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ずっと読もうと思っていつつも棚の奥底に眠ったままだったのですが、リトルバスターズの某シナリオに触発され、さらっと発掘して読んでみました。
同じ日常の謎系でも、加納朋子とは割と真逆の傾向があることで知られているのだけれど、確かに人間の陰を主として書いた二編『砂糖合戦』と『赤頭巾』の冴えが素晴らしかった。特に後者。
日常からこんこんと沸き立つ冥さとでも言うのでしょうか、手を伸ばせば届きそうなゆえの怖さが容赦なく書かれていて、あとがきにもあるよう、クリスティらしさの強い短編でした。
しかしそう描いているとはいえ、細やかな情景描写や人間心理の類推はとても女性らしく、当時は覆面作家としてデビューした同作者を女性と勘違いしていた方も随分いたらしいのですが、さもありなんといったところです。リアルウーマン(変な表現自重と言われそうですが自重しない)の作家でさえ、この作品で書かれているほどの女性を書けるものは少ないでしょう。
もっともそれだけではなく、人の良さや確かさみたいなものも併行して書かれているので、陰は強いけどそこまで後味は悪くない。円紫先生の落語のように、様々な側面があるけれど、それでも人間って奴は憎めないものなんだよと、語り聞かされているような印象を持ちました。
文章の味もすこぶるよろしく、ミステリとしての水準も高い。以前にスキップから続く三部作を読んだのですが、それともまた趣の違う内容で、面白かったです。