仮面の男さん・鍵紛失事件（後編）

そして仮面の男さんは考えることをやめた。

第一部・完

それは事実と違うのではないかと上からお達しが出たので、割と不真面目に書くことにする。

自宅駅前にはネカフェはもちろんのこと、ホテルすらありません。その手の施設がありそうな駅に移動――そこは丁度契約を結んだ不動産屋のある所だったので、なかなかに好都合です。

その前にもう一度鞄を確認。

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ふぅ……宿探すか。

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ぶらりと探したところ10時間1800円パックの店を発見。程よく時間が殺せるので、そこを訪ねることに決めました。あまり安過ぎる店は内装が汚い可能性があると事前に忠告を受けていたのですが、中に入ると少なくとも掃除は行き届いている様子なので決定。

夜のネカフェには以前から興味があったのですけれど、その日はさすがに散策する余裕はなく、コミックを読む気も失せていたので指定された席まで移動しました。

その席は鍵こそかからないものの、四方をしきりで囲まれた文化的最低限のプライバシーが確保されていました。ネカフェだからパソコンは当然のこと、PS2やテレビ（モニタは19インチの全併用）までが完備され、漏音防止のヘッドフォンも当然のように備え付け。PCを起動させてみると案の定、MMORPGのアイコンがデスクトップをほぼ占めておりました。廃人使用過ぎるだろJK……。

ソファは倒しきればベッドとなり、しかも睡眠時の貴重品盗難を防ぐための据え付け金庫まである。しかもフリードリンク、レトルトではあるがかなり安く販売されている食料品、無論漫画は読み放題。小用をたしにトイレに行くと隣にはシャワー室まで完備され、そしてトイレの洗面台には使い捨ての髭剃りと歯ブラシ。

えっと、これ広い湯船がないことを除いたらカプセルホテルよりずっとサービスが良いんですけど！　しかも料金的には半額かそれ以下ですよ。しかも使用後にはスタッフが掃除するから清潔も保証される。そして光熱費水道代もネカフェ持ちときた。過度の潔癖症でなく、最低限の所有で我慢できるならば、賃貸アパートを借りるよりコスト的にずっと安いのです。

これはネカフェ難民が生まれるのもむべなるかなと言ったところです。電話なんて固定にする必要実質なくなってますし、住所は……私書箱、だとちと拙いか。貸し住所なんてサービスがあるのかな？　これだけ揃えば割と居心地良く雨露を凌ぎ暮らせますよ。そりゃ恋人なんて作れないし、誰かを部屋に呼ぶことはできないし、所有せざる人になる必要がありますけど、ねえ。

などと暗い思考の迷路にはまっているうち眠くなってきたので、何もせずに寝ました。前日の徹夜カラオケからこちらで相当に披露がたまっていたのか、ほぼ9時間寝ずっぱりでした。

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翌日。まだ不動産屋が開くまで時間があったので、マックで本当に久々のモーニングセット。701の電源が残っていたので何か書こうと思ったのですが、動転しているのか言葉が脳内で踊ってくれません。結局無為に過ごし不動産屋へ。ここで駄目なら本当に打つ手なしです。

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そして仮面の男さんは打つ手なしになった！

どうやら鍵はこちらに手渡されたマスターのみで予備鍵は保管されていないようです。正しい手順ではあるんですけど、これでもう錠前業者に頼むより他に道がなくなりました。

さって、まだ指定された時間まで余裕があるなあと思っていると業者のほうから電話がありました。予定が少し早まって30分くらいで自宅につけるそう。こちらも所要時間は同程度なので今すぐお願いしますと伝え、電車に飛び乗り自宅へ。

既に業者の方は到着済みだったので、部屋を案内して仮面の男さんはスタンバイ状態です。そう言えばプロの業者は簡単な錠ならものの数分で開けてしまうという話を以前聞いたことがあったのですが、流石にそう上手くはいかないだろうとタカを括り茫洋としていました。

KA☆CHI☆RI

業「はい、開きましたよ」

私『あ、はい……開いて、ますね』

所要時間1分ちょいでした。予想を超えて早過ぎで噴きそうになりました。

鍵紛失したら交換したほうが良いと事前にアドバイスをもらっていたので交渉したら5分で付け替えてくれました。ジョバンニなんてレベルじゃない仕事を見せつけられ、仮面の男さんは鍵というものに対する考えを改めざるを得ませんでした。

弱い錠で防御できるのは一般人と素人だけ。強い錠でも、他の家やアパートの錠に比べてましだということを認識させ、標的になるのを避けさせる効果しかない。

のだということを。

無事に自宅に辿り着き、本来なら一安心ふうというところなんですけど、最後にとんだ教訓を突きつけられてしまった仮面の男さんなのでした。

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仮面の男さん・鍵紛失事件　完

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[教訓]

• 疲労が発生すると分かっている時などは、鍵は必ずチャックつきのポケットの中に入れておく。
• 無くした時用の予備鍵を、鞄などいつも持ち運ぶものの定位置に忍ばせておく
• ストラップなどの目立つ目印を鍵につけておく
• あ・わ・て・な・い

特に最後は大事。