シーン2 〜提起編〜



 再び借りている鍵を使い、足を踏み入れた風間家。
 現場は凄惨な状況だった。
 物取りに引っ掻き回されたような部屋には、散乱する箱、血の池に横たわる人間。そして、ガイシャの頭部にはぱっくりと大きく裂けた傷があった。
 即死だったのは間違いないだろう。せめて苦しまずに死ねた事は、救いであったろうか。
 上代蒼司は、そのままゆっくりと手を合わせ、死者の冥福を……

「……待てコラ、勝手に殺すな。てか、言い過ぎじゃないのかそれは」

 おや、生きていましたか風間先輩。
 でも、頭の怪我も血の池も引っ掻き回された部屋も真実です。

「頭の怪我はそうだとしても俺にとってこの部屋の散らかり具合はこれで普通だし、 『血の池』うんぬんはテメエがこの前、
『練習に描いたシュールな絵です。いらないからあげま す』とかほざいて押し付けたやたらダークな 謎の風景じゃねえか! いいかげんに……
 あっ、ベランダにほったらかしてたのに、なんで壁に飾りだしてんだよ! 
俺の部屋に死神でも呼び込む気か?!  そういや最近鈴の音の幻聴が……

 ……マジやばですか?

「失礼ですね……将来価値が出るかもしれませんよ」

「金はいらんから、部屋の中だけでも心の平穏をくれよ」

「その点に関しては同意見ですが」

「蒼司くん。鬼畜モードはそのへんにしといてよ」

「鬼畜なんて。これでも物腰爽やかな好青年とご近所で評判なのに」

 学校では、物腰怪しいナチュラル女学生(田舎だから……)キラーと呼ばれているなんて事は、たぶん、わたしの方からツッこんだら負けなんだろうなと、さやかは思う。

「なんだ、風間君生きてるじゃない」

「なんだ、って……あんたがさっき突然部屋の中に入ってきたかと思えば、『これは密室殺人です!』とかなんとか叫びつつ、勝手に鍵閉めて出て行ったんだろ……」

「あの、先輩」

「なんだよ、蒼司」

「念のために聞きますが、さやか先輩が出て行ってから、誰もここ来てないんですよね?」

「当たり前だろ。ご丁寧に鍵閉めていったし、俺は何する気力も無くてそのまま部屋で寝転がってたんだよ」

「むむっ。となると、ますますタイムテーブルが縮まって、そこの隠された作者の真意がミスリーディングなレトリック……(ぶつぶつ」

 トランスモードに入っている先輩はほっておいて、地道に話を聞こう。

「じゃあ、風間先輩は誰に頭なぐられたんだか憶えてます?」

「はあ?! あんたら何も知らずにここ来たのか?!」

「え、僕は先輩に連れられてきただけで……」

「わ、わたしは小夜ちゃんから聞いただけで……」

「アホ! 聞いたもなにも、親が出かけてる今、ほいほいここに出入りするのは小夜ぐらいだろ!」

「え゛ーーーーー、それじゃぁ…………」


「小、夜、に、な、ぐ、ら、れ、た、ん、だ、よ!!」


 がびーん。
 ハメられました。


「い、依頼者が実は真犯人?! 今まで必死に密室の作成方法を練ってたのに?!」

「まぁ、普通に考えればそうなるでしょうが、改めて知ると脱力しますね……」

 ”鍵もっとる人間がいっちゃん怪しいに決まっとるやないかい!”

 脱力したので、とりあえず心の中で、関西ツッコミを炸裂させた。
それにしても、なんでギャルゲーの田舎には方言が無いのかなと大人気ないツッコミを入れるのは、蒼司くんもまだ若い。蒼司だけにまだ青い、なんつって。なんつって。なんつって……(フェードアウト


驚きで永遠の世界へとお旅立ちになって人は放っておいて、突っ込みいれてやって下さい、小夜さん。

「てか、あたしは単に、その……不幸な事故?があって、もう一回会いに行くのも気まずいし、さやかダシにして行こうと思ってただけなんだけど……」

(彰:どこが不幸な事故だよ……)

「なんか勝手に盛り上がってお話進めてくれるから、つい、面白くてそのままに」

「うぅ……小夜ちゃんひどいょ……。
さんざん利用しといていらなくなったらポイですかっ! 女の子を使い捨てですか?!

「先輩、そのネタは一部の人にしかわかりません」

 ツッコミ役再召喚。

「しかし、別に何も深刻な事態じゃなくてホッとしましたが……結局、なんでまた先輩、殴られたんです? やっぱアレですか。浮気ですか。それともこの前みたいに酔った勢いで
『人間の霊魂の復活説』などを力説して、交番のお世話になったとかですか?」

 彰くんなぜか広いデコに青筋浮かべて、

「……オマエが俺のことをどう見ているのかはよく解ったが、一応違うと言っておくぞ、それは」

 なんて言うけど……

「そうよ! そんな
いつものことであたしも怒ったりしないわ!」

 ほら、状況証拠が。

「(ぼそっ)……やっぱり常習してたんだ」

「違うって!」

 でもやっぱり心の中で、復活説を信じている彰君なのでした。


「そう、あたしがこんな最終手段に出ざるを得なくなったのは……」

「って、小夜、最終手段(直接暴力)、いつも俺に使ってない、……か?」

 どっちもどっちですね、キミたち。

「ええいうるさいっ! それもこれも、彰がよりにもよって、最悪な形であたしを裏切ったからよ!」

「なんとも穏やかじゃないねぇ」

「そう、コレよコレ! ほら、ここに落ちてるコレを見てみなさいよ!」

 小夜さんはそう言って、部屋に散らばっているよくわからない物の中の、一点を指差した。

 そこにあったものとは……!


「こっ、これはっ」

「まさか…………」




 とぅびぃこんてぃにゅー♪



 

 




とっとと戻ります

次も読んであげます