『運命の日』[デニス・ルヘイン/早川書房]

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これまでのミステリ、ハードボイルド色が強い作品群と違い、本作は1910年代後半のボストンを、低賃金と低保証にあえぐ警察官の実情を縦軸に、米国の奥底に燻る人種差別を横軸に描いた歴史小説となっています。調べてみると、本作で書かれている警察ストは、ボストンで1919年に起こった警察のストライキが下敷きにされているのだとか。

警察官のストライキなどという前代未聞が何故起こったのか。そして警察という機構が完全な沈黙を保ったとき、街に何が起こったのか。エリート候補の警察官であるダニーと、犯罪者崩れの黒人男性ルーサーの視点によって、その全てが瑞々しくも生々しく紐解かれていきます。崖っぷちのギリギリに立ちながら、精一杯に人の強さや賢明さを信じる人たち、しかし既得権益やちっぽけな主義心情のためにそれらを踏みにじるものの力はあまりにも強く。

その積み重ねが臨界を越えたとき、最も怖ろしいものが、人間の尊厳を根底から否定しかねない闇が奔流の如く姿を表します。その迫力の凄まじさたるや、目をそらしたいほど醜悪で。しかしそむけることは許されず、いついかなる場所であっても逃れられぬ闇なのだと、容赦なく突きつけてきます。主人公の正義や法を容赦なく手折り、踏みにじる暗澹とした物語りです。

しかし、全ての絶望に晒されてすら――否、晒されたからこそ現れる暖かみも、本作には記されています。それはあらゆる障害にも挫けぬ愛であり、変わらぬ友誼であり、見果てぬ希望でもあり。暗い物語ではありますが、だからそこまで読後感は悪くありませんでした。少なくともミスティックリバーの寒々しいパレードのような沈み込むような感覚はないと思われます。ルヘイン作品を通してみても、優しいほうの終わり方だったのではないかと。

敬愛すべき作家の、5年ぶりの新作。シャッターアイランドを出したその次ということで、どんな作品か最初は少しだけ不安だったのですが、読み終えて、それは全くの杞憂であると分かりました。暗澹で糞ったれで、しかし片時も心を離すことのできぬ、ルヘインの本流が隅々まで現れた傑作です。

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