二月十六日 火曜日

第五場 香里の部屋

 何かが、とても大切な何かが変わろうとしている。それが良い変化なのか、それとも悪い変化なのかは分からないけど、そんな小理屈を吹き飛ばす情念が頭の中を渦巻いていた。俺と香里は手を繋ぎ、ゆっくりと香里の部屋に向かおうとしている。どちらかが促すことなく、そこが一番最良の場所だと判断したからだ。

 こうやって、ことがどんどんと現実に進もうという間にもまだ信じられないとの思いが強くある。近い内に、香里とはこういう仲になるのではという核心めいた思いはあった。だが、それが今日の日であることは予想だにしなかった。昨日、CDを借りるのを忘れていなければ、そして香里が誤解するようなことを言わなければ、こんな機会はもっと後に回されてしまっただろう。しかし、現実はかたかたと歯車のように進み、俺と香里は促されるようにして究極の一歩を踏み出そうとしている。

 階段を上りきったところで、俺はふと香里のことを見た。彼女の顔は厳しく引き締められ、よく見ないと分からない程に震えている。俺はこういうことを聞くのが野暮だと思いながら、やっぱり聞かずにはおれなかった。例え返ってくる答えが予想できても、だ。

「香里は……こういうのって初めてなのか?」

 その問いに、しかし怒る風でもなく正直にこくりと肯く。きっと、未知への恐怖で頭が半ば麻痺しているのだろう。これからの行為がどのような感覚を及ぼすのか、香里には分かっていないに違いない。女性にとって初めての行為は強烈な痛みを伴うと聞いている。もしかしたら、女性にとっての初体験なんて男性の性欲やエゴを受け止めるための苦痛に過ぎないのかもしれない。

けど、そうであっても俺は、香里にとって初体験が単なる処女開通の儀式であって欲しくはなかった。今まで、悲しいくらいに苦しい思いを抱き続けてきたのだ……できる限りのことはしたかった。この場合、少しでも多く感じて欲しい……ということだろうか。考えるとかなり恥ずかしいが、お互いがのぼりつめられないセックスになんて意味はないと思う。俺自身、女性を抱くということは初めてであり、女性の仕組みやセックスのやり方なんて性教育やアダルトビデオ、ヌード写真集で辛うじて知っている程度だ。はっきりいって、どんなことをして良いのかも分からない。

 頭の中で何度も想像はしてみたし、その想像や写真集の女性を使っての自慰行為だって二度や三度といった数では足りないくらいやってる。女性を一糸纏わぬ裸体にし、激しく唇を奪い、胸をもみしがきよがらせ、屹立したペニスを狙いを定めて女性の膣口に挿れる。その動きに見立てて何度も手でしごいているうちに、集中した血液と興奮が睾丸と尿道を盛んに刺激し始める。

曖昧にぼやける女性の顔と、リアルにすら感じる擬似挿入の快楽が頂点に達した時、尿を放出する時とほぼ同じイメージで精子が放出される。経験則から言って、摩擦の時間が長いほどに精子も大量に放出されるし、その勢いも強い。しかして同じなのは、得も言わぬ快感と心地良い虚脱感が全身を包み込むということだ。また、精子を虚空に向けてぶちまける時の快感もまた、その感覚を助長してくれる。

 昨日は――今思えば少し勿体無い気がする――香里を使ってという言い方はおかしいかもしれないが、その姿を使って自慰行為を行った。やってしまった後はかなり嫌悪感が沸いたが、やはり気持ち良かったのは憶えている。水瀬家に来てから一度もやってなかったから、そして想像の相手が香里だったからだろう……いつもより濃い精液が引き抜いたティッシュをじっとりと濡らした。後で、その処分場所には相当苦心したが……。

 では、実際のセックスも同じような感覚でやれば良いのかというとよく分からない。アダルトビデオでは、首筋や乳房を舌で刺激すると大きな喘ぎ声を出していたが、現実にそうなのかは分からない。また、舌で刺激する自体、嫌がられるかもしれない。どんなやり方が香里にとって良いやり方なのか、未だ決めかねていた。

 隣には、俺以上に性行為に対して怯える香里の姿がある。部屋に近付くにつれ、一段と強張る香里の表情に、俺は堪らず声をかけた。

「香里、恐いのか?」

 勿論、恐いだろう。だが、俺はそれを承知で香里に尋ねた。すると、香里は少し俯きながらそれでも正直に答えてくれる。

「ええ、正直言って恐いわ。その、最初は痛いって言うし、祐一のことをどう受け止めて良いかも分からないから。それに……」途端に香里は顔を赤らめ、もじもじし始める。「その、声なんかもあげちゃうかもしれないし。そうしたら祐一にはしたない女とか、えっちな女とか思われないかなって。嫌われないかなって。それが、一番恐いの。剥き出しの私は、もしかしたら醜いかもしれないから」

「大丈夫、そんなこと思わない」香里の悩みが余りに可愛くて、俺はすぐにでも押し倒したいのを我慢して香里を宥める。「それにその……セックスってそういうものだろ。俺もしたことないから分からないけど、気持ち良かったら素直に表現して良いと思う。俺も、香里を抱いて気持ち良いと思ったらきっとそうする。赤面するくらい、気持ち良いって耳元で囁いてやる。だから香里も、その……こんなことを言うと怒るかもしれないけどな、えっちになって欲しい。俺の行為に無茶苦茶感じて欲しい。全てを、俺に見せて欲しい」

 俺の言葉に香里は少し迷った後、こくりと肯いた。

「ん、分かった。恥ずかしいけど……祐一が望むなら」

 部屋の入り口の前で誓いのように俺と香里は唇を絡める。一瞬の後、それをすっと離すとドアを開き、中に入る。香里は用心のためか、逃げないという意志なのか鍵に錠をかけた。

 部屋の中央まで進むと、まず軽いキスを交わした。微電のような、互いの最も淡い部分を重ね合うくらいの、それはこれから始まる行為に比べれば漣に等しい軽さ。しかし、どんな強い波も漣の重ね合わせから生まれる。唾液で口腔内を過剰に湿らせると、何度も何度もキスを重ねた。唇は徐々にお互いを湿らせ、舌をゆっくりと絡めて離す。その勢いは段々と激しくなり、わざとらしくぴちゃぴちゃと音を立てた。粘着質の吐息と舌遣いは、過剰な唾液をところ構わず撒き散らす。顔に付着した唾液を時折猫のように舐め合いながら、正に二人だけの世界でしかできないような深いキスを続けた。

貪欲に深く入ろうと唇を激しく動かし、それに呼応するお互いの舌も離れようとはしなかった。お互いの舌を舐め合い、少しでも快感を引き出そうとする。正にそれはセックスに付随する濃密な前戯の始まりであり、それだけでも達してしまいそうな快感の迸るキスだった。甘く、深く、脳がじーんと痺れるような快感。

お互いが夢中になり、本来の行為を忘れてしまいそうになるのをようやく押し留めた時には、香里の瞳は淡い潤いを帯びていた。頬は上気し、濡れた唇がひどく眩惑的だった。祐一は香里の制服に手をかける。

「じゃあ……脱がすぞ」

 香里は何も抗うことをしない。その態度を確認してから、まず赤いリボンをするりと外していく。フローリングに落ちたそれはぱさりと音を立てた。そして、制服のボタンを一個一個外していく。衣服は靴下の一足に至るまで全て脱がせるつもりだった。勿論、俺も香里の前で全てを見せる。服を着たままというシチュエーションも多く見られるが、それはセックスをするだけの行為に思えてあまり好きになれない。香里とはお互いが全てを曝け出した身体をぶつけ合わせたかった。また、そう強く願っている。

 ボタンを全て外すと、香里は袖を通そうとして躊躇する。冬服はスカートと上着が一体で、制服を脱ぐと勿論、下着の部分も露出する。香里はそれを気にしたのだろう。そんな香里の耳元に、俺はそっと囁いた。

「大丈夫、俺も全部脱ぐから。だから香里も……」

 全部脱いでくれとは言えなかったが、趣旨は伝わった筈だ。俺は半ばでひっかかった袖を強引に脱がせて同じく床に落とす。制服の下には薄紫色のセーターと質素な白のショーツが見えた。自然、俺の視線は下に注がれるが、香里はセーターを伸ばしてそれを隠してしまった。

「やだ……じろじろみないで、よ……」

 精一杯虚勢を張ったつもりなのだろうが、それは全くの逆効果だった。嗜虐心をくすぐられ、俺はすぐにセーターを掴み、バンザイをさせてそれも脱がせる。何だかまるで親に世話を焼く幼稚園児だったが、しかしそこから生まれる感情は全く異質のものだ。その下に覗くのは、ショーツとお揃いみたいな白の下着。

「あ、その……地味、でしょ」

 香里が少し卑下したように言う。けど、そんなことは全然ない。香里らしくて、またそれを恥らう姿が鬼のように可愛くて、何かしないではいられなかった。俺は咄嗟に唇を絡めると強引に舌を捻じ込んだ。香里の舌を俺の舌でじっとりと嘗め尽くし、犯す。不意を疲れたのか、香里は唾液に息の循環を繰り返していた。粘的な音が再び部屋に充満する。

「あんっ、んっ、んっ……」

 今までのキスですら出したことのない喘ぎにも似た吐息が、キスだけでは追いつかない俺の本能を後押しした。俺は香里のシャツに手を伸ばし、今までより強引にそれを脱がし上半身を半ば露わにさせる。魅惑的にくびれた腰と誘うような腹とへその形。完全に露わとなった二の腕に首筋は、全て俺を狂わせ更なる痴態へと誘うためにできているかのような綺麗なバランスを保っていた。ブラジャーに隠された双丘が曝け出される時、それは更に高まるのだろう。当然の如くブラジャーにも手を伸ばした俺だが、しかし今度は香里が強引に差し留めた。

「祐一だけ脱がせて、ずるいわ……」そして香里は、俺の制服に手を伸ばす。「私も祐一の服、脱がしてあげる」

 そして、今度は香里が俺の唇を強引に奪った。さっきのお返しとばかりに俺の舌を舐め、歯茎すら丹念になぞっていく。俺の口内は既に、香里に犯し尽くされていた。それでも足りないのか、香里はこれでもかというくらいに俺の舌を舐めあげて刺激する。

「んんんっ……んむっ……」

 その舌遣いの木目細かさと荒さに、俺は耐え切れずに何度も息を漏らした。香里のキスは、俺とは比べ物にならないほど激しかった。執拗で濃厚で快感だった。

「はあっ……んっ……んぅ……んんっ……」

 最早、どちらの声か分からない吐息が部屋を満たす。キスの終わりには信じられないほどの長い唾液が糸となって、つうと床に垂れ落ちた。香里は俺を骨抜きにした後で、制服のボタンを外し始める。

「ねえ、さっきのキス、気持ち良かった?」全てのボタンを外したところで、香里が尋ねてくる。「私は凄く気持ち良かったわ」

「ああ、俺もそうだけど……」香里が制服を脱がし、レモン色のタートルネックに手をかけた。「でも、凄かった。さっきまで恥ずかしがってた香里じゃないくらい、無茶苦茶気持ち良かった」

「だって……」タートルネックの下のワイシャツのボタンを、やはり香里は丁寧な手付きで一つずつ外していく。「祐一が言ったんじゃない。えっちになってくれって、お互いで感じあおうって。だから私、恥ずかしいけど精一杯やったのよ」

ワイシャツも脱がされ、俺はとうとうシャツ一枚となる。香里は躊躇うことなくシャツも脱がし、俺の上半身は香里に対して剥き出しとなる。

「分かった、じゃあ俺も欲望の任せるままにやるからな。嫌と言っても聞かない、歯止めなんてかけないぞ。それでも良いのか」

「ええ、良いわ……」俺の言葉を肯定するかのように、香里はそっと近づいてきた。「昨日、言ったわよね。私は祐一が望むなら、何をされても良いって。どんなに汚く私を穢したって、殺されてしまったとしても私は貴方を恨んだりはしないわ」

 そして、香里は下腹部に手を回しその頬を俺の胸に押し付けてきた。規則的にかかる香里の息が、剥き出しの肌をなぞりそれだけでも震えるような快感が感じられた。

「祐一の心臓、今日も凄く早く動いてる……」

香里は言って恥ずかしかったのか、更に強く抱きしめてくる。香里の二の腕が肌に触れる面積が、不意に大きくなる。心臓が余計に震えた。

「祐一の体を見てるだけで、凄くどきどきする。男性の体って、やっぱりしっかりしてるのね……私のことなんて平気で受け止めてくれるような感じがする。こういうところまで祐一って格好良いんだから、もう私なんて叶わないわ」

「そんなことはない、香里の方が……」

俺の体なんて、香里が誉めてくれるほどに立派なものじゃない。確かに標準的な男っぽさは成長期の到来しているお蔭で嫌でも付いて来るが、包容力なんてものは全くない。俺は好き勝手に香里を抱いているだけなのだ。

「うなじとかおへそとか、くびれた腰や可愛いお尻や、すらりとしてそれでいてボリュームのある足とか……もう、全部俺のものにしたいくらい整ってて……香里……」

 その名を呼びながら、俺はそっと背中に手を回しブラジャーのホックに手をかけた。今度は香里も拒まなかった。少し手間取ったが、胸を支える白い下着は数秒後には俺の手の中に収まっていた。そしてこれまでの服と同じよう、フローリングに落ちていく。その柔らかく形の良い乳房は、直接下腹部を刺激していた。姿の見えない乳房ですら、こうも興奮を誘う。直接それを見てみたいという誘惑に、俺は当たり前ながら抗うことができなかった。

 抱きしめる香里の腕を解き、改めて香里の肢体を見る。完全に曝け出された白い肌の上半身の中央には、片手に収まって少し余るくらいの弾力ある胸が完全に露わになっていた。また軽く屹立したピンク色の乳首が俺の煽情心を燃やし立てていく。僅かに覆われた部分も早く脱がし、全てを見たいという欲求が余計に強くなった。

「香里は、胸も綺麗だな」

俺は初めて見る同年齢の女性の魅力的に膨らんだ胸へと強い視線を注ぐ。それを感じたのか、香里は素早く両胸を隠す。

「祐一、あっ……そんなに見られると恥ずかしいわ」

 その艶かしい声は、俺を次なる行為へと促すのに充分な艶を持っていた。無防備となった下半身へとひざまずくと、俺はタイツとショーツを同時に素早く脱がせていく。くるぶしのところまで脱がせたところで、ようやく香里が抗議するような視線を向けた。さっきまでは何をやっても良いと言ってたのに、理性がどうしてももたげるところが香里らしく、愛らしい。

「やっ……祐一、やめて……」

 香里は全てを脱がされた動転からか、ひどく慌てている。しかし、俺には香里の願いを聞き入れるつもりはなかった。

「駄目。俺は香里の全てが見たいんだ。だから……なっ」

 俺はふくらはぎを――上を見上げたら、香里はきっと動転して俺を蹴り倒してしまうだろうから――見つめながら言うと、ずらしたタイツとショーツを完全に脱がせようと踝を掴んで促した。香里はしばらく躊躇したが、やがておずおずと左足を上げる。そして右足と左足を交換させ、俺は香里から全てを取り去った。眼前にいるのは、正に一糸纏わぬ美坂香里という女性。震える程に美しく、全ては俺の手の収まるところにいる。香里は俺のねめつけるような視線に何処を隠そうか迷っていたが、やがて潤んだ瞳を俺の下半身に降ろす。そして、ズボンのチャックに手をかけた。

「もう……こうなったら、祐一も全部見せて貰うから」

 香里はジッパーを下ろし、制服のズボンをゆっくりとずらしていく。その防御網が取り払われたことで、今までの行為と香里の肢体を見たことで膨張しきったものがより露わになった。

「えっ、えっと、これが祐一……の?」初めて間近に感じられるであろうそれを指差しながら、香里はトランクスに伸ばした手を止める。「思ったより大きいのね……その、えっと……本当に、こんなのが私の中に入るの?」

「そりゃまあ、じゃないと子供を作れないだろ。それに、子供だって出てくるんだから俺のくらいその……入るんじゃないか」

「う、うん、そうよね……」香里は俺の説明に一応は納得したのか、止めた手を再び動かし、トランクスを脱がしていく。最後に厚手のソックスを片足ずつ脱がされると、俺も一糸纏わぬ姿を香里に曝した。男は女に比べて露出狂なのか、それとも恥じらいが少ないのか、香里に全身をじろじろ見回されてもあまり恥ずかしくは思わない。それどころか、全てを余すことなく見られていることに、興奮すらおぼえる。負けじと、俺も香里を見回した。顔、白く細いうなじと首筋、鎖骨から先程散々眺めた乳房へと流れ、魅力的にくびれた腰部へと視線を移す。そのすぐ先には、僅かな陰毛に覆われた局部が見える、しかし肝心の女性器は正面からは見ることができない。諦めて、俺は太くならないほどにボリュームのある脚を見る。いつも膝下までは見えているのだが、裸の状態で判じられ太腿から伸びる脚線美の全てにはまた別の艶かしさを感じた。

 俺と香里は、お互いが異性の体の違いと魅力とに心奪われ、ただ視線だけを向け続けた。香里は意識してかせずか、局部付近にちらちらと視線を寄せている。

「香里、俺のがそんなに気になるのか?」少し意地悪がしてみたくて、俺は少しからかってみせた。「やっぱり、香里ってえっちだな」

「そ、そんなんじゃ……うん、そうかもしれない」香里は否定しようとして、しかし曖昧に前言を覆した。「祐一を見てるとやっぱり、胸がどきどきして……興奮するもの。早く抱かれたいって、あ、違うわよ。その、抱きしめられたいって意味だから」

「分かってるよ……俺だって、香里を抱きたい」

俺は優しく言うと視姦を止め、脱ぎ散らされた服の中心で香里を包み込むように抱きしめた。柔らかく壊れやすそうなのに、それと裏腹に全てを抱きしめてくれる香里の裸体。デリケートで細やかな肌はまるで細胞の一つまで快楽器官であるように、触れた部分からアドレナリンや血液が流れていくかのようだった。その感覚が欲しくて、俺と香里はお互いの体を絡み合わせていく。

「んっ、祐一……あっ、あんっ……」

 体同士を少し擦り合わせただけで、香里は耐え切れず喘ぎ声をあげる。それがまた、行為の快楽を高めていく。

「はあっ……んっ、香里、んんっ……」

 香里は更なる快感を求めて、積極的に結びついてきた。急激な感度の変化に、俺もたまらず声をあげる。ただ抱きしめあっただけで、僅かに体を動かすだけでもう頭が真っ白になりそうだった。セックスというものに相性があるのなら、俺と香里は正しく最高の部類に入ることは間違いないように思える。アダルトビデオの女優でさえ、抱き合うという行為だけで喘ぎ声や咽び声をあげたりはしなかった。

「あ……ん、んっ……あんっ……祐一、あまり動かないで……や、んっ……ふぅ……」

 けど、香里はこんなにも感じてしまっている。或いはこれが初めての行為だからだろうか、それにしてもこれは……。

「うんっ……ん、んっ……くっ……」

 少々、気持ち良過ぎる。俺は、恥じらいさえ忘れて声を漏らしていた。

「香里……顔を、あげて……」

 そして息を荒げるその唇に、そっと唇を重ねる。その行為も、触れ合う全身が増幅器官となったように気持ち良い。ただキスだけで狂ってしまえるような……けど、際限ない快感を求めるために俺と香里はこれまでにないほどの積極性で舌を絡めていった。弛緩した筋肉はだらしなく唾液を溢れさせ、それはお互いの首筋から鎖骨を伝い、胸、そして下腹部まで到達していく。

「んっ、んむっ、んぅ……んくっ、んっ……」

 ぴちゃぴちゃと響き続ける部屋に、快楽へと溺れた吐息と唾液の嚥下音が重なる。くちゅくちゅと口腔内を貪るごとにお互いの唾液を混ぜ、そして積極的に交換していった。

「あっ……あんっ……祐一、私、変で、体が……壊れそう……狂って……はあっ、あっ……しまうわ……」

唇を離した香里が、祐一によがり縋っていく。その過程で激しく擦り合わされた二つの体が快感を生み、香里は喘ぎ声と訴えとをほぼ交互に出す。俺は香里の髪を何度も撫でた。

「大丈夫、それが気持ち良いってことだから恐れなくて良いから。俺だって、香里と同じくらい感じてるし……。それよりももっと声をあげて……俺ので感じて……」

俺は香里の体をもっと強く抱きしめ、故意に激しく摩擦する。

「うっ、くっ……あ、あ、んっ、香里……気持ち良いか……んんっ……」

「ええ……あん、ああんっ……気持ち……良いわ、んっ、んっ……まるで月に、ああっ、んんっ……あんっ……狂ってるみたい」

 月に狂う……それは、正に俺たちにぴったりな言葉だった。何かに狂わされてでもいなければ、こんなに気持ちよくなりなんてしないように思える。それとも、セックスには皆、本当はこんな気を失うような快感がついてくるのだろうか。

 俺は抱きしめる目線から見える耳朶に唇を伸ばした。昨日は想像だけで押し留めたが、今日は現実のものとすることに何の躊躇も覚えない。まず最初に、耳朶へと軽いキスをする。

「ひゃん、ゆ、祐一……あんっ」何か文句を言わせる前に、俺はキスした耳朶に今度は激しい舌の感触をあびせかけた。

「あ、あ、んんっ……ゆ、ういち、あんっ……耳がんん……はあっ……」

 刹那、漏れ出る溜息すらも執拗な舌遣いには艶かしい声へと変換されていく。思い描いていた以上に、俺は香里の耳を――耳朶もその裏表の表面に内耳と繋がる穴さえもだ――濡らしていった。余程、耳を刺激するのが気に入ったのか、香里は激しく身を捩じらせている。乳房を含むほぼ全身が俺を擦り、耐え切れない声をあげるのはこちらも同じだった。

 耳を舐め尽くすと、俺は次にその首筋へと舌を沿わせる。

「んっ……そこも、んっ、んっ……はあっ……気持ち良い……あっ、あっ、あんっ……」

更に、首筋だけでなく喉も同じように舌と唇とで舐め広げていく。

「んんっ……んっ、あぁん……んんっ……」

「大丈夫か、香里?」

俺はあまりの感じようが心配になり、思わず声をかける。「そんなに気持ち良いのか?」

「わ、分からない、けど……」香里は先程まで喘ぎ声をあげていたせいか、必死で息を整えている。「耳や首筋を舐められてると、頭が真っ白になっていって、体が抑え切れなくてつい声が出ちゃうから……やっぱり、私ってはしたないのかな?」

 香里は泣きそうな、もう殆ど泣いていたのかもしれないが、俺の顔を上気した頬と潤んだ瞳で見つめてきた。勿論、俺としては嬉しいに決まっている。愛する女性をここまで満足させられることに、恍惚にも似た感覚が満ち溢れてもいる。ただ、それが香里の苦痛になることなら避けたかった。辱めとなるのなら、できるだけ取り除いてやりたいとも思う。少なくとも、俺の理性はそのくらいまで働く力はまだ残っていた。

「俺は香里のこと嫌いじゃない。俺の舌で狂いそうなほどによがってくれる香里を見るだけで興奮して……ただあまり刺激が強すぎると香里が辛いかなと思っただけだ。良いんなら、もっと続ける」

「うん、じゃあ……して。私は祐一に、はしたないと……嫌だなとさえ思われなければ良いの。だから……続けて」

 香里の言葉に、俺は首肯する。そして、持続する興奮を更に高めるべく、首筋から顔の位置を下に降ろした。今、目の前には香里の整った形の乳房がある。俺は僅かに迷った後、その先端に軽くキスをした。

「あぁんっ……んんっ……」

途端に、電流でも流されたかのようにびくりと体を揺らす香里。明らかに他の場所とは反応が違った。乳房が女性の性感体の一つであるというのは間違いなさそうだなと考えながら、俺は本格的に乳首を咥え込み舌で刺激した。

「あああっ……そ、んっ、んっ、ああんっ、あんっ、はあっ……んんんっ……」

 声のあげようにも余裕がなく、激しく、また容赦がない。俺自身もまた、何故乳首を含み絡み舐め回し、或いは吸い上げる行為をその明確な理由は分からないけど、続けていたかった。

「はっ、んっ、んんっ……き……良い、あっあっ、ん……あんっ、ゆ、ういち、はあぁんっ……やぁん、ああんっ……」

 やがて、俺は乳首を口で弄るだけでは満足できず、空いた手でもう片方の乳房を激しく愛撫した。下から円を描くように揉みしだく……それが女性にとって一番、気持ち良いと聞いたことがある。

「あんっ、あっ、あっ……そ、そんなに……はあっ、はん、あんっ、んんっ、はっはあっ……あんっ……」

 その証左に、香里は今まで遠慮がちだった声を抑えることすらできずに喘ぎ体を震わせている。しかし、その全身は快楽に抗うかのように緊張し切ってしまっていた。気持ち良いのかもしれないが、また快楽の与え方を間違っているのではないかと思い、俺は口と指を同時に香里から離した。

「ゆ、祐一……?」唐突に行為が止んだためか、香里は戸惑いの色すらおぼえている。「どうして、やめるの?」

 息を激しく荒げ、しかしほっとするように筋肉を弛緩させる香里。その変化があったからこそ、祐一は更に香里を責めることに躊躇いをおぼえる。欲望の任せるままにやると宣言してはみたものの、それが正しいのか祐一には分からなかった。それが例え、間的に悪いのかもしれないことでも問い質さずにはいられない。

「香里、俺とするのがやっぱり恐いか?」

「う、ううん……そんなことないわ」香里はその言葉の意味を理解するとすぐ、首を横に振る。「今だって、とても良かったし……」

「けど、それでも恐いと思ってる」俺は、これも意地悪かなと思いつつも敢えて言い切った。「そうじゃないなら、力を抜いて……もっと俺のこと受け入れて欲しい。難しいかもしれないけど、そんなだと俺が香里のことを苛めてるみたいだから」

「苛めてるじゃない」香里が、まだ多分に戸惑いを残したまま、しかし僅かばかりの笑みを浮かべながら言い返す。「あんなに私のことを攻め立てて、あれで苛めてないなんて自覚がないならとんでもなく鈍いわね」

 その言い分に、俺はうっと喉を詰まらせてしまう。

「でも、そうね……」けど、香里はそんな俺を許すように言葉を続けた。「祐一がそれで嫌だって言うなら、そうする。それに私だって、祐一に全てを委ねたいって思ってるから。もっと抱いて欲しいって思ってるから。だから、私の全部を祐一に委ねるわ」

 ぞくり。全てを俺に委ねるという香里の言葉が、背筋に一本の剣を突き立てたかのような鋭い興奮をもたらす。もっと全てを委ねられるような環境にと自然に心が赴き、今まで立ったままで行っていた行為を香里のベッドへと移行する。俺が目配せすると、香里はしなやかな肉体を仰向けでベッドの上に曝した。その上に圧し掛かるように、しかし体重はかけないようにしてマウントポジションを取る。そしてそのまま、一時中断した愛撫の継続を行った。まず手始めに、今までとは反対側の乳首を少々荒々しく含み、ゆっくりと嘗め回した。

「んんっ……はあっ、っ……ぅん……んっ、あんっ……」

やり方は今までと同じだが、香里の受け止め方は明らかに変わっていた。強い刺激を与えた時に硬直さえ見せるが、より俺の与える快楽に身を委ねているように感じた。

 しばらく胸への刺激を続けた後、更なる領域を求めて舌先は下腹部を伝った。そして、可愛く窪んだへそをちろちろと蛇のように舐める。香里はこの場所もひどく感じるようだった。

「やっ……そこも、あ、んっ……んんっ……」

 そのへこみを舌で何度かつんつんと刺激してからそっと離す。

「香里って、どこを舐めても感じるんだな」

そんな姿を体感していると、つい言葉でも犯してみたくなる。悪い癖だなとは思っていても、止められない。

「そんなに舐められるのって気持ち良い?」

「うん、それもあるけど……」

香里はもじもじしながら、しかし辱めを与える俺への反逆のように言葉を返す。

「祐一に、舐められてるって考えるから余計に、その……興奮するみたい……」

「そ、そうか……」

こちらの方が照れ臭くなってしまうような香里の言葉。俺だから感じてくれる、そんな言葉が嬉しくてもっと感じて欲しいと願わずにはいられなくなっている。

「じゃあ……もっと、下の方も舐めてやるから」

「し、下の方って……やっ、それって……あんっ、んっ、んっ……」

 香里はその意味を悟ってか思わず抗議の声をあげたが、それよりも先に俺は舌先を香里に沿わしていた。但し、舌で刺激したのは香里が思った部位ではなく、柔らかな太腿だったが。

「ここもやっぱり感じるのか」太腿に顔を埋めながら、しかし俺の目は真に狙っている部位へと既に移されていた。「でも、どうやら香里の舐めて欲しかった場所じゃなかったみたいだな」

「違う違う、絶対に違うっ!」

香里は顔を真っ赤にして、必死にそのことを否定する。「そんなわけ、ないじゃない……」

「でもな……」俺は香里のことを気遣い半分、欲望半分で捻り出した知識を語ってみせた。「その、本番の前に濡らしておくと痛みが半減するって聞いたことがあるから、やろうかなあと思って」

「いやっ、それでも駄目よ。だって……」香里はごにょごにょと口ごもりながら、溜息交じりに話す。「だって、汚いじゃない。あんなところをその……舐めるのなんて、祐一も嫌でしょ」

 香里は汚いから駄目だと抗弁する。しかし、それは俺の前では全く理由になどなりはしなかった。

「香里のなら汚くなんて思わないよ。それに、もしそうだったとしても香里のものならいくらでも受け入れられる。香里が望むのだったら、お尻の穴だって舌で舐めて綺麗にしてやる」

 それもまた、偽りなき本心。どんなに汚い場所でも、香里のものなら許容できる。第一、香里のどんな部分も――綺麗な部分も醜い部分も――含めて好きだと言ったのだから、それができないなら香里の気を引きたいがために嘘を言っただけになる。俺はそれを訴えたかったのだが、香里はますます顔を赤らめていった。

「そんなところ、舐めてなんて言わないっ! だって、やっぱり……駄目、恥ずかしいの。そんなことされたら……どうなっちゃうか分からないし……」

 香里は何としてもそれを拒もうとしている。が、俺にはそれを諦めようという気も押し留めようとする気も満更なかった。

「そんなことないぞ」香里をやり込めようと、咄嗟に動く俺の口。「俺は、香里にどんなところを見られたって平気だ。どう弄ばれたって嫌じゃない。香里のこと、好きだからどんなに恥ずかしい目に合わされたって良いんだ。けど、嫌がるってことは俺が香里を愛するほどに香里は俺を愛してくれてないってことなんだよな」

「そ、そんなこと……」

ちょっと拗ねたように言うと、香里は逆に慌て出す。

「私は祐一のこと、凄く愛してるわ。もう、どうしようもないくらい……本当よ、本当なんだから。好きで、好きで堪らないのに……」

 その声はとても泣き入りそうで、攻め方が少しひどかったかなと自責の念が浮かぶ。けど、今は理性より本能が勝っていた。

「じゃあ、香里の大事なところ、見ても良いよな」

「う……」

俺の言葉に、香里は行為自身を受け入れるとき以上の迷いを見せた。自分さえ垣間見ることのできない部位を、しかも最も恥ずかしいものを同年代の男性に曝すのだ。おいそれと許諾できるようなものじゃない。けど、俺はそれを承知で言っているのだし、香里もまたようやく承知したようだった。

「じゃあ……うん、良いわ。恥ずかしいけど、祐一のことを愛してないって思われるのはもっと嫌だし、その……私のことを思ってしてくれるんだから、拒んだりしたらいけないわよね」

 その健気な言葉に、微かな良心の疼きを感じる。しかし、その疼きすらも別の悦びに掻き消されてしまった。俺は意識して唾をごくりと飲み込んだ後、女性の谷間へと顔を押し込んでいく。僅かな湿り気が頬を打ち、得も言われぬ芳香が鼻を満たす。そこには濃密な女性の匂いが溢れていた。

 そのほぼ中央、ほんのりとピンク色に染まる部位が目に止まる。これが男性のものと対になる女性の器官だということはすぐに分かった。手を、いや舌を伸ばせばすぐそこに届くという事実が弾けんばかりに脳を刺激する。

「ふうん、女性のものってこんな風になってるんだ……」これは単に好奇心から出た台詞で、決して香里を辱めようとして紡いだものではない。「へえ、ここに入るんだな」

「ちょ、ちょっと祐一っ!」香里が動転したのか、その柔らかい太腿で俺の顔を締め付けてくる。「そんなとこ、じろじろ眺めながらさらっと言わないでよ、もうっ」

「いてててっ、やめろって。気持ち良いけど痛いし窒息する……分かった、もうじろじろ眺めないからやめてくれ」

 こんなシーンだと言うのに、ムードもへったくれもない。が、じろじろ眺めるのを止めろということは、催促と同義だということに果たして香里は気付いているのだろうか?

 俺は柔らかい束縛が解き放たれるのを待つと「じゃあ、いくぞ」と声をかけ、その舌先をピンクの割れ目へと誘う。まず味を見るように、俺はその場所を舌でそっと舐めた。

「あんっ……んっ……」

 それだけのことで、香里は軽く体を跳ね上がらせ大きく震えた。その反応見たさに、とことんまで顔を押し込むと次にはディープキスをするように下の口を唇で舐め、なぞる。舌で割れ目を強引に開き、中の襞を容赦なく侵食した。

「あっ、あんっ……や、はぁ……んっ、んんっ……」

香里の可愛らしい喘ぎ声が響く。俺が舌で湿らせると同時に、香里の内側からもまた液体が分泌されていた。ちゅぷちゅぷと、襞や割れ目を刺激するたびにそれは徐々に香里の中を満たしていく。

「や、やだぁ……あんっ、はあっ、あっ、んっ……」

何が嫌なのか、俺には分かっていたけど俺は舌の動きを止める気など毛頭なかった。表面から徐々に奥へと舌を貫き、また唾液と混合された香里の液体を味わいたくて、こくりと定期的に喉を鳴らしそれを嚥下していく。

「や、だ……ゆ、あんっ……ういち……あっ、そ、んなの……あっあうっ……飲まない、で……あんっ!」

「なんで?」

俺はそっと唇を離すと、とろりと濡れた香里の性器を眺めながら問いかける。

「だって、俺が舐めるたびに湧いて来るんだから。ちょっとくらい飲んだって大丈夫だって」

「そ、そうじゃなくて……その、汚いし変な味がするんでしょ。そんなの、無理して飲まなくて良いから」

「そうだな、ちょっと酸っぱくて苦いかも」俺は一応、正直に感想は言っておいた。が、だからといって留める気などはない。「でも、香里の中から出て来るんだと思うと、いくらでも飲み干してやりたくなるから。だから、全然無理なんかしてない」

 言い終えると、香里に反論の隙を与える暇なく再び穴の入り口に口づけ激しく舌で中をまさぐり、そして分泌される液体をちゅうちゅうと音がするほど啜った。

「やっ、んんっ……そんな音、たてないで……あんっ、ゆ、ゆういち、あっ、あっ、あんっ……はあっ……」

 ごくりとそれを飲み干し、更に舌は奥を襲う。複雑に拡がる襞を舐め回していくうちに、屹立した突起物らしきものがその感覚と味覚でもって感じられた。

「あっ、そ、んっ……」

途端、香里が極めて顕著な反応を示す。もしかして、その場所が感じるのではと舌先で執拗に愛撫すると、香里は今までで一番声を荒げ、ベッドの上で無茶苦茶に体をよがらせ始めた。

「あっ、あんっ、んんっ……はあっ、あっ、あんっ……やっ、ああっ……だっ、あんっあんっ……ああんっ!」

 思ったとおり、そこは香里の急所だったみたいで……俺はくちゅくちゅと掻き回すたびに音を立てる器官を、舌で思いきり舐め、絡め、弄んだ。その度に、ますます嬌声は高く発せ続けられる。

「だ、だめ……んっ、頭が壊れ……あんっ、変に、あっ……」

その間にも、香里の中はどんどん熱くなり、愛液の分泌もどんどん活発になっていく。それは俺の口の隙間からも零れ、香里の太腿や窺い知ることはできないけどシーツも濡らしている筈だ。その変化に酔いしれ、一際激しく舌を押し入れた時だった。

「あっ、だ、だめぇ……っ……あぁぁ!」

 香里は掠れながらも激しい声をあげ、そしてぐったりと体を横たわらせてしまった。と同時に、香里の中から愛液がたっぷりと流れ出てくる。それに戸惑いながらも、香里から迸る液体をほぼ全て俺の中へと取り込んだ。ひっきりなしに喉を鳴らし、嚥下していった。

 恍惚の伴うその行為を終え、香里の様子を見ようと再び覆い被さるようにしてその表情を眺める。その視線は虚空を望み、細かく息を荒げ脱力感を露わにしていた。それを見て、ようやく俗にいう絶頂を向かえたとかイってしまったとかいう状態になっていることが分かった。そして、その状態に堕としたのが俺だということも。

 いくら覗き込んでも反応を示さないので、やはりあれはやり過ぎだったのかなという不安が生まれる。が、そんな不安を払拭したのは香里の激しい抱擁だった。突然のことにバランスを崩し、俺は香里の体をクッションにするようにして倒れこんでしまう。

「な、何てことするのよ……祐一」先程の行為を非難する口調。が、そんな言葉とは裏腹に、声には奇妙な艶があった。「狂っちゃうかと思ったじゃない」

「あ、う、ごめん……でも、狂いそうになるほど良かった?」

「うん……」香里は恥ずかしがると思いきや、否定さえもしない。「あんな感覚になったの、初めてだった。でも、あれが気持ち良いっていう感情なら……凄く良かった。祐一のこと、凄く感じられて……舌でなぞられて、少し恐かったけど今まで以上に一つになってる気がして……だから……」

 香里はそう言うと、唇を激しく重ね濃厚なキスを求めてきた。それに応えて俺は、舌を何度も何度も絡め合わせ、香里が自主的に唇を離すまで続けた。そして、俯きながら言葉を紡ぐ。

「私も祐一のこと、もっと感じさせてあげる……」

香里は俺の顔を覗き込み、そしてとんでもないことを言った。

「祐一が望むのなら、私も祐一がしてくれたのと同じことをしてあげても……良いわ」

 俺がしたのと同じこと……その意味を、すぐには飲み込めなかった。その間にも、香里はマウントポジションを入れ替え覆い被さるようにして俺に迫ってくる。その視線は顔から首筋、そして平たい胸へと延ばされる。香里は俺の胸を、その魅惑的な舌先でちらと舐めた。

「んっ……」悪寒にも似たような快感に、思わず呻き声をあげる。男であっても、胸は感じるらしい。香里が舌先で刺激するごとに、俺は呻き声と喘ぎ声とを同時にあげた。俺にしたのと同じこと……というのはこのことかなと考えながら、いつの間にかその顔が股間にまで到達していることにようやく気付く。まさかと思いながら見上げると、察したかのように香里が俺の勃起したものを口で含もうとする……。

「わっ、待て香里、それはやばいって!」俺が必死で止めると、香里はその直前で動きを止める。「その、女の子なんだから、こんなところを舐めるなんてその……嫌だろ? 汚いしさ」

「どうして?」しかし、香里は意に介することないようだった。「だって、祐一だってしてくれたじゃない。それに、祐一は私なんかより余程綺麗なんだから……平気よ。それとも、私になんてして欲しくないの? 嫌、なの?」

 俺は情けなく首を振った。だって、大好きな女性が俺のものを舌先で舐め、刺激してくれると言ってくれているのだ。どこに断る男性がいるだろうか? そして香里が無理してないと言うのなら尚更のことだった。

「いや、その……して欲しい」

欲望剥き出しの言葉に少し赤面するものの、求めているのだから仕方がない。

「香里に無茶苦茶に……舐めて、欲しい……」

「ん、じゃあ……するわね」

 香里はそう宣言すると、既に今までの行為で激しく怒張したものを見据え……舌先で尿道を突付いた。

「くっ、あ、あっ……」

その一撃に、俺は慌てて丹田に力を込めくすぶりを留める。そうしなければ、すぐにでも精液を放出してしまいそうだった。

「か、香里……もうちょっと一思いにやってくれないか? このままだとその、やばいんだ」

 今のように尿道を刺激され続けたら、数秒もしないうちに達してしまいそうだったからだ。それに折角、舐めてくれるのなら舌触りを一秒でも長く感じていたい。

「そう? じゃあ……」

香里は口を開くと、屹立したものを精一杯口に含め、その形に沿って舌全体を使って丁寧になぞり始めた。そして咥えたまま、舌足らずに声を出す。

「ひょお、ゆふいひ?」

「くっ……凄く、気持ち良い……」

香里の口腔内は驚くほど熱く、また全体を舌で舐められるごとに快感がペニスを中心に広がっていく。睾丸は盛んに精子の存在をアピールし、放ってしまえと全身が命令する。でも……。

「あくっ、もっと……香里……」

 その要望に応えてか、じゅぷじゅぷと香里の舌が容赦なく刺激を続ける。ざらりとしたその感触は香里の唾液で湿るに従い、微かな痛みから快楽へと転換していった。アイスキャンデーを舐めるように、激しく執拗に絡まっていく香里の舌が、脳を痺れさせていく。側面をゆっくりと、そして先端を、尿道に至るまで香里の唾液で犯されていない部分はもうなかった。ちゅぷという音と共に口を離し、一旦香里は刺激を中止してこちらを心配そうな目つきで望んできた。

「どう? 私、一度もやったことないから、こんなので良いのか分からないけど……」

粘度の高い液体を口内に満たしながら、不安そうな表情を浮かべる香里。

「祐一がしてくれたように、私のでちゃんと感じられる?」

「ああ、感じられるから……もう、これで充分だ。その……これ以上舐められるともう、香里の口の中に出してしまう」

 もうしばらく刺激を受け続けると、間違いなくそうなってしまいそうで恐かった。そうなれば……香里を汚してしまう。でも、香里は頑としてそれをはねつけた。

「駄目よ。だって、祐一だって口に含んで……飲んでくれたのに、私がそうしなくちゃ不公平じゃない。だからね、思う存分……」

香里は腰を両腕で固定し、絶対に逃げられなくしてしまう。

「祐一のも……私の口の中に出して、お願いだから」

 そして前より強く咥え込み、激しく攻め立ててくる。淫靡な音が耳を満たし、舌が剥き出しとなった部分をなぞり、陰部を中心とした興奮は留まるところを知らず高まっていった。

「か、かおり……あっ、くっ……」

出してはいけないと思うのだけど、それすらも香里が与える快感の中で徐々に形を変えていった。もっと、もっと舐めて欲しい。一秒でも長く、感じさせて欲しい。そして少しでも多くの精液を、香里の口の中にぶちまけたい……考えては自粛しての波の揺り返しの中で、段々と後者の方に思考が傾いていく。第一、逃げようにも腰を強く固定されていて逃げ出すことすらできない。なら、香里が求めるように少しでも恍惚を彼女の望む形で共有しようとするのも不思議なことではないと思う。

 時折、腺液の滲み出るような感覚があるが、香里は全く意識せずに舌での刺激を続けていく。もう、いくら舐められたか分からないくらい、香里は俺のものを舌で刺激していた。上から下、下から上へ……右から左、左から右へと……飽きることのないよう配慮しているのか、それとも無意識のうちなのか、全方向から刺激は絶え間なく与えられる。漏れた唾液はとろりと溢れ、ペニスを伝いどんどん流れていく。その量の多さがまた、時間の長さを表していた。

 快楽を全身で押し留め、一秒でも放つのを遅らせている理由は今では完全に一つだった。絶頂の更に絶頂で、香里に思いきり全てをぶつけてしまいたい。

「あっ、か、香里……ふうっ、ふうっ……あ、そこ……」

 俺が懇願する場所そのものを、香里は情熱をもってたっぷりと舐めあげてくれる。そんなことを何回も、何回も続けた。香里も慣れてきたのか、その舌遣いはますますエスカレートしていく。

「くっ、そ、そこも……あっ、気持ち、良い……」

 俺はもう、容赦などしていない。そしてそれは、香里も同じだった。最も感じるその場所を探り、積極的に舐めてくる香里と、それを伝え舐めさせようとする俺と。どちらが罪深いだろうか。しかしそれすらも、考えられなくなっていく。頭が空白に満たされていく……限界が近付いてきていた。

「そ、そろそろ、いくぞ」

 もう、これ以上出すのを留めていたら香里も言ったことだが狂ってしまいそうだった。それでももう少し我慢したのは、香里の舌が気持ち良かったから……しかし、それすらももう限界だった。執拗に尿道を舐め上げられた俺は、その時がすぐだと悟り思わず叫んだ。

「香里……出すぞっ!」

 その言葉と、精液の第一射とはほぼ同時だった。いつもと比べて遥かに多い量の精液が、一気に香里の口にぶちまけられたことが感覚で分かった。

「んんっ、んくっ、んぐっ、んぐっ……けほ、けほっ」

即座にそれを嚥下しようとした香里の喉が、苦しそうになる。その勢いで俺のものと香里の口が離れる。けど、一度射精を始めるとそれを留めることは不可能だ。

「あっ、きゃっ……んっ……はあっ……」

 勢いよく放たれた精液は香里の顔やウエイブのかかった髪を容赦なく汚していった。早く止まれと盛んに願うのだが、過剰に刺激を受けたそれはすぐには止まらない。それでも香里は、精液に塗れた顔をペニスに近づけもう一度咥え、残った精液を夢中で嚥下していった。それから尿道を舐め清めた後、そっと唇を離す。

「大丈夫か、香里……」あの綺麗な香里の顔が、自分の最も汚いもので汚れている……その事実に自分が情けなくてしょうがなかった。「俺、香里にこんな、ひどいことを……」

「良いのよ、それは。したいって言ったのは私なんだし……」香里は付着した精液を拭うことなく、はあと溜息をついた。「それよりごめんね、祐一。祐一は私のを全部受け入れてくれたのに、私にはそれができなくて。その……あんなに勢いが強くて濃いものだって想像してなかったから、咽ちゃって……」

 香里は白濁液をそっと顔から拭い、そして少しずつ口に含んでいく。その度に眉を潜め、それでも愛おしそうに飲み下していった。

「男の人のって、凄く苦いのね……」俺は舐めたことないから分からないけど、香里の苦しそうな表情を見ているとそれは容易に想像できた。

「これで一つ、賢くなったわ」

 その気丈な振る舞いは、明らかに俺を気遣ってのものだった。でも、平気な筈はなかった。女性だったら、少なからずショックは受けたと思う。それでも第一に心配するのは俺のことで、俺と同じことができなかったという悔しさを強く滲ませている。その様子を眺めているうちに、俺は自然と香里に顔を近づけていた。精液の臭いが漂い少し躊躇したが、敢然と舌を伸ばし香里に付着したそれを拭い取った。

 途端、舌を抉るような苦みが口内に広がり気分が悪くなる。香里はこんなものを飲み下そうとしてくれていたのかと思うと、尊敬に近い気持ちすら浮かぶ。

「香里、今、綺麗にしてやるから」俺の行為に戸惑い、きょとんとしている香里だったが、その言葉に物凄く柔らかい笑みを返した。「それと、香里の望みも叶えてやる」

 そう言い、唾液で精液を希釈する。そして、香里と激しく口を絡ませ精液を嚥下させていく。勿論、それだけじゃなく香里の舌も激しく舐め、唇を濃密に合わせあった。いつもより濃い糸がぷつりと切れると、香里は大きく一つ息を吐いた。

「祐一、ありがと。こんなにその……優しくしてくれて」

 俺からしてみれば、精液をぶちまけたのはこっちなのだが、香里にすれば先程の行為は優しく見えるらしい。それがまた心苦しくて、俺は香里になるべく負担をかけぬよう、付着した精液を丹念に飲み込み、希釈し、香里の喉に流し込んだ。キスを繰り返すごとに唾液の糸は粘く濃く二人を繋いでいく。口移しで愛する女性に自分の精液を飲ませていく……それは言葉に羅列するだけで淫靡、そして背徳的だった。が、最早俺と香里を阻む背徳なんて存在しない。

 そして最後の精液を口移しし、激しく長いキスを交わし終えた頃には、萎えかけていた精力とペニスはより激しさを増して誇り猛っていた。長く濃密な交わりの果てに、まだ本懐とも言える行為が残されている。それが更に心を奮い立たせた。

「香里、そろそろ良いか?」

 その言葉に、香里ははっきりと首肯するのみだった。俺は、マウントポジションを再び奪い上になると、まだ香里の唾液で濡れ勃起したものをゆっくりと香里の秘部に近づけていく。先程、俺が散々刺激した場所は目印のように愛液を滴らせていた。鼓動が一つ、どくりと高まる。

「じゃあ……挿れるぞ」

「うん……」

 香里に再度確認を取ると、俺はそっと香里の中に侵入した。

「んんっ、くっ……」

先端部だけを挿入した時点で、襞と熱い湿り気とが俺のものを締め付け、その快感に思わず侵入を止めてしまう。落ち着かなければ、耐えられそうになかった。

「か、香里はまだ、大丈夫か?」

「んっ……あっ、ふうっ……ん、まだ、大丈夫、みたい」

どうやらまだ、処女膜にすら到達していないらしい。

「祐一のが……んっ、はあっ……中に入ってる……」

 俺が香里の中を感じているように、また香里も外から打ち込まれた俺のものを感じているようだった。この感触を更に求めて、俺は奥へと侵入する。が、ある地点で急に挿入が困難となり、しかし締め付けは激しさを増していった。はっきりいって、一度出してなかったらこの時点で危なかったかもしれないくらいの快感。しかし、香里は逆に苦痛すら滲ませていた。

「香里……大丈夫か? 痛いのか?」

「ええ、少しだけ……でも大丈夫だから、このまま一気にやって欲しいわ」

香里は背中にかじりつきながら、そう懇願する。

「じわじわと痛いのが続くと嫌だから……」

 それは香里の本心だろう……だからこそ、俺は少し躊躇した後……一気に香里の奥底まで貫いた。

「あっ、くうっ……つっ……」

何かが香里の中で破れる感触が挿入部から感じられ、香里は苦悶の声をあげる。縋りついたその爪は、鋭い刃にも似て俺の背中に思いきり突き立てられた。爪を皮膚に穿たれるのはかなり痛かったが、香里に与えた痛み、そして奪ったものの数に比べればものではなかった。俺は今、香里の初めてを……一度しかないそれを奪ったのだから。その現実が、突き立てられた爪から否が応でも伝わってくる。本当なら、香里の中で思いきり動いてしまいたかったが、こんな苦しむ香里を見ながら一人でセックスに耽るなんて俺にはできない。最初の誓いとも反してしまうことだ。

「ゆ、ういち……しないの?」

 いつまでも動かない俺のことを不思議に思ったのか、香里が苦痛に耐えながらも尋ねてくる。

「馬鹿、香里がそんなに苦しんでるのにできるわけないだろ」

「別に私のことなら良いから……」

香里はこんな時でも、俺だけのことを考えている。

「祐一だけでも気持ち良くなって」

 けどだからこそ、今どんなに気持ち良くても、すぐに動かなければ狂ってしまうとしても動かすことはできなかった。香里は下腹部に力を込めているのか、俺のものを絡めとるかのようにぎゅうぎゅうと締め付けてくる。べちゃべちゃに濡れた状態であることも、快感をはっきりと助長している。

「駄目だ」俺は全身を駆け巡る快楽と戦いながらもきっぱりと言った。「贅沢かもしれないけど、俺は気持ち良くなるなら香里と一緒が良い。香里と一緒じゃなきゃ、意味がないんだ」

 そうでなければ、こうして二人で繋がっている意味がないではないか……。それとも、これは理想論だろうか? どいつもこいつも経験のないせいで、さっぱり分からない。

「……そう、よね」

香里も同じ考えだったのか、俺の言うことを素直に受け入れてくれた。

「今は、ちょっと痛みが酷いから……だから、あと二分だけ待って。それできっと、大丈夫だから」

 二分という時間にどういう根拠があるのか分からないけど、俺はそれに素直に従うことにした。意識を下腹部と脳へと分け、しかし両方で香里と一つになれたことに対する悦びを訴えていた。

「香里……その、俺たち、今一つになってるよな」

肉体でも、そして精神でも、激しい快楽と痛みによって俺と香里は正しく一つになっていることが実感できる。

「ええ、何だかとても変な感じだけど、そう思うわ。できることなら、ずっと離したくない……熱くて胸が焦がれて、いくらでもいくらでも祐一のことを愛せるような気がする。祐一が私の一部になったような気がする……」

「俺も……こうやってるだけで、香里が感じられて……気持ちよくて、もう、どこまでいっても香里しかいなくて……」

 香里……美坂香里。俺と今、一つになっている愛しい女性。もっと、そう、これでもまだ足りない。俺は、香里と一緒に辿り着けるところまで辿り着きたいんだ。

 もう、限界だった。

 きっかり二分経つと同時に、俺はゆっくりと注挿し香里の中を舐め尽くすように腰を動かした。

「はあっ、くっ、うぅん……あんっ……」

その行為に対し、香里は苦痛と快楽の入り混じった声をあげる。

「あっ、あっ、あぁん……んっ、はあっ、んっ、くっ」

「香里、どんな感じだ?」

それが苦痛か快楽か、腰を動かしながらも俺は矢継ぎ早に尋ねる。

「あっ、あっ、あっ……あんっ……い、痛いのも、んっ、くっ……あるけど、あんっ……それより、はあっ、ふあっ……気持ち良いから……はあっ……ゆ、ういちは?」

「俺は、凄く、気持ち良いぞ」

香里が痛みより快楽を感じていることに安心し、本音を思いきりぶちまける。

「はあっ、くっ……香里が、凄く締め付けるから……あっ、ふうっ……襞が絡みついてきて、無茶苦茶気持ち良い。香里が、くうっ……凄く、気持ち良い」

 もう、喋るのも勿体無くて俺は腰を動かしていった。最初は遠慮してゆっくりだったが、それも押し流すような快感の前でより激しい動きへと変わっていく。意識して香里の襞に、そして突起に容赦なく俺のものを擦りつけ、ぶつけていく。

「んっ、んんっ、あんっ……はあっ、あんっ……あっ、あっ、あっ……ああんっ、祐一、ゆういちっ……」

「はあっ、はあっ……あっ、んっ、んっ……香里、かおりっ……」

 お互いの名前と、激しい息遣いと、それすら掻き消してしまうほどの喘ぎ声が容赦なく部屋全体に響き渡る。結合部からはぐちゅぐちゅと淫靡な水音が、そして肌を打ち合わせるぱつんぱつんという音が漏れでていく。何度も何度も、香里の中に打ち込み、また香里も下から少しでも深く俺のものを迎え入れようと腰を激しく振っていた。もっと、もっとだ。今の、全てを打ち壊してしまいそうな快楽を、もっともっと二人で味わいたい。

「香里……はあっ、もっと、激しく……動くぞ」

「んっ、あっ、あんっ……ええ、もっと……ああんっ……」

 もう、腰を振り過ぎてじーんと痺れているにも関わらず、全然疲れは感じなかった。ただ快感だけが欲しい。一つに繋がっていると、そうである必然性を、少しでも俺の体に刻み付けておきたい。できることなら、このまま香里と絡み合い溶け合って一つに……なりたかった。この感覚が一時のものであるなんて考えたくない。

「祐一、ああんっ……もっと、一つに……あっ、ああんっ、はぁん、あんっ……」

香里もまた、もう理性なんて吹き飛ばして激しく交わることに何の躊躇いも持っていなかった。その事実がまた狂おしいまでに、俺の性欲を刺激する。

「あっ、あっ、あっ……んんっ、はあっ、あんっ……ゆういち、ゆういちっ、ああんっ……」

 香里が俺の名前を呼ぶたびに、俺じゃなければならないのだという自負が生まれていく。今、香里を満足させられるのはこうして一つに繋がっている俺だけなのだと。香里の膣を激しく叩き、思い切り感じさせ、よがらせ、愛を受けることができるのは俺だけなのだと。自負が更に激しい運動を喚起し、それはお互いの快感へと更に繋がっていく。それは、果て無き循環。その先にあるのは、全てを解き放つ爆発への一撃。そしてその瞬間はもう、間近にあった。

 香里の中は、相変わらずきつく俺のものを咥え込んで来る。複雑な襞の動きが俺を攻めるごとに、全身が痺れてしょうがない。先程射精したばかりだというのに、次の射精を本能は正に心待ちにしている。もう、少しも我慢できそうにはなかった。

「香里、そろそろ、出すけど良いか?」

まだ香里の感じ方が足りないのなら、もっと激しく動くつもりだったが、香里は首を横に振った。

「わ、私も……あっ、あっ、あんっ……はあっ、さっきと同じのが、んっ……来そう、なの……ああんっ、あんっ、あんっ……」

 その言葉を聞いて、俺は最後の激しさをもって香里の中を滅茶苦茶に貫いた。快感を更に引き寄せるために、そして少しでも多く香里の中にぶちまけるために。

「香里、行くぞ、行くからなっ!」

「ええ、来て、来てっ! ああぁぁぁぁぁっ……」

 最後に激しく、香里の中に打ち付けると共に、香里の中の締め付けが急速に強くなり吸いつけ始める。俺はそれに抗うことなく、思いきり射精した。びゅくっ、びゅくりと激しく震え、未だに打ち付けている腰は少しでも深く香里の中に、精液をぶちまけようと、叩き込もうとひっきりなしに動く。挿入運動が止まったのは、精液が出尽くしてしばらく経ってからのことだった。

 俺は繋がった部分をゆっくりと抜くと、最後の力で香里の隣に倒れこんだ。さっきまで快楽の源であった俺のそれは、薄いピンク色に染まっていた。精液と愛液と、そして破瓜の血と唾液とが香里との激しいセックスによってミキシングされた液体。それは夢でなく、現実に香里と一つになれたことを如実に示していた。

「はあっ、はあっ……」

隣では、香里が今までの行為の激しさを物語るように息を荒げていた。その表情は、驚くほどの雰囲気と美とを身に纏っている。今すぐにでも押し倒して、もう一度淫靡な行為に耽りたくなるような、可愛さ、そして美しさ。けど、今すぐには腰が動きそうになかった。正に、精根の全てを使い果たしていたから。

「祐一……」香里は、下腹部に手をやり、ゆっくりと擦っている。「とうとう……終わったわね」

「ああ、うん……」

「祐一の……凄く熱かった」

「ん、そっか……」

 祐一としては恥ずかしくて、そうとしか言いようがなかった。

「また……私としたいって思った?」

「勿論。体力が残ってるなら、今からだってしたいくらいだ。今、身体が動かないのが悔しくてしょうがない」

 これは、衒いもなく曝け出した俺の本心だ。

「そう……ありがと、こんなに私を愛してくれて……嬉しかった。本当に、嬉しかったの……」

「俺だって……香里が俺のこと、愛してくれて嬉しかったぞ」

 そして見つめ合う俺と香里。だが、その思いを表すのに今できることは、軽く唇を触れ合わせることだけだった。

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