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『崖の館』を読んで、その繊細で叙情的な言葉遣いに魅せられ、ミステリを通して人の心の機微を徹底的に描き出そうという真摯さに溜息をつかされ、しかしその過剰さゆえ『館』三部作を読んでからしばし遠ざかっていたのですが、文庫落ちした本作を見て、速攻でレジに並んでいました。
ミステリという点では『館』シリーズよりも薄め――というかないに等しいので、そちら方面の期待は予め遮断しておくことをお勧めします。それよりも本著の魅力は、一人の少女が徹底的な絶望を根ざし、そこから救い出されたにも関わらず、繰り返される懊悩のほどが繊細な中にも苛烈に描き出されている点だと思います。
頑なで我の強い幼心が、様々な優しさと複雑さに触れることで徐々に華開いていくさま、その過程で体験する葛藤、そして恐るべき秘密と共に迫られる最後の決断と、その結末。その全てが身悶えするほど素晴らしかった。この作者のような女性像の掘り下げ方は、ちょっと他に類を見ませんね。私が知る中では桜庭一樹の女性像に一部、類似点が感じられる程度でしょうか。そういう意味じゃ桜庭一樹も十分過ぎるほど稀有な作家なのだろうなと、この本を読んで再認識したりもしたのでした。
一昔前の少女漫画的な筋立てと雰囲気を強く含んでいるので、駄目な人には本当に受け付けないでしょうが、そういうものを好んで摂取する類の人間にとっては、何ものにも代え難い一冊になると思います。『館』シリーズの叙述も良かったけれど、本作はデビュー作であるがゆえの荒さまで含めて何もかもが愛おしい。まさか2009年の冒頭にいきなりこんな作品に出会うとは思わなかったです。
孤児と札幌をテーマにした、姉妹編と言える作品も順次、創幻推理文庫で発刊されるようで、これは楽しみでなりません。