『愛と悔恨のカーニバル』[打海文三/徳間文庫]

Misskey Mastodon

覇者と覇者を読み、打海文三をもっと読みたくなったのでAmazonでまとめて注文しました。で、ランダムに手に取った中の一冊目が本書でした。

話は主人公である姫子と、その想い人である翼の視点で交互に語られるのですが、姫子パートがアーバンリサーチ面々の包容力で多少救いがあるのに対して、翼パートは陰惨なことこの上ない。

彼はある欲望を成すため、大切なものを天秤にかけながら、最後の窮極的な目的のためひた走っていくのですが、悪という自己定義できないものを求めていくから、その匙加減を見極めることができず、そのために暴力を抑制できない。しかも偶々巻き込まれた下劣な事件に、翼の求める悪を投影してしまったが故、そこから事件はただただ悲惨になっていく。義のために人を殺し、更なる悪のため無差別殺人にすら手を染める。

それでいて翼を追うものたち――彼を悪たらしめる可能性――は皆、彼を悪と捉えない。悩み惑う少年として、真剣に愛する対象としてひたすらに彼を捕らえようとする。その善性はしかし、己は悪として足らないという翼の破滅的思考を呼び、そしてラストへと雪崩れ込んでいく。

その、艶と静やかな壮絶さは特に素晴らしかった。

善と悪は並び立ち、時には同じものとして立ち、のみならず互いを激しく増幅し合い、取り返しのつかない結論に帰結するということがあくまで淡々とした筆致で、しかし苛烈に描かれています。日本では珍しい類のサスペンス、暴力の小説ではないかと思います。

追記:ラストの一行については、解説者に大いに同意。あんな言葉で締めくくることのできる作者のセンスに私もびりびり痺れてしまったのでした。

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