仮面の男さん・鍵紛失事件(前編)

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タイトルはCV.高山みなみでお願いします。

あれはコミックマーケット3日目のことでした。委託先で売り子をしている最中、暇をぬって携帯チェックをしていると不意に、何か感触がおかしいと気付きました。もう一度ポケットを探ってみて、仮面の男さんは違和感の正体に気付いたのです。

(あれ? 鍵、どこ?)

慌ててポケットの奥、サブポケットに始まり、ズボンのポケットというポケットをまさぐってみたのですが、ありません。鞄の中も、椅子の下にも、スペース周りの床にも、どこにも見あたりません。

顔が真っ青になりかけましたが、しかしこんなもの、無くす場所なんて限られているはず。軽く考え、手始めに前夜、徹夜カラオケをした池袋のBOXに電話をかけました。ほぼ9割方、ここに落ちているとみて間違いないはず。

とぅるるるる、とぅるるるる……。

私「えっと、昨夜XXX号室を利用したものですが、鍵の落とし物はなかったでしょうか?」

店『えっと……鍵の落とし物は見あたらないようですね』

(あ、あるぇー?)

幸いにして店員が親切な方で再度室内を探してくださるとのことだったので、落胆を隠してお願いし、電話を切りました。

こ、こここ、これは困ったことになったなあと、心の中で狼狽しながらも、方策を考える。そもそも鍵をどこで無くしたのか、私は次にそのことを思い出そうとしてみました。

思い出せませんでした。前夜に自宅を出てから翌日の国際展示場まで、どの段階で鍵をもっていたのか、どの段階で鍵をもっていなかったのか。ミジンコ、もとい微塵も思い出せません。

嫌な汗が伝うのを何とか我慢しながら、まずは最終手段――錠前業者に依頼できるのかを確認。携帯電話で以前に使用した、信頼のできる合鍵屋に電話をしました。多分その店自体は解錠サービスを扱っていないでしょうが、店の性質上から同様の依頼を受けることは多いはず。それゆえ、どこに依頼を回せば良いかを弁えていると考えました。頼むサービスがサービスなだけに、フェイルセーフを一枚もかまさないというのは怖くてできませんでした。

目論見は当たり、合鍵屋経由で錠前業者を紹介してもらい電話。お盆休みなので対応は明日の午前中になるとのこと。予想の範疇ですし、明日も大事をとって休暇にしていたので大丈夫だったのですが、それでも予期せず家に戻ることができないというのは、心理的にかなりクるものがありました。料金が結構かかるのもコミケ直後の出費ということでなかなかに痛いものがある。

何とか見つけ出せないものかなあと、駄目元で拾得物を管理している窓口まで行くも、こちらも不発でした。このようにわたわたしていたり、急な雨脚ゆえの荷物整理にバタバタしているうち、コミックマーケットが終了となってしまいました。こんなに切羽詰まった感のある終了というのは初めてで、いまいち気持ちの切り替えがききません。

訪ねるべき場所を何箇所も訪ね忘れたと気付いたのは少し落ち着いてからです。しかし無念にも程があると思えるようになったのは翌日帰宅してからで、その時は自分のことでほぼ八割が占められていました。mixiにもヘルプを投げたり、閉会後の食事に誘ってくださった方に結構自己本意な発言を繰り返したりで、かなり鬱陶しかったのではないかと思います。本当に自己本位にならざるを得ない状況だったのです、すいません。

とまれ池袋まで戻り、雑談を交え夕食を済ませたところで、昨夜家を出てから訪れた場所をもう一度探し回ってみようと決意しました。

仮面の男さんが前日の夜、回ったのはゲームセンター、某ラーメン屋、カラオケBOXの三箇所です。それに加え、池袋駅構内に落とした可能性、乗車した各線のどこかに落とした可能性までを踏まえ、丹念に足跡を辿っていきましたが、それでも鍵は見つかりません。

鞄の中身、ポケットも再度丹念に探してみましたが、独特の金属の感触を見つけることはできませんでした。

今日は池袋周辺のネカフェにでも泊まろうかなと思ったとき、ある考えがロマサガのように光り輝きました。

そもそも鍵かけてきたっけ?

自宅を出た時点で施錠したかどうかの記憶が曖昧なのは、何もしてこなかったからではないか……だとしたらどじにもほどがありますが、自宅から閉め出しをくらうよりはずっとましです。一縷の望みをかけ、電車を乗り継いで自宅まで戻りました。

暗がりをとぼとぼと歩き、ようやく辿り着いた自宅。祈るようにドアノブに手をかけ、私は念じます。

(頼む、私がドジであってくれっ・・・・!)

ドジじゃありませんでした。

鍵は無情にも私を拒み、ゆえに私は自宅に帰ることができず、とぼとぼと夜道を引き返していきます。。

疲労困憊し、狼狽はいや増し、私は大きく溜息をついたのでした。

後編に続く

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