『モリー・テンプラーと蒼穹の飛行艦』[スティーヴン・ハント/エンターブレイン]

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帝国少年の絵に惹かれるものがあって、ついふらふらっと購入し、年始の気だるい病床を中心に読み終え。


少年と少女が手を取り合って苦難の冒険の旅へ、というわけではなかった。帯を見るとまるでそのような物語に見えるのですが、実際のところ二人が合流して行動するのは全工程のおよそ5%程度で、ついでに述べるとそこにはロマンスのロの字もありません。二人が物語の主役であることは間違いないんですけど、関連的には寧ろEVEシリーズの小次郎とまりなを想定するべきです――と最初に書いたのは、帯の詐欺ぶりで購入してしまい、期待はずれだったと投げてしまうかもしれない人に自制と自重を促すためです。ボーイミーツガールだけを求めているなら多分、この物語を読んでも失望するだけです。


といっても決してつまらないわけではなく、魔法と機械の入り混じるミドルスティールの世界観を主として、一昔前のRPGにも似た大掛かりな世界と舞台の冒険を楽しむことのできる、良いスチームパンクであり、そしてファンタジーでした。世界観の説明のためか序奏がかなり長いんですけど、そこを踏まえておけば中盤から後半にかけての手に汗握る冒険と戦いを楽しむことができるでしょう。SFC世代のFFと言えば、分かる人にはその雰囲気を分かって頂けるかもしれません。


ただ、処女作という点や続編に色気を出しているという点のためか、枝葉で脱線するところがままあり、やや気が散る構成であるのが難点と言えば難点。あと主人公に感情移入して読むタイプには辛いと思うのですが、表紙を飾るモリー・テンプラー嬢とオリヴァー・ハント少年に対し、魅力を見出し難いです。特に後者は中盤以降まで半ば空気といった有様。前者もイラストほどツンツンしてないし。


ただそれを補うように、サブの魅力はかなり高いものがあります。前半だとオリヴァーを旅に誘うはぐれウルフテイカーのステイプ、後半だと伯爵、そして忘れてはいけないのがモリーを補佐し護るスチームマン騎士(機械の体を持ち蒸気機関で動く種族)たち。そのギミックとキャラの面白さ辺りに焦点を当てると、背景説明の多い前半部も割と楽しく読めることでしょう。彼らはこの作品の隠れた最萌であるといっても過言ではありません。多種族入り混じる作品では往々として人間以外に魅力が集中しがちなのですが、本作も例外ではありませんでした。ラストの魔王に立ち向かう騎士たちの王のギミックも素敵でしたし。


とまあ、誉めたり貶したりですが、2200円出してでも買うべきかと言われれば、うーん……海外系のファンタジーにある程度親しんでいて、スチームパンク系の古式めいた近未来が好きだと言うのならば、多分期待は裏切られないでしょう。前述しましたが、ボーイミーツガールを期待すると必ずや裏切られること請け合いです。用法と用量を守って正しい分量で服用くださいというのが私見です。続刊も予定されているようですが、ライトノベル系感想リンクの様子を窺うに、無理っぽそうな按配です。私はこの世界観、割と気に入ったんですけどね。


あと極めて個人的ですが、誇大広告と嘘ばかりで塗り固められている帯を作成したキャッチコピーライタは、舌を抜かれて然るべきだと思いました。これを作った人間に対し私がどれだけ怒っているかと言えば、帯だけ取り外して壁に叩きつけたのち、捨てた。

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コメント

  1. 十七段雑記 より:

    [読書]スティーブン・ハント/富永和子訳 『モリー・テンプラーと蒼穹の飛行艦』 (エンターブレイン)

    モリー・テンプラーと蒼穹の飛行艦 作者: スティーブン・ハント 出版社/メーカー: エンターブレイン 発売日: 2007/11/19 メディア: 単行本(ソフトカバー) スチームパンクのようなファンタジーのような世界で突き進む冒険譚.機械と魔法,さまざまな種族が入り混じった世界

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