第三回 大根忌憚

「こ、こふっ……」

浩平は再び、宿場町で横になっていた。しかし思うのだが、何故気付くとここで寝ているのだろうか……。まさか、宿の女将が勝手に?

浩平は無意識に、貞操の危機を感じた。

「しかし、今更ながらに思うんだが……」

浩平は何もない宙に向かって話し出した。話し相手は勿論、フェレットのみゅー

「だから、みゅーって何なんだ?」

恐らく、それがわかってないのは当の本人だけだろう。浩平も無視して語り出した。

「なんか、俺の体、弱くなってないか?」

以前の浩平は、ドラゴンとまでは行かなくても、ミノタウロスくらい楽に狩れる程の実力は持っていた筈なのに、今ではマムルに易々とやられている。

「お前、知らなかったのか?」

すると隣から、前回もここにいたいかついスケベ中年風来人が、何時の間にか座っていた。

「なんか失敬な肩書きが増えているような気もするが……まあいい、それよりも少年、このダンジョンではな、どれほどの力量を誇っていても、その能力は入口でリセットされるんだよ」

「じゃあ、強くなりたければダンジョンの中で鍛えるしかないってことか?」

「うむ、その通りだ。それゆえに、このテーブルマウンテンのダンジョンは難航不落として恐れられているのだよ。わかったかね」

浩平は傷の残る体で、何とか頷いた。

「まあ、最初は少し違和感があるものだよ。私だって最初の頃はお化け大根やボウヤーに、よくやられてね、大方、君もその口だろう」

「は、はあ……」

二回連続でマムルにやられたなんて知れたら、末代までの恥だ。浩平は口を濁した。

そうして数々の事実と触れられたくない傷を残しながら、浩平は三度ダンジョンへと挑むのだった。

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「要するにだ、雑魚といえども油断は禁物ってわけか」

浩平は保存の壷[4]を拾った。

「でも浩平、自分の力が弱くなってるのに気付かなかったのか?」

「ああ、言われてみれば確かに……って感じはするけどな」

浩平は360ギタンを壷の中に閉まった。

「……普通、気付くぞ?」

コッパの呟きは、しかし誰にも聞こえなかった。

「つまり、満腹度との兼ね合いで出来るだけモンスターを殺って、能力を上げるべきなんだろうな」

「殺って……って、物騒な言い方だな」

「じゃあ、テーブルマウンテン制覇のために、尊い糧となって貰うということで」

「そっちの方が、言い方がえげつないぞ」

そんなことを話しつつも、今度こそは邪魔者(七瀬:お竜や長森:ナオキ)も現れず、平穏に第三階層まで辿り付いた。

「前は、ここでやられたんだよな……」

ナオキから貰った幸福の杖というやつを振って、レベルアップしたモンスターに瞬殺されそうになったのだ。

「今度会ったら、ただじゃ置かないからな、長森」

「だから、長森って……」

そんなことを話している矢先、浩平とコッパは同業者の見慣れた姿を見付けた。

「あれは……風来人の挨拶にこだわる沢村君ではないか」

「おい、前の時は沢口って言ってなかったか?」

しかしアバウトな浩平は、そんなことは気にしない。浩平が沢口(或いは沢村:本名は南)に近付くと、彼は近場のお化け大根に向かって杖を投擲しようとしていた。

ラインバッハ・シュトルテハイム13世は幸福の杖[0]を投げた。

お化け大根は目回し大根にレベルアップした。

どこかで太鼓が鳴るような音がして、浩平は軽い眩暈を起こしそうになった。それより、そんな立派な名前を持っていたのか、沢山よ……浩平は心から思った。

目回し大根は混乱草を投げた。

シュは混乱した。

シュは浩平に殴りかかった。浩平に2のダメージ。

「ぐはっ、何故……しかも、名前が凄い略され方……」

浩平は微かな理不尽さを覚える。条件反射的に、浩平は沢村を先程手に入れたカタナで斬りかかっていた。

浩平の攻撃。沢村は18のダメージを受けた。

「くっ、何時の間にかデフォルトネームが変わっているし……って、おい、大丈夫か、沢村」

「お、俺は南だ……」

「よしっ、意識はまだあるようだな」

「自分で奈落に突き落としといて、よくそんなこと言えるな……」

コッパのツッコミは、最早誰にも相手にされなかった。

「それより沢村、なんであんな馬鹿なことをした? あれはモンスターをレベルアップさせる……」

「知ってたさ」 沢村は名前を訂正する気すら起きないようだ。

「けど、母親の病気に……目回し大根の怪しく枝分かれした根っ子が必要なんだ」

嫌な部分を必要とする病気だな、そう浩平は思った。

「その時、とある女の子が現れて、これを使えって……」

女の子、確か長森に同じ杖を渡した奴も女の子と話していたな……浩平はそんなことを思い出す。

「そうか……じゃあ、俺はもう行くぞ」

浩平が背を向けようとすると、沢村は袖を引っ張った。

「待て、さっきの話を聞いて助けようって気にはならんのか?」

「そうしたいのはやまやまだが、今の俺では勝ち目はないからな」

目回し大根は毒草を投げた。シュに5のダメージ。

シュは力が1下がった。動きが遅くなった。

「くあっ……お、俺は、もう駄目だ。浩平、俺の遺志を継いでくれ……」

「遺志を継げって、おい……」

浩平は何とか離脱しようとしたが、既に遅かった。目回し大根は、既に浩平を次の標的に設定している。

「くっ、やるしかないってことか……」

浩平は第一階層で拾った矢を装備する。近寄られる前に、遠距離からやる……そう決心したのだ。

「一撃必中、ライジング・アロー〜〜〜〜〜」

「なんだよ、その技って……」

目回し大根に2のダメージを与えた。

目回し大根は混乱草を投げた。浩平は混乱した。

「くはっ、目が回る……いや、こんな所でやられるわけにはいかない」

浩平は気力を振り絞って、次の矢をつがえた。

目回し大根に1のダメージを与えた。

目回し大根に2のダメージを与えた。

目回し大根に1のダメージを与えた。

目回し大根に2のダメージを与えた。

目回し大根に1のダメージを与えた。

目回し大根に2のダメージを与えた。

「くそっ、一向に弱る気配さえないぞ」

そんなことを言ってる間に、目回し大根は既に浩平に隣接していた。

目回し大根の攻撃、浩平に23のダメージ。

「ぐあっ、こいつ、クロスボウヤーより凶悪だ……」

レベルが上がっていたから凌げたものの、次に攻撃を食らえば確実に死だ。いや、例の宿場町送りだ。

「こうなれば、俺の取っておきを見せてやる……」

「とっておき?」 コッパが満身創痍の浩平に声を掛ける。

「そう、某銭方のとっつあんに倣った窮極の奥義、ギタンと引き換えに敵に多大なるダメージを与える脅威の技、銭投げをお見舞いするのだ」

浩平は、万が一のために保存の壷に入れておいたギタンを取り出した。

「食らえ、乾坤一擲、ファイナル銭投げクラ〜〜〜〜ッシュ」

その後、浩平が聞いたのは、風を切る音だけだった……。

第三回 テーブルマウンテン三階にて、目回し大根に倒される。


後書:当たって欲しい時に、当たらないものです(汗

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