評決のときは、名前の通り法廷小説で、映画化もされたからご存じの方も多いと思われます。私も以前から評判だけは聞き及んでおり、最近になって法廷小説に興味を抱くようになったのを気に購入、読了した次第です。パタースン、トゥローと並ぶ法廷ものの御三家の一人らしいのですが、確かにそう冠されるだけのものがある大作でした。少女への強姦、被告に対する父親の復讐――そんな導入から始まり、終始不穏な緊張感が貫かれ、ラストまでおよそ息をつかせぬ内容で、1000ページ強という内容をだれることなく読み進めることができました。
私は以前にも何冊か法廷
小説を読んでいるのですが、それらが法廷闘争に焦点を合わされているのに比べ、本著はそれ以前の泥臭いやり取り、駆け引きに焦点が当てられていて、別の意
味で米国司法の修羅場を描いた作品となっています。本作の主人公は米国南部の人種差別が根強く残る土地で、草の根弁護士として生計を立てる男性で、底辺層の弁護を主として引き受けるため生活はかつかつ、企業顧問で安楽を貪る弁護士に侮蔑と嫉妬を抱きながら、出世を夢見るという米国一流のぎらついた野心家でして。
米国の弁護士全てがそうではないのでしょうが、少なくとも本著の主人公は、まるでラスベガスで一攫千金を目指すプレイヤーの如く、裁判の流れを切り回していきます。もちろん誠実で才能のある人物でもあるのですが、それでも事件のことを完全に乗るか、反るかの博打の舞台としてしかとらえていない――そんな描写がまま見られます。そしてまがりなりにもその博打とは殺人事件というわけで。
この軸をメインに人種、貧富といった諸問題が煩わしく絡んでおり、陪審員制度での裁きにくさというのがこれでもかと描かれています。本著は一流のサスペンスでありながらまた、裁くということがどういうことであるかを真摯に問うてくる作品でもあるのです。
そういう意味では、日本でも裁判員制度が導入される今だからこそ、逆にタイムリーな一冊であったと思います。もしあなたが裁判員制度に興味を持ち、その本家である米国はどうなのだろうと疑問に思ったとき、答えの一つになってくれる作品だと思います。実は本著、絶版してからかなり日も経っているのですが、この時勢だからこそ復刊されて然るべき作品だと私は思います。
ただし――おそらくこの作品を読んであなたが感じるのは、人を裁くことに対する迷い、葛藤、そのようなものなのでしょうが。