今は昔、そしてこことは理も物理法則も違う世界。
そこは旅と共に生き、旅の中で死ぬ……そんな風来人と呼ばれるものが多く存在する。
彼らの求めるものは一様にして、まだ見ぬ秘境、新天地、そして……
その中でも、今一番風来人たちの間で有名な秘境テーブルマウンテン。
そこは塔状の不思議な形をした山がそびえる、不思議な場所。
そこには一つの伝説がある。頂上には黄金に満たされた桃源郷があり、富の象徴である黄金のコンドルという伝説の生き物が守護する楽園だという。
そこに辿り着いた者には、永遠が約束されるという。
その永遠が何かはさておき、旅に生きる者、名声を得たい者、富を求める者、様々な種類の人々がその頂上を目指してテーブルマウンテンへと挑んだ。
しかしそのほとんどは、テーブルマウンテンまで辿り着けず、その足元に広がる大自然の元に敗れ去って行った。
運良く、或いは運悪くと言った方がいいかもしれないが、テーブルマウンテンまで足を運んだものも、その中に巣食うモンスターの強さに一たまりもなく破れて行く。
そしてこのダンジョンの最大の特徴は、一度入る度にその構造を変えるという点である。そのため従来の秘境のような、マッピングや目印を付けるなどの行為は全て無駄になってしまう。
それがテーブルマウンテンをして、前人未到の秘境足らしめる所以であった。
そして幾らかの時が経ち、一人の風来人がテーブルマウンテンより更に後方、一つの宿場町へとやって来た。
三度傘に楊枝を口に加えたいささか古臭いスタイル、しかし鍛えられた体と隙のない視線は、その若さからは想像できないほどの修羅場をくぐってきたことを窺わせる。
そしてその右腰、徳利のような入れ物の中には一匹の珍しい生き物が存在している。白く細長い、つやつやとした毛並みを持つその動物。
風来人の名前は折原浩平、その動物の名はフェレットのみゅー語りイタチのコッパと言う。
「なんだよ、そのみゅーって言うのは。それに俺はフェレットじゃなくて、語りイタチ……」
「まあまあ、これはお約束って奴だからな」
「なんだよ、そのお約束ってのは」
この会話を見て、独り言だと思った方がいるだろう。しかしそれは間違いである。これはコッパと浩平の会話なのだ。
そう、語りイタチとは名前の通り、人間の言葉を喋れるイタチである。しかしその希少性と毛皮としての有用性から、既にほとんど狩り尽くされた後であった。
つまり、人間の欲の犠牲になったのである。そんなコッパと浩平がどうして仲良くなったのか、それはまた別の話であるのだが……。
それはそうと、浩平とコッパは一つの宿に足を伸ばした。と言っても、そこが唯一の宿であるのだが。この宿場町自体、テーブルマウンテンの客を見越して作られたもので、その歴史は浅い。なのに宿場内は異様なほど荒れている。
それもこれも、風来人という流れ者の世話をしているからであろうことはすぐに推測が付く。彼らの中にはガラの悪いものも結構存在するからだ。
しかし彼らのような風来人は、同時に同業者によって軽蔑され虐げられる存在でもある。何故なら、彼らのような存在は風来人という職業全てに関わって来るからである。
要するに、掲示板に誹謗中傷を書いたりするとネット仲間から総スカンを食うのと同じである。
……なんでそんな話題を例に出すのかって?
まあそれはさておき、浩平はテーブルマウンテンの情報を収集しようと、早速町を偵察して回る。
「お前もあそこに挑むのか?無理無理、あそこには誰も辿り付けやしないって。俺も明日、ここから退散するつもりさ」
「テーブルマウンテンに登るのかい、やめた方がいいと思うけどね、ひっひっひ」
「よしなって、そんな無謀なこと」
話を聞いて回るに、既にテーブルマウンテン攻略には厭戦ムードが漂っていた。
「全く、どいつもこいつも根性ねえ奴らだな」
「ああ、全くだ」
夕食をほうばりながら、口々に頷く一人と一匹。
「まあ、俺の風来人としての力量を試すには丁度いいかもしれないな」
一抹の不安はあるものの、浩平は基本的に楽天家だった。
「じゃあ、明日は早いから寝るか」
「おう」
こうして浩平とみゅーコッパは早めの寝床についたのだった。
「だから、なんでみゅーなんだよ……」
そんな寝言を交えつつ。
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「例えば、オヤジ戦車の肉を食ったとする」
俺は隣にいた少女にそう言った。
「そして通路際で火炎入道に挟まれたとする。そしたらどうなると思う」
「死んじゃうんだよ」
確かに彼女はそう言った。
そう、それは運命なのだ。変えようのない運命……。
後書:オヤジ戦車の肉は控えましょう(笑