2月某日。

VDay向け、チョコレート菓子の講習が某所で行われることになった。

(浩平、喜んでくれるかな?)

(更なる乙女への道のために)

(美味しそう……)

(みゅー)

(頑張るの)

「ということで、私が講師の里村茜です……宜しく」

茜のお料理教室

--Her Cooking Labolatory--

長森「……って里村さん、なんでこんな所にいるの?」

茜「バイトです」

長森「バイト?」

茜「ええ。あれ(注1)を買うためにはお金が一杯いるので……」

長森「あれって?」

茜「……ぬいぐるみです。それと永森さん」

長森「わたし、永森じゃないもん」

茜「文章じゃないから分かりませんよ。それより、ここでは先生と呼んでください。他の方に示しが付きませんから」

七瀬「って、そんな畏まるようなメンバでもないじゃない」

茜「確かに、長森さんと七瀬さんは同級生です。澪のことも良く知ってますし、川名さんも学食の女帝という噂は聞いているので知っています」

みさき「えっへん」

七瀬「威張るようなことじゃないと思うけど……」

茜「繭のことも良く知ってます。何しろ長森さんが見てない所で随分と髪を引っ張って行きましたから……」

鋭い眼光を向ける茜、脅える繭。

繭「みゅ〜、こわい……」

茜「しかしその辺りの事情を慮ったしても、今日は私が教える立場です。何も知らない輩に溜め口聞かれたくはありませんから」

七瀬「溜め口ってあんた……何かいつもと性格違うわよ」

茜「……気のせいです」

長森「う、うん、分かったよ。じゃあ今日は一日宜しくお願いします、里村先生」

茜「うん、宜しい」

七瀬「宜しいってあんた……」

がんっ

茜の投げたおたまが、七瀬の頭に命中した。

茜「私のことは先生と呼べと言った筈です。他の人も、良いですね」

七瀬「わ、分かりました……里村先生」

みさき「宜しくね、先生」

澪『先生、宜しくなの』

繭「みゅー、みゅー♪」

がんっ

茜の投げたおたまが、繭の頭に直撃した。

茜「人の話はきちんと聞かないと……良い大人にはなれませんよ」

繭「みゅ……ごめんなさい、先生」

七瀬(うっ、繭を一撃で宥めるあの冷酷さ……只者じゃないわ)

めきいっ

茜の投げた炊飯ジャーが、七瀬のおでこに直撃した。

茜「そこ、変なことを考えない」

七瀬「だからって炊飯ジャー投げることは……って、なんで考えていることが分かるのよ」

茜「……ジャム好きの未亡人(注2)に教わりました」

長森「……と、とにかく、今日はお菓子作りを習いに来たんだから。二人とも落ち付いて」

七瀬「くっ……まあ良いわ、これも乙女になるため」

茜「そうですね、こんなアホを相手にしていたら時間が勿体無いです」

七瀬「あ、アホってあんた、言って良いことと悪いことが……」

ごちいっ

茜の投げた研ぎ石が七瀬に命中した。

茜「先生と……呼んで下さい」

七瀬「わ、分かりましたあ」

長森(凄い、浩平と互角にやりあえる七瀬さんをあそこまで……)

みさき「暇だね〜」

澪『暇なの』

みさき「……ごめん、字が見えないや」

繭「みゅー」

みさき「澪ちゃん、みゅーって言いたいの?」

澪『違うの』

みさき「……ごめん、字が見えないや」

茜「そこ、私語は慎むように。では、今日はチョコレート・ケーキを作ります。本当は製菓業界に踊らされているようで非常に不愉快なのですが、仕事なので仕方がありません」

七瀬(だったらやらなければ良いのに……)

茜「……次は包丁を投げますよ」

七瀬「あ、ごめんなさい、どうか先に進んでください」

茜「宜しいです」

みさき(なんだ、包丁投げないんだ……ちょっとがっかり)

茜(川名さん、可愛い顔して心は鬼ですね)

茜「まずは卵黄と卵白を分けて……」

長森「先生、質問です」

茜「なんでしょうか?」

長森「この砂糖一キログラムっていうのは全員分ですか?」

茜「いえ、一人分です。まず卵黄と卵白を分けてください」

茜(長森さんは料理慣れしているだけあって上手ですね。七瀬さんもあの態度の割には結構……)

みさき「フンフンフン(鼻歌)」

茜(川名さん、目が見えないのにあのスピードは……流石屋上で電波を集めているだけのことはあります。澪は手付きが危ないけど何とか。やはり問題は繭ですね)

繭「みゅー、みゅー♪」

ぐしゃっ

繭「みゅー、みゅー♪」

めしゃっ

繭「みゅー、みゅ……」

すちゃっ

茜は繭の首筋に包丁を突き付けた。

茜「繭、卵は投げて遊ぶものじゃないですよ」

繭「うっ、ひっく……」

茜「良い娘だから、ちゃんとやりましょうね」

繭「……うー、分かった」

茜(どうやら繭も頑張り始めたようですね。でも、黄身や殻が混ざってます……まあ、オーブンに入れる時に私が作っておいた土台と交換すれば良いでしょう)

茜「次に白身をメレンゲ状になるまで撹拌します。ここで根を上げた人はとっとと出ていって下さい。そんな人にはお菓子作りをやる資格なんてないです」

七瀬(この娘、本当に茜? まさかドッペル(注3)……いや、余計なことは考えない方が身のためね)

茜「それが賢明です」

みさき「フンフンフン(鼻歌)」

澪『はうー、疲れるの』

繭「うーっ、零れちゃった」

長森「よし、こんなものかな?」

茜「ええ、上出来です。次に湯煎したバターと、砂糖五百グラム……」

七瀬「五百グラム〜〜」

茜「そこ、声が大きいです」

長森「先生、流石に五百グラムは多過ぎませんか」

茜「何を言ってるんですか。真のケーキというものは作れません。ちなみに湯煎したチョコレートにも同量の砂糖を加えるので」

七瀬「げっ、それって本当に食べ物なの?」

さくっ

七瀬留美、ここに死す。享年十七歳、乙女しぼ……

七瀬「だあっ、あたしはまだ生きてるわよ。茜……先生、包丁投げるのは危ないですよ」

茜(ちっ、当たりませんでしたか)

みさき(ちぇっ、当たらなかったんだ)

茜「大事な生徒を殺すわけないじゃないですか。さっさかと砂糖を混ぜて下さい」

七瀬(お、鬼だわ……)

さくっ

茜「私は偽善者(注4)ではありません」

七瀬「そこまで言ってないわよ……って、何も言ってない!!」

長森「……包丁投げるのは危ないと思うよ、先生」

茜「そうですね。七瀬さんがどうなろうと私の知ったことではありませんが、ここを首になったらことです」

七瀬「って、私が死んでもいいってことなの?」

茜「……はい」

七瀬(もう怒る気も失せたわ……)

茜「とまあ、そんなこんなでケーキが出来あがった訳です」

澪『先生、何言ってるの?』

茜「……ナレーションです」

長森「うわあっ、美味しそうだねえ」

七瀬「ええ……苦節三時間……嗚呼、本当に長かった」

みさき「今回、私たちあまり出番がなかったね」

澪『そうなの』

みさき「……ごめん、字がみえないや」

七瀬(川名さん、わざとやってるんじゃないでしょうね……)

繭「みゅーっ、早く食べるの」

茜「では、いっせーので食べましょう」

ぱくっ、むしゃむしゃ、ごっくん。

全員がケーキを咀嚼した音。

(うっ……あ、甘すぎるよ〜)

(ぐあっ……な、何よこれ……)

(えうっ、えうっ、なの)

(みゅ……)

(幸せだよ〜)

(……美味しいです)

こうして茜の料理教室は、四人の死者を残しながらも幸福に終了した。

翌日、茜はバイトを首になったという……。

茜(ふう、先は長いですね)

 

今回のバイト料 10000円

憧れのぬいぐるみまであと 490000円


(注1)主と呼ばれる可変MS……というのは嘘

(注2)水瀬という名字以外、全てが謎である

(注3)ELPODは恐い装置です

(注4)ちーちゃん(爆)

 

あとがきっぽいもの

里村茜月間という企画に賛同している以上、茜を出さねばと思い書いたSSです。

内容は……茜、壊れてます。

茜ファンの方、石、投げないでください。

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