え込んでも、誰かに話しても結局は弱さだけが剥き出しになって胸が苦しくて、けど何処かで救いを求めてるのかもしれない」それから、暗くこもった声が静寂のままに沈黙を破った。「私に救いを求める権利なんてないのに、何処かで誰かに祈ってる。誰でも良いから、私に救いの手を差し伸べてくださいって。そんな手、何処からも差し伸べられないのに決まってるのに。けど、私には相沢君が掴んでいるこの手が、救いの手に思えるの」

 救いの手、俺は香里を掴んでいるのと反対側の手をじっと覗き見た。僅かに無骨だが、何の変哲もない。手は、何も救ってはくれない。今、香里の手首を握っている俺の手は、精一杯の心を代弁しているに過ぎない。きっと、人を救うのは限りなく優しく、そして強い心を持った人間の行為なのだろう。そして、俺にそれはない。

「都合の良い解釈かもしれない。けど、一人で何かを閉じ込め続けてきた私はこんなに弱い人間になってしまったから……」香里の顔に、強い後悔の色が浮かぶ。「正当化かもしれないけど、相沢君に思いを話して良いと思ってる。少なくとも、今はそう考えてるわ」

苦渋に満ちた視線が、強く俺に注がれる。逸らすことのできない魔力と少しの恥ずかしさを感じる。だが、恥ずかしいからやめろなんて言ったらこっちが負けたようで悔しい。何より、それは俺にその程度の許容心しかないと証明するかのようだった。だが、俺のそんな気構えもどうやら香里には通じなかったらしい。怜悧な無表情を取り戻すと、掴んだ手ごと俺を引っ張るようにして進み始めた。

「おい、どこに行くんだよ」

「落ち着いて話せるところよ」

 不意に繋がれた手は確信をもって繋がれたままに、俺と香里は商店街を進んでいった。行き交う人の流れ、途切れ途切れの喧騒。夕暮れに至る手前の活気に満ちた光景に、俺は何故か強い既視感を覚える。香里が胸倉を掴んで来た時よりは靄がかかり判然としないが、確かに俺は以前に同じような体験をしている。根拠はないが、何故かそう思えたのだ。

商店街を抜け、並木道がやがて姿を表す。葉の一枚までも枯らし、冬の厳しさを純然と示す大木のもとを通り過ぎながら、見慣れた広遠の風景が目に入るのを無意識に任せていた。ここに来るまで、俺も香里も一言も発しなかった。

 噴水もベンチも、雪化粧を施された草木も数日前と全く変わっていない。繋がれた手を自然に離し、香里はベンチに積もった雪を払うと隣の席を勧めた。勿論、俺には遠慮する理由などなかった。水が互いを打つ音がひっきりなしに聞こえ、木枯らしは枯葉を連れて駆け抜けていく。いつもなら寒いと愚痴を言うだろうが、今に限っては不思議なことにほとんど気にならなかった。

 まるで見合いのように俯き黙る、そんな状況が数分続いただろうか。一段大きな風が街を薙いでいく、そのスピードに重ねるようにして俺は口を開いた。

「で、香里は何で悩んでるんだ。食事が静かなのが耐えられないとか言ってたけど」

「ええ……」香里は唇を噛み、苦みを体の中に押し込め淡々と語り始める。「それも一つの理由だけど、多分もっと根本的なことだと思う。結局、私は栞の代わりにはなれないのよ」

 栞の代わり? 香里はそんなことを今までずっと考えていたのだろうか? いや、疑問を挟む余地はない。香里がそう言ったということは、真実にそのことで悩んでいるのだ。話はなおも続く。

「結局、私は栞に比べたら美坂家にとって小さな小さな、とるに足らない歯車でしかないのよ。栞がいた頃は、家が華やいで見えたわ。食卓もいつも賑わっていたし、例え栞がいない時でもそれなりに三人で会話があったの。けど、私がどんなに頑張ってもその明るさは決して戻ってこないのよ。廊下で明るく声を振り絞ってもぎこちなく言葉が返ってくるだけで、食事の時に一人準備して頑張っても空回りで……」冬景色の中に、香里の声だけが冷涼に響いていく。「私は栞の代わりにならなければならないのに……それができないなら生きていても虚しいだけ。ねえ相沢君、私はどうすれば栞の代わりになれるかしら。相沢君にとっての栞ってどうだったの? 私は、その代わりになれるのかな?」

 それが、答えなのだろうか。香里の囁きに近い声を聞いているうちに、俺は暗澹たる気持ちを徐々に膨らませていった。確かに香里は、以前のように心を棘のように自ら投じるようなことはしなくなった。死ぬことも望まなくなった。しかし、今香里が考えていることが多少なりとも建設的なものかと言えば絶対に違う。香里は、栞の代わりになりたいと思っている。が、人は他人には決してなれない。いくら言葉使いや態度を真似てみてもそれは棒読みだらけの三流喜劇にしかならない。更に俺の心を揺さぶったのは、最後の言葉だった。私はその代わりになれるかなと、香里は俺に向けて尋ねてきた。けど、それ故に俺は香里の言葉を否定しなければならない。

「俺は、香里に栞の代わりになって欲しいなんて思ってない」俺ははねつけるようにそう言った。「香里はそれで満足なのか? お前は本当にそうやって生きていきたいのか? 香里は自分自身、幸せになりたいと思わないのか? 不幸なだけで良いのか? 他人の代わりだけで」

「……っ、そんなこと、言わないでよ」語調に段々と怒気が含まれている様子が、手に取るように分かる。俺の言葉は香里の何かに触れてしまったのか、そんな疑問を差し挟む余裕もなく香里の声が今度は喧騒とともに響き渡った。「じゃあ、私にどうしろって言うの? 生きて私ができることはそれしかないじゃない。栞が死んだのは私のせいだから、私は少しでもそれを埋めないといけないの。それ以外に、私がこの世界に存在するどんな意味があるっていうの? お前はお前の幸せを掴めって陳腐なこと言うつもり? だったら願い下げよ。私には、幸せになる権利なんてこれっぽっちもないんだから。私が美坂香里としてこの世界に存在する価値なんて、舞い散る雪の一欠片ほども存在しないの」それから最後に、ひどく弱々しげに硝子のような言葉を放った。「存在しないのよ……」

 香里の抱く負の思考が、悉く俺の耳を打つ。香里は今も、氷の魔剣をもって自らの心を傷つけ続けていた。存在を否定することでしか自分の居場所を見出すことができない香里。それは、「私」というものを永遠の闇へ閉じ込めているように俺には思えた。強固な否定、それが肯定の言葉を投げかけることを俺に躊躇させていた。いや、そんな言葉が思いつかなかったというのが本当のところだ。香里には香里の幸せを掴んで欲しいと言ってみたところで、それは彼女が先程言ったとおり、何も言葉に響かないだけだ。いや、本当にそうなのだろか? 本当は、俺の言葉が香里に何も与えないことが恐くて、そう思っているふりをしているだけではないのか? そんな疑念がふと脳裏の奥から浮かんでくる。

 結局、俺は弱い人間なのだ。誰かを救いたいと思いながら、結局すんでのところで上手くいかない。栞の時だって、そうだったのだろう。あの時だって……。

 あの時? あの時っていつのことだろう。俺は以前にも、誰かを救えなかった経験があるのだろうか? 分からない、考えると頭に釘を刺したかのような痛みが走る。目の前が紅く染まる、それは……何時の記憶だったのだろう?

「……君、相沢君」

 声が聞こえる、香里の声だ。肩を揺さぶられる感触も感じる。俺は意識を失っていたのだろうか、いやそれとは違うような気がする。奇妙な拒絶感が頭の中を這いずり回り、視点がぼやけて上手く像を結べない。霧が視界を奪っているかのように、香里の顔も輪郭を認識するのがやっとだった。自分の体に何が起こったかもわからず、辛うじて傍に香里がいることを思い出すことができた。意図して呼吸を整え、頭を乱暴にふることでようやく現実の世界が舞い戻ってくる。そこには、先程までの公園の光景があった。

「あ、ああ……ごめん、ぼうっとしてた」

 解読不明の感情を説明する自信がなく、慌ててそう言い繕う。香里はそれでも不安げな表情を浮かべていた。

「大丈夫? 何だか、凄く真っ青な顔をしてたから。今は少し収まったみたいだけど。私、何か相沢君に変なことを言った?」

 そんなにひどい顔色だったのだろうか。俺は両手で顔をまさぐってみたが、そんなことで顔色が分かったらそれは超能力者だろう。自嘲の思いが胸に込み上げるのを抑えながら、俺は香里を安心させるために笑顔で答えた。

「ちょっと深く考えてただけだから。ほら、俺って考えるのが得意じゃないから少し真剣に考えただけでも知恵熱が出るんだよ」

 我ながらベタな言い訳だと思ったが、香里は騙されてくれたようだった。或いは騙されたふりをして、深い詮索をしないでくれたのかもしれない。

「ごめんね、悩みを相談したいって言いながら愚痴ばっかり言って、悩ませるようなことして。それに……」

 それに、の先にどんな言葉が続くのか、俺は耳を澄ませてそれを待った。しかし、香里の口から漏れるのは溜息だけで、話題はあっさりと転換されてしまった。

「今日は愚痴を聞いてくれてありがと。今日は無理だけど、近いうちに埋め合わせはするわ」

 心なしか穏やかな表情は俺に背を向け、公園を過ぎ去ろうとしている。そこで初めて、俺は自分の言いたいことを口に出すことができた。躊躇して、言い出せなかったものを。

「香里っ」俺は大声で、颯爽と歩を進める香里をこの場に留めた。踵をかえして振り向く香里に、俺は精一杯の思いをぶつけた。「さっき香里は言ったよな、陳腐なことだって。でも、いくら陳腐と思われても良い、これだけは言うぞ。やっぱり、香里には香里の幸せを掴む権利があると思う。お前はお前の幸せを探して、生きて良いんだと思う。ありきたりな言葉かもしれないけど、俺はそれが言いたい」

 何てこっ恥ずかしいのだろう。気の利いた言葉を思いつけない自分に自己嫌悪しながら、香里がどんな反応を示すかを俺は緊張の面持ちで見守った。もしかしたらまた怒らせてしまうかもしれない、だが何も言えないで後から後悔するよりはましだ。半ば開き直った俺に対して、香里は極めて冷静に言った。

「今は、まだ無理」それから、少し声のトーンをあげる。「私は私の幸せなんて到底考えられない。そんなこと、考えるのも烏滸がましいと思ってる。でも……相沢君の気持ちは嬉しいわ」

 嬉しい、香里は確かにそう言ってくれた。俺の言葉は全くの無駄でなかったことに安堵の吐息を漏らすが、しかし香里の心は未だ頑なに閉ざされているのだ。何故、香里はそこまで自分のことを責めるのだろうか? 俺には図り知ることのできない感情が渦を巻いていて、その何かが香里のことを突き動かしているのだろう。栞の代わりになりたいと考えているのも、その一環かもしれない。

「じゃあね、相沢君。また明日、学校で会いましょう」

「ああ」と答えた後、俺は香里の過ぎ行く様をずっと見送った。それから、しばしその問題について心を巡らせていた。しかし、黄昏色が空を埋め尽くす時分になっても何ら答えを導き出すことはできなった。寒風吹きすさぶ中、やり切れない気持ちを抱えて俺は早足で帰路についた。冬は、誰の身にも温かみを抱くことを許さない。

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