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作者については以前、約十年ぶりの新作が出たとかで話題となっていたのをちらりと覚えていただけなのですが、続編の『私が殺した少女』がミステリベストオブベストにランクインされていたので、興味を持って手に取りました。『薔薇の名前』を海外ベストに挙げるランキングならば、信頼度は非常に高いと判断しました(笑)
これが私の好みにどストライクでした。切れ良く流麗な短文調の文体に乗せて語られる、沢崎の一人称による物語の何と格好良いことか。派手な展開はさほどないのですけれど、瀟洒な会話と言葉より雄弁な心の声が織りなすユーモアは上質で、敵を作ることを何とも思わぬ素振りで美学を貫く辛辣な渋さが素敵です。文章の向こうに気むずかしい顔で紫煙をくゆらす中年の男性が透けて見えるかのような、これぞ正にハードボイルドと言わんばかりの沢崎の存在感と言ったら堪らないものがあります。
そしてミステリのランキングで上位にノミネートされる作品にも十二分に相応しく、堅実な調査とそこからあぶり出される解決の二重三重のどんでん返しからなる展開が実に見事で、最後まで息をつかせることを許さぬものでした。前半は偶然や直観が前面に出されているのでそんな感じはしないのですが、最後まで読み終えて俯瞰するとその伏線作りの巧妙さにも驚かされると思います。
文学的な趣とエンタテイメントを高いレベルで両立させた、非常に良質の作品でした。しかも次作はこれより更に出来が良いらしい……凄いなあ。もう手元にあるので早速読んでみます。
