第二回 さすらいの料理人

「いてて、くそっ、七瀬の奴……」

浩平は宿場町の床に横たわりながら、一人悪態を付いていた。

「だから、七瀬じゃないって……」

「そうだな、それにしてもあの煙はなんなんだ?」

浩平がそういうと、横からがたいの良いおっさんの風来人が声をかけて来た。

「成程、君もあの女の色香に迷った口だな」

そう好色そうに話しかけて来る。浩平は違う、と言おうとして口を噤む。まさか大型地雷に引っ掛かった所をマムルにやられたなんて、知れ渡るようなことがあれば末代までの恥だ。

「ま、まあそんなところだ」

するとおっさんは豪快な笑い声を立てた。

「はっはっは、君もまだ風来人としては未熟なようだね」

「そういうおっさんはどうなんだよ」

「俺か、俺はもっと年上の……いや、けふんごふん。まあ、今度から気を付けるんだな」

おっさんはそう言うと、豪快な笑い声と共に宿を去って行った。

「……まあ、いいこともあるさ」

浩平はコッパに慰められて、悲しい気分になった。

次の日、ダメージも回復した浩平は早速第二回目の旅に出ることにする。

「お、おい、お前……」

と、向こうから包帯を巻いた男が近付いて来た。

「今日こそ、挨拶を、していってもらう……」

浩平はそいつを一撃の元に葬り去ると、

「じゃあな、沢口」 そう言い残して再びテーブルマウンテンへと向かう旅路についた。

「お、俺は、南……だ」 という沢口の断末魔の声を手向けとして。

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「おっ、刀が落ちている。もーらいっと」

浩平はカタナ−1を装備した。カタナは呪われていた。

「……お前、最近とことんついてないな」

「五月蝿い、そんなの俺だってわかってる」

浩平はわざとらしく咳払いすると、

「まあ、前の棍棒よりはましだろう……っと、また武器だ」

浩平はどうたぬきを拾った。

「……お前、最近とことん……」

「同じ台詞を二度言うな」

浩平は泣きたい気分を抑えながら、それでも今度は順調に第一階層を突破する。

「よし、少なくとも前回の記録は超えたぞ」

「威張れることか、それって」

コッパのツッコミに、何も返せない浩平。

「まあ、終わりよければ全て良しだ。ようは俺が一番乗りすればいいだけのことだ」

基本的にポジティブシンキングな浩平は、呪われたカタナをかざすとそう言った。

「よし、この調子で一気にテーブルマウンテンを……」

そこまで言って、浩平の口が止まる。

「おい、何か聞こえないか?」

「いや、俺には何も……」 浩平の問いにコッパは首を振る。

「……だもん」

「ほら、確かに聞こえたぞ。こっちだ」

浩平はダッシュで声のする方向へと向かう。

「おい、長森じゃないか。何コックの格好なんてしてるんだよ」

「違うもん。私長森じゃないもん。さすらいの料理人、ナオキだよ」

「な、しかあってないじゃないか。まあ料理上手だからいいけどな。これが澪や柚木だったら……」

「だから、長森って誰だよ」

「それはお約束ってやつだ。それより長森……」

呼ばれて振り向く長森……もといナオキ。

「だから長森じゃないもん」

「そんな喋り方するのはお前しかいないぞ。さっ、正直に言え。今なら罪も軽い」

「だから違うもん」

必死に抗議するナオキ、馬耳東風な浩平。

「まあいいや、それより何やってんだ、こんな所で」

浩平が尋ねると、ナオキははっと我に帰る。

「そうだ、こんなことをしてる場合じゃないんだよ。私、新しい料理を開発するために、ここに来たの」

「新しい料理?」

「うん、ここは珍しいモンスターが一杯いるから。それで先日、ここまでやって来たんだよ」

「そうか、じゃあ頑張ってな」

浩平が立ち去ろうとすると、ナオキはその袖を引っ張った。

「待って、あなたは風来人なんだよね」

「まあ、そうだが」

「だったら、頼みたいことがあるんだよ。この杖はブフーの杖って言って、モンスターをお肉に変えちゃうんだよ」

「へえ、そんな杖があるのか?」

浩平は古びた樫造りの杖を見て、素直に感心する。そんな効力を持った杖があるとは初耳だったからだ。

「うん」

「だったら、その杖でモンスターを肉に変えればいいだろう。もしかして、それが頼みとか?」

「そうだよ」

ナオキは泣きそうな顔で答える。

「でも、そんなの自分で出来ないのか?」

「……だって、モンスターが恐いんだもん」

しばらく沈黙する二人。

「だったらこんな所に来るなよ」

「だって、お師匠様がいったんだもん。旅に出て見聞を広めるんだって」

「……はあ、わかったよ。で、俺は何のモンスターの肉を持って帰ればいいんだ?」

「マムルの肉」

「はあ、あれって最弱モンスターじゃないか。なんであんなんが恐いんだ?」

「だって、恐いものは仕方ないもん」

地団太を踏む勢いのナオキ。それを見て浩平は、大きく溜息を付いた。

「わかった、長森には世話になってるからな。いっちょ、ひとっ走りしてくる」

そう言うと、相手の返事も聞かずに走り出していた。

「……だから、長森じゃないもん」

NOW LOADING……

「おっ、早速マムル発見」

浩平はブフーの杖[0]を投げた。ブフーの杖は地面に落ちた。

「くそっ、外したか」

マムルは浩平に2のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に2のダメージを与えた。

浩平はブフーの杖[0]を拾った。浩平はブフーの杖[0]を投げた。ブフーの杖は地面に落ちた。

マムルは浩平に2のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に2のダメージを与えた。

「……こいつ、殺していいか?」

「駄目だって。マムルの肉がいるんだろう?」

怒り沸騰寸前の浩平を、コッパが必死で宥める。

「仕方ないな……」

浩平はブフーの杖[0]を拾った。浩平はブフーの杖[0]を投げた。ブフーの杖は地面に落ちた。

マムルは浩平に2のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。マムルは浩平に1のダメージを与えた。

「やっぱり殺す……」

「わ、落ち着けって浩平」

結局、次でようやくマムルを肉に変えることに成功した。

「ほら、マムルの肉だ」

「あ、ありがとう。でも、どうしてそんなにぼろぼろななの?」

「いや、それはな。ちょっと地雷を踏んでしまって……」

マムルにタコ殴りにされたなんて、口が裂けても言えない浩平だった。

「ありがとう、これで料理の材料も揃ったし。だから浩平には、これあげるね」

ナオキはそう言って、浩平に一本の杖を手渡した。

「これは?」

「よくわからないけど、さっき通りがかった女の人が幸福の杖だって言ってた。敵に振ると、幸福なことがあるんだって」

「胡散くせ―なー、本当なのか?」

「うん、親切そうな人だったし」

「そうか、ありがとな長森」

「だから長森じゃないもん……って、あーーっ」

ナオキの抗議も聞かずに、浩平は既に走り去っていた。

NOW LOADING……

「危なっかしい橋だな、おい」

浩平はあれから第二階層を抜け、渓流へと指しかかっていた。

「ここを超えれば、竹林の村だな」

その時、向こう側から敵が向かって来た。どうやら先程の森よりは、幾分か強い敵のようだ。

弓を持ったそいつは、浩平を射線上に捕らえると、すぐさま矢を放ってくる。

浩平は5のダメージを受けた。

「くっ、盾がないのは辛いな。よし、この杖を……」

浩平はそう言うと、早速長森……もとい、ナオキに貰った杖を取り出して、敵に振るう。

幸福の杖[0]は虚しく空を舞った。

ボウヤーは木の矢を放った。浩平は5のダメージを受けた。

「……なーがーもーりー」

次に会ったらお前の料理をちゃぶ台返しの刑だ。浩平はそう心に誓った。

浩平は幸福の杖を投げた。ボウヤーはレベルが上がってクロスボウヤーになった。

何だって?

クロスボウヤーは木の矢を放った。浩平は12のダメージを受けた。

「ぐおおっ、な、なんで……」

薄れる意識の中で、ナオキの言葉が思い出される。

(敵に振ると、幸福なことがあるんだって)

あれは、敵に幸福なことがあるって……意味だったのか。

取りあえず、斜め移動しながら回避だ。そう思って橋の上まで来ると……

マムルは浩平に2のダメージを与えた。

浩平は力尽きた。

第二回 テーブルマウンテン三階にて、マムルに倒される。


後書:かふっ、オチが一緒だ……。

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