第八話 白絵図の完成

不可能犯罪。

五文字のその言葉は、食堂にいるメンバ全員に重くのしかかった。

新たな二つの殺人は、全員の緊張状態を極限まで高めていた。

張り詰めた空気。

滲み出るような不信感。

「不可能犯罪って、じゃあ秀一郎さんの部屋の鍵は?」

祐一は思わず声をあげる。

「鍵は彼のポケットの中にあった。鍵が合うのもちゃんと確認済みだ。勿論、すりかえるタイミングなんてなかったことは、浩と権田さんが証明してくれる。ちなみに言えば、荷物は荒らされていなかった」

上田の言葉に、祐一は何も答えることが出来なかった。

「とにかく、黙っていてもしょうがない。ここはもう一度、事件を検証してみよう」

上田が辛うじて言葉を出す。

「取りあえず、昨夜皆が寝てからの行動を確かめたい。それと全員の部屋の確認、それから……そうだ、忘れてた。五反田、ちょっと来て欲しいんだが」

「来てって……何処に?」

成海は僅かだが、上田に対して警戒心を示しているようだった。視線に棘が感じられる。

「大丈夫だよ、何も外に出ようってわけじゃない。ちょっと台所の包丁の数を確認したい。もしかしたら殺害に使われた凶器の可能性があるからな」

「そうなの……分かったわ」

成海は椅子から立ち上がると、早足で台所へ向かった。それから流し台の蓋の内側にある、包丁立てのある部分を覗きこんだ。

「無いわ、包丁が一本足りない」

「そうか……」 上田はぼそりと呟くと、テーブルに戻る。

「つまり会のお開きになった後、誰かが包丁を盗んで行ったってわけじゃな」

権田がそう補足する。

「じゃあ次は、真夜中の行動だけど……どうもこれは当てになりそうにないが、やってみる価値はあるかもな。まず俺だが……部屋に戻ってクロゼットで防壁を築いた後、少しベッドで横になっていていつの間にか寝てた。目が覚めたのは午前の五時過ぎで、窓を見たら雪は降ってなかった。

それから五時半頃に、食堂の方に降りた……コーヒーでも飲もうと思ってな。しばらくすると、浩が降りて来て、少し雑談をしてた。六時前に半田さんが来て、車の調子が気になるから付いて来てくれと頼まれて外に出た。それで雪を三人で協力してあらかた落とした後に中に入ると、浩がドアが不自然に開いてるのを見つけたんだ。それからは、皆の聞いたとおりさ」

上田は一気にまくし立てると、高宮の方を目で見た。

「自分が起きたのは五時過ぎだった。カーテンを開けて窓を見たら、雪は降ってなかった。少し喉が乾いたので、五時半少し過ぎに着替えて食堂の方に降りてみた。そこでコーヒーを沸かしてる亮と逢って、自分もコーヒーを貰った。それからは亮と同じだ」

「で、半田さんの方は?」 上田が尋ねる。

「そうだね。私が起きたのは五時半少し過ぎだ。やはりカーテンの外を見たけど、雪は降っていなかった。それから寝起きでしばらくボーっとしていたんだが、ふと車は大丈夫かと気になってね。降りてみたら食堂から微かに声が聞こえる。それで手伝ってもらおうと思って声を掛けたんだ。私が少し先に出て、それから上田くんと高宮くんも後を追って来た。

それから雪をどかし、エンジンがかかるかどうか確かめた後、ロッジに戻った。それからは先程、話に出た通りだ。死体を見付けて高宮くんが他の人を呼びに行き、私と上田くんは現場を見ていた」

「というのが、俺たちが死体を発見した経緯なんだが……他の人はその時何を?」

その問いに最初に答えたのは御厨だった。

「僕は部屋に入ってクロゼットでドアを塞いで、しばらくベッドに横になっていつのまにか眠っていて……。気が付いたらドアをノックする音がして、起きてみたら殺人が起きたっていうので急いで現場の方へ駆け付けました」

「私も御厨くんと大体同じね。ただ最初は眠れなくて、川澄さんの部屋を訪ねたの。そしたら彼女、相沢くんの部屋に二人でいて……」

「ふたりいーーっ!!」

上田が思わず声を張り上げた。

「それってまさか……」

「いえ、違いますよ。ただこいつが恐いって言うんで、一緒にいてやっただけですよ。不純なことは何もしてません」

ジト目の上田に、祐一は慌てて反論した。

「それは多分本当ね。何かあったって雰囲気じゃなかったし、これから何か起ころうって雰囲気でもなかったわ。それは保証出来る」

成海はそういって、祐一に一瞥をくれた。どうやら彼女なりにフォローしてくれているらしい。

「それからちょっと話をして、そしたら眠くなって来たので部屋に戻って寝たわ。後は御厨くんと同じで、高宮さんに叩き起こされるまではぐっすり寝てた」

「まあ、可もなく不可も無くか。で、とうの相沢くんはどうしてた?」

「俺は部屋に戻ってバリケードをはって、しばらくベッドに横になっていました。でも眠れなくて、そしたら舞が尋ねて来たんです」

祐一は舞の目を見る。彼女は小さく頷いた。

「で、話をしていたら五反田さんがやって来て、三人で話をしました。それから少し眠ったんですけど、ふと目が覚めちゃって。そしたらまた、ドアをノックする音がするんで開けてみたら、佐祐理さんがいました」

祐一の言葉に再び揶揄するような視線を浴びせる上田。しかし今度は何も言わなかった。

「佐祐理さんも恐くて眠れないって言うんで、結局舞と佐祐理さんの二人がベッドで、俺は床で寝ました。それからは高宮さんが起こしに来るまでずっと眠っていました」

「ふむ、それで今度は川澄さんに話を聞きたいんだが、深夜の行動は?」

「……私は、眠れなくて祐一の部屋に行った。それから少し話をして、それから寝た。六時前に目が覚めて、隣に佐祐理が寝ていたんで驚いた。佐祐理を起こして少し話をして、そしたらノックの音が聞こえた」

そこまで言って、舞はふうと息を付いた。生来無口な彼女は、それだけの言葉でも少し疲れるようだった。舞の言葉を補うようにして、佐祐理が快活な調子で話し始める。

「佐祐理は疲れていたので、解散する時に言われた通りにした後、ベッドに横になりました。でも四時頃に目が覚めてしまって、恐くなったので祐一さんの部屋に行きました。それから少し話をして、もう一度寝ました。六時前に舞が佐祐理を起こして、少し話をしたんです。そうしたら……」

佐祐理はそこで一度咳をした。それから話を続ける。

「ノックの音が聞こえて。私は部屋にいましたが、高宮さんが女性は食堂の方に集まっていてくれと言われたので、その通りにしました」

「成程、最後に権田さんは?」

「部屋に入ると鏡台でバリケードを貼ってベッドに横になった。それからは起こしに来るまでずっと眠っていたようじゃ」

権田の説明はあっさりとしたものだった。

「アリバイは当てにならず……か。となるともう一つのカードを切る必要があるな」

「もう一つのカードって、全員の部屋を調べて回るってこと? でも、なんでそんなことをする必要があるの?」

成海が少し膨れた様子で言う。そこで上田は、倉木光の殺害場所と発見場所が違うこと、そして死体を運ぶ理由に思い至った経緯を説明する。

「じゃあ床に血の染みのある部屋の持ち主が、犯人ってことなの?」

「ああ、だから……」

「あっ、ちょっと待ってくれ」

立ちあがろうとする上田を、焦り気味の半田が制する。

「その前に、みんなに話しておかなければいけないことがある。さっき警察に電話を掛けた時に刑事の人から聞いて、驚いたことなんだが」

そう言えば、皆が集まってから話すことがあると半田が話していたのを祐一は思い出した。

「それって事件を解決する糸口になるんですか?」

上田が身を乗り出して問う。

「分からない。なるかもしれないし、ならないかもしれない。だが、今度の事件と多大な関係があるであろうことは、私にも分かった」

「何ですか? それって」

「昨夜、私が話したことだ。白い悪夢と呼ばれた事件の、警察からの中間報告なんだが……その、微妙なところだったんだ」

「微妙なところ?」

「ああ、例の事件だが起きたのは十七年前の丁度夏の季節だ。実はこの県、今我々のいる県だが、そこでその前の年に一つの変死事件が起きたんだ。そこの大学の教授だった男が、確か桐谷という男性だったが、自分の体を滅多差しにして自殺するという猟奇事件が起きた。

それでその男性の死体を調べた所、大量の覚醒剤が検出された。それで家屋を調べた結果、大量の覚醒剤が押収され、そこから一年近い捜査によって、県内に出回っていた覚醒剤グループの根元らしき組織に辿り着いた。それが例の白い家惨殺事件が起きた家族の住人だったといわけだ。

彼は白谷賢治(しらたにけんじ)と言う名前の男で当時三十八歳、妻は文子(ふみこ)。彼女は当時三十六歳……で、二人の間には久生(ひさお)と圭一(けいいち)という二人の子供がいたらしい。当時の年齢で上が十歳、下が六歳」

そこまで言うと、半田は一度言葉を切った。

「それで事件が起きたのが、丁度上の子供が林間学校に行っていた時らしい。だから被害を免れたようだ。妻の方は出血多量でその場で息絶えてしまったが、下の息子の方は重傷だが一命は取りとめたらしい」

「えっ、じゃあ下の子供も生きている可能性があるってことですか?」

上田の質問に、しかし半田は首を振った。

「それが圭一と呼ばれる子の方は、医療ミスで死亡してしまったらしい」

「医療ミス?」

「ああ、そしてその時彼女の担当だった看護婦が藤原峰子……」

「峰子? 峰子ってまさか……」

上田の唖然とした表情を無視して、半田は更に続けた。

「ところで事件が起きて家宅捜索された時、家の中には覚醒剤はあったが、その売り上げ金らしきものはどこからも発見されなかった。それで疑われたのが、時折白谷家にやって来ていた平瀬秀一郎という男性」

「平瀬……秀一郎?」

「だが結局、彼の近辺からは売り上げ金らしきものは発見されず、白谷賢治との関係も掴めなかったため、彼は放免となりその地から逃げるように離れた」

半田の重々しい告白に、皆がどう受けとって良いのか分からないという顔をしていた。事件をアクロバティックに繋ぐ鍵が、ひょんなところから降って出て来たのだ。

それをどうするか、即座に思い付けるようなものではない筈だ。

「それで峰子っていう看護婦の方はどうなったんですか?」

「ふむ……彼女は過失致死罪で起訴されそうになったが、死亡した白谷圭一の親戚から起訴を取り下げて欲しいという懇願があって、彼女も反省しているということで執行猶予がついただけになった。起訴の取下げっていうのは厄介ごとに巻きこまれたくないっていう心理だろうが、ここで妙なことがあるんだ」

「妙なこと?」

「その上の子、久生って子が警察の方に何度か訴えたらしいんだ。あの看護婦は、わざと弟を殺した、僕はそれを彼女自身の口から聞いたんだって。けど警察では子供の戯言と思って真剣には受けとめず、彼は親戚に引き取り手もなく施設に送られた。そこからの足取りは不明だが、生きていれば二十七、或いは二十八歳……そう警察の人は言っていた」

半田はそこまで言うと、重く苦しい表情を浮かべた。全てを吐き出したにしては、晴れない表情だ。

「成程ね……だとすると、もしそれが動機だとすれば、犯人が平瀬夫妻を殺すのに充分な動機となる。もしこの中に、白谷久生なる人物が混ざっていればの話だが」

上田はやけに余裕のある様子で話していた。しかし……この食堂の中で二十七、八歳の人物といえば二人しかいない。祐一は最初にホテルのロビーで会った時、彼らと自己紹介した時のことを思い出していた。

思えばあれからまだ一日も経っていない。それにしては、随分と時間が過ぎたように祐一には思える。

「もしそうだとすれば、これで犯人ははっきりとしたってわけだ。俺か、浩のどちらかが犯人像にあてはまる人物ってことになる。だが浩には第一の事件の時も、第二の事件のアリバイがある。一応、俺にも第二の事件のアリバイはあることになるんだが……どうなんだろうな」

上田は皆に訴えかけるようにいった。まるで自分自身、自分のおかれている状況に戸惑っているかのように。それが本当か、良く出来た芝居なのか、祐一には判断が尽きかねた。

「とにかく、部屋を調べてみよう。それで犯人ははっきりする筈じゃ……多分な」

権田はまるでそうならないと言わんばかりの口調で言った。

「一部屋ずつ見て回るんだったら、皆で回った方が良いだろうな。他人に鍵を預けるのは不安だろうから」

そうではない……誰かが言えば良かったのかもしれないが、誰も言うものはいなかった。

バラバラに各々が立ち上がると、互いに見張るようにして部屋を出て行く。

祐一は舞と佐祐理の方を見る。

舞は祐一と佐祐理の側にくっついて離れようとしない。

一方の佐祐理はといえば、何やら輝きを込めた目をしていた。

 

「参ったな、誰の部屋にも血の跡なんてなんて無かったぞ……」

食堂に戻って来たメンバの中で、上田が開口一番に言った。

あれから一階、二階と人が使っている部屋はすべて調べた。更にわざわざ秀一郎の部屋まで行って鍵を手に入れ空部屋まで確かめたが、殺人が行われたであろう場所を発見することは出来なかった。

「おかしいな、俺の考え、間違ってましたか?」

「いや、間違っとらんはずじゃが……」

権田も盛んに首を傾げる。その様子を見ながらも、祐一は一つ気になっていたことがあった。何故佐祐理は、あの人の部屋のベッドの下の方を調べていたのだろうか……。

祐一も見てみたが、ベッドに隠れた部分の空間にも血の跡なんてなかった。第一、そこは皆が三番目くらいにチェックする場所だった。なのにあの人の部屋だけ、佐祐理は率先して調べに加わっていた。

彼女は何を調べていたのだろうか……。

「それにしても、どういうことじゃろうか。わしの運転する車に乗っている人だけが、妙なトリックと一緒に殺されていく……」

権田がぽつりと呟いた。

「そう言えば権田さん、朝ここに来る時、車の中が妙にピリピリしてたっていいましたよね。あの時、何か変なことはなかったですか?」

妙案とばかりに、御厨がそんなことを言う。

「変わったこと……そんなものはなかった気がするが。妙に車の中の雰囲気がピリピリしとるというだけで……あとは切れた薬をコンビニに買いに行かされたくらいかの」

「薬って、あの夫人の鞄に沢山入ってたやつですか?」

「ああ、社長に紙切れを渡されて、書いてあるものを買って来て欲しいと頼まれてな。整腸剤とうがい薬だったかな、買ったのはその二つじゃったよ」

「ふーん……」 御厨が興味無さそうに言う。

「でも、それってミッシング・リンクかもしれないな。権田さんの車に運転している部屋の人物が次々と殺される。いや、それは考え過ぎか……」

上田がそう言って、首を強く振る。どうやら、かなり苛立って来ているようだ。

祐一にしてもそうだ。幾つもきになっていることがあるのだが、それを掴もうとするとするりと通り過ぎてしまう。まるで鰻のようだ。

倉木光の部屋を見渡した時に、微かに感じた違和感。その違和感を、秀一郎の部屋を見た時も感じた。あれはそう……部屋にあるクロゼットと鏡台を見た時だ。何かが引っ掛かっている。

倉木光の部屋。あの部屋はどうだったかと、祐一は思い返す。

まずドアの鍵は開いていた。

そして窓は開きっぱなしになっていた。

証言によれば、あのドアは上田、高宮、半田の三人が入っていた時から開いていたらしい。

何のために?

彼女の鞄の荷物は何故か荒らされていた。

誰が、何のために?

彼女の部屋に死体を運びこんだのは何故か。

そして本当の殺害場所は?

彼女は何故……そこで引っ掛かっていた疑問の一つがするりと解けた。

何故、彼女はクロゼットや鏡台でドアを塞がなかったのか?

彼女の部屋にある鏡台やクロゼットは、全く動かされた様子がなかった。

そして秀一郎の部屋についても同様だ。

二人は他の誰よりも、犯人の影に怯えていた筈だ。

なのに、防御策を全く施していないのはおかしい。

そして秀一郎の部屋だ。

彼の部屋の窓も鍵が開いていた。しかし、窓自身は閉まっていた。

窓から逃げたとしたら、犯人はどうやって足跡を付けずに脱出したのか?

ドアから逃げたとしたら、犯人はどうやって鍵を秀一郎の服のポケットに入れられたのか?

そして最大の疑問。

誰が犯人なのか。

「祐一さん、舞。ちょっとトイレに行きたいから、ついてきてくれませんか」

突然、横から佐祐理が声をかける。

「あ、ああ、分かった」

祐一が言うと、舞、佐祐理と共に食堂を出ていく。

ロッジの入口を通り、電話機の辺りで佐祐理は足を止めた。

「どうしたんだ? 佐祐理さん」

祐一の言葉に、佐祐理は神妙な顔で話し始めた。

「祐一さんも舞も知っている通り、ここで三人もの人間が殺されました。もう、みんな限界だと思うんです」

佐祐理の言葉に、祐一は頷いた。

「だから、全てを明らかにしたいと思います」

「全てを明らか? まさか佐祐理さんにはここで起きたことの全てが分かったっていうのか?」

祐一は驚きと畏怖の念を込めて言った。

「だから、これから佐祐理の……」

そこまで言ったところで、佐祐理が今日で何度か目の咳をする。

「大丈夫か? 佐祐理さん」

「ええ、大丈夫です」

でも例え大丈夫でなくても、ここでそうでないというような人ではない……そう祐一は思う。

その時。

祐一の頭に天啓のようなものが閃いた。

祐一が峰子の部屋で見たもの。

そして他愛のない会話の一つが結び付いて、ある一つの結論というか推理のようなものが頭に浮かんだ。

「どうしたんですか? 祐一さん」

「漠然と見えて来たんだ、真相が。少なくとも、平瀬峰子を殺害したのが誰かは分かった」

そして祐一は自分の考えと共に、犯人の名前を佐祐理に告げた。

しかし佐祐理は即座に首を振る。

「駄目ですよ、祐一さん。その人にはあの犯行方法は不可能です。よく考えてみてください」

(考える? だって、あれが出来たのは一人しか……いや、違う)

祐一はようやく、自分がひどい思い違いをしていることに気付いた。

「まさか……じゃあ、犯人は複数?」

「そういうことに……なります。それと多分、平瀬峰子さんの事件で使われた密室トリックは上田さんの言ったものとは違うと思います」

「密室トリックが、違う? でも上田さんの言ってたトリックにはちゃんと証拠が……」

「それは多分、偽りの証拠だと思います。あの廊下は普段から、人が目に付く所です。糸や鍵を操っている所を人に見られる可能性が高い、危険なものですよ」

「そう言えば、確かに……」

ドアに傷がついているという証拠があったので、祐一は今までトリックの危険性について考えたりはしなかった。言われてみれば、佐祐理の言う通りだった。

「それに密室をわざわざ作った意味とも合致しません」

「じゃあ、佐祐理さんにはその方法がわかってるのか?」

「ええ、確信はないですけど……犯人の目的と鍵の位置を考えると他に思い当たる方法がありません」

佐祐理は確信がないと言いつつもきっぱりと述べた。

「じゃあ、続きを話しますね。事件が発覚して……」

そして佐祐理は、淀むことなく事件について話していった。

 

簡潔に述べられたその講義が終わった時、祐一は思わず溜息を付かずにいられなかった。事件の複雑性、そしてそれが簡単に分かってしまった佐祐理の頭脳に。

「どうですか? 間違っている所はありませんか」

佐祐理の言葉に、祐一と舞は首を振ることしか出来なかった。

十七年前の事件、白谷家で起きた白い悪夢、そして現在の殺人、ミッシング・リンク、密室殺人、完璧に見えるアリバイ、足跡無き殺人、全てが一本に繋がるのを祐一は感じた。

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