「いてて、くそっ、七瀬の奴……」
浩平は宿場町の床に横たわりながら、一人悪態を付いていた。
「だから、七瀬じゃないって……」
「そうだな、それにしてもあの煙はなんなんだ?」
浩平がそういうと、横からがたいの良いおっさんの風来人が声をかけて来た。
「成程、君もあの女の色香に迷った口だな」
そう好色そうに話しかけて来る。浩平は違う、と言おうとして口を噤む。まさか大型地雷に引っ掛かった所をマムルにやられたなんて、知れ渡るようなことがあれば末代までの恥だ。
「ま、まあそんなところだ」
するとおっさんは豪快な笑い声を立てた。
「はっはっは、君もまだ風来人としては未熟なようだね」
「そういうおっさんはどうなんだよ」
「俺か、俺はもっと年上の……いや、けふんごふん。まあ、今度から気を付けるんだな」
おっさんはそう言うと、豪快な笑い声と共に宿を去って行った。
「……まあ、いいこともあるさ」
浩平はコッパに慰められて、悲しい気分になった。
次の日、ダメージも回復した浩平は早速第二回目の旅に出ることにする。
「お、おい、お前……」
と、向こうから包帯を巻いた男が近付いて来た。
「今日こそ、挨拶を、していってもらう……」
浩平はそいつを一撃の元に葬り去ると、
「じゃあな、沢口」 そう言い残して再びテーブルマウンテンへと向かう旅路についた。
「お、俺は、南……だ」 という沢口の断末魔の声を手向けとして。
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「おっ、刀が落ちている。もーらいっと」
浩平はカタナ−1を装備した。カタナは呪われていた。
「……お前、最近とことんついてないな」
「五月蝿い、そんなの俺だってわかってる」
浩平はわざとらしく咳払いすると、
「まあ、前の棍棒よりはましだろう……っと、また武器だ」
浩平はどうたぬきを拾った。
「……お前、最近とことん……」
「同じ台詞を二度言うな」
浩平は泣きたい気分を抑えながら、それでも今度は順調に第一階層を突破する。
「よし、少なくとも前回の記録は超えたぞ」
「威張れることか、それって」
コッパのツッコミに、何も返せない浩平。
「まあ、終わりよければ全て良しだ。ようは俺が一番乗りすればいいだけのことだ」
基本的にポジティブシンキングな浩平は、呪われたカタナをかざすとそう言った。
「よし、この調子で一気にテーブルマウンテンを……」
そこまで言って、浩平の口が止まる。
「おい、何か聞こえないか?」
「いや、俺には何も……」 浩平の問いにコッパは首を振る。
「……だもん」
「ほら、確かに聞こえたぞ。こっちだ」
浩平はダッシュで声のする方向へと向かう。
「おい、長森じゃないか。何コックの格好なんてしてるんだよ」
「違うもん。私長森じゃないもん。さすらいの料理人、ナオキだよ」
「な、しかあってないじゃないか。まあ料理上手だからいいけどな。これが澪や柚木だったら……」
「だから、長森って誰だよ」
「それはお約束ってやつだ。それより長森……」
呼ばれて振り向く長森……もといナオキ。
「だから長森じゃないもん」
「そんな喋り方するのはお前しかいないぞ。さっ、正直に言え。今なら罪も軽い」
「だから違うもん」
必死に抗議するナオキ、馬耳東風な浩平。
「まあいいや、それより何やってんだ、こんな所で」
浩平が尋ねると、ナオキははっと我に帰る。
「そうだ、こんなことをしてる場合じゃないんだよ。私、新しい料理を開発するために、ここに来たの」
「新しい料理?」
「うん、ここは珍しいモンスターが一杯いるから。それで先日、ここまでやって来たんだよ」
「そうか、じゃあ頑張ってな」
浩平が立ち去ろうとすると、ナオキはその袖を引っ張った。
「待って、あなたは風来人なんだよね」
「まあ、そうだが」
「だったら、頼みたいことがあるんだよ。この杖はブフーの杖って言って、モンスターをお肉に変えちゃうんだよ」
「へえ、そんな杖があるのか?」
浩平は古びた樫造りの杖を見て、素直に感心する。そんな効力を持った杖があるとは初耳だったからだ。
「うん」
「だったら、その杖でモンスターを肉に変えればいいだろう。もしかして、それが頼みとか?」
「そうだよ」
ナオキは泣きそうな顔で答える。
「でも、そんなの自分で出来ないのか?」
「……だって、モンスターが恐いんだもん」
しばらく沈黙する二人。
「だったらこんな所に来るなよ」
「だって、お師匠様がいったんだもん。旅に出て見聞を広めるんだって」
「……はあ、わかったよ。で、俺は何のモンスターの肉を持って帰ればいいんだ?」
「マムルの肉」
「はあ、あれって最弱モンスターじゃないか。なんであんなんが恐いんだ?」
「だって、恐いものは仕方ないもん」
地団太を踏む勢いのナオキ。それを見て浩平は、大きく溜息を付いた。
「わかった、長森には世話になってるからな。いっちょ、ひとっ走りしてくる」
そう言うと、相手の返事も聞かずに走り出していた。
「……だから、長森じゃないもん」
NOW LOADING……
「おっ、早速マムル発見」
浩平はブフーの杖[0]を投げた。ブフーの杖は地面に落ちた。
「くそっ、外したか」
マムルは浩平に2のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に2のダメージを与えた。
浩平はブフーの杖[0]を拾った。浩平はブフーの杖[0]を投げた。ブフーの杖は地面に落ちた。
マムルは浩平に2のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に2のダメージを与えた。
「……こいつ、殺していいか?」
「駄目だって。マムルの肉がいるんだろう?」
怒り沸騰寸前の浩平を、コッパが必死で宥める。
「仕方ないな……」
浩平はブフーの杖[0]を拾った。浩平はブフーの杖[0]を投げた。ブフーの杖は地面に落ちた。
マムルは浩平に2のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。
「やっぱり殺す……」
「わ、落ち着けって浩平」
結局、次でようやくマムルを肉に変えることに成功した。
「ほら、マムルの肉だ」
「あ、ありがとう。でも、どうしてそんなにぼろぼろななの?」
「いや、それはな。ちょっと地雷を踏んでしまって……」
マムルにタコ殴りにされたなんて、口が裂けても言えない浩平だった。
「ありがとう、これで料理の材料も揃ったし。だから浩平には、これあげるね」
ナオキはそう言って、浩平に一本の杖を手渡した。
「これは?」
「よくわからないけど、さっき通りがかった女の人が幸福の杖だって言ってた。敵に振ると、幸福なことがあるんだって」
「胡散くせ―なー、本当なのか?」
「うん、親切そうな人だったし」
「そうか、ありがとな長森」
「だから長森じゃないもん……って、あーーっ」
ナオキの抗議も聞かずに、浩平は既に走り去っていた。
NOW LOADING……
「危なっかしい橋だな、おい」
浩平はあれから第二階層を抜け、渓流へと指しかかっていた。
「ここを超えれば、竹林の村だな」
その時、向こう側から敵が向かって来た。どうやら先程の森よりは、幾分か強い敵のようだ。
弓を持ったそいつは、浩平を射線上に捕らえると、すぐさま矢を放ってくる。
浩平は5のダメージを受けた。
「くっ、盾がないのは辛いな。よし、この杖を……」
浩平はそう言うと、早速長森……もとい、ナオキに貰った杖を取り出して、敵に振るう。
幸福の杖[0]は虚しく空を舞った。
ボウヤーは木の矢を放った。浩平は5のダメージを受けた。
「……なーがーもーりー」
次に会ったらお前の料理をちゃぶ台返しの刑だ。浩平はそう心に誓った。
浩平は幸福の杖を投げた。ボウヤーはレベルが上がってクロスボウヤーになった。
何だって?
クロスボウヤーは木の矢を放った。浩平は12のダメージを受けた。
「ぐおおっ、な、なんで……」
薄れる意識の中で、ナオキの言葉が思い出される。
(敵に振ると、幸福なことがあるんだって)
あれは、敵に幸福なことがあるって……意味だったのか。
取りあえず、斜め移動しながら回避だ。そう思って橋の上まで来ると……
マムルは浩平に2のダメージを与えた。
浩平は力尽きた。
第二回 テーブルマウンテン三階にて、マムルに倒される。
後書:かふっ、オチが一緒だ……。