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本棚に死蔵しかけていたのを、ふと引力に惹かれて読んだのだけれど、これは結論から言うと傑作以外の何者でもありませんでした。
王がその妃に離婚を突きつけ裁判で争うという奇想もさることながら、それを成立させてたる中世欧州の写実的で活き活きとして猥雑とした描写は見事の一言に尽きますし、何よりも主題となる裁判の、そのカタルシスの凄まじいこと凄まじいこと。
一度は学問を捨て、在野の弁護士となっていた主人公フランソワが、憎むべき暴君の娘に溜飲を下げながら、しかし王権と打算に対して怒りと鬱屈を溜める序盤――そこから一転して王妃の弁護に回る中盤、その弁舌の痛快なことと言ったら! 杜撰な検事の証言を初手で引っ繰り返し、自らの盤上に並べ直す手管手筈には、一度通したら最後、興奮せずにはいられないことでしょう。
その間に展開されるドラマも、どれも短い語りの中に胸を打つものがありました。またそれがきちんとラスト付近の展開に絡んでくる辺りの語りの構成も実に上手いんですよね。
それも含め、死亡フラグを満載したまま闘いに身を浸していくあの人のあの場面とか、ラストのラストとかもう、胸を衝く展開が満載で、読み終えてその味と量に心から満足できました。
裁判とか、歴史とかがテーマになっていて、小難しそうに見えますが、中身は読む人を選ばぬ、痛快さと人情味に溢れた極上の娯楽小説でした。これはちょっと、他の作品も読まざるを得ないでしょう。
また味わい深い作家に一人、出会っちまったぜ……。