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この時代に、しかも28歳になって今更ムーミンなんて読んでるのか? と言われそうですが、童心や純粋さを失くした大人であっても満足できる、趣き深い一編でありました。
ふと冬眠から目覚めてしまったムーミンが、初めて体験する冬に戸惑い、しかし果敢に乗り出していき、春の訪れに到達するまでの一部始終が、作者独特の皮肉が利いたユーモアに沿って、実にテンポ良く面白く紡がれています。冬の闇に潜む生き物の風変わりさや、その独特の感性も実に面白く、またムーミンが彼らをシニカルに捉えるその様もおかしく、子供向きの読み物とは思えぬ含蓄の深さがあります。
子供が読んでももちろん楽しめますが、私くらい物語に擦れた人間が読むと、丁度サン・テグジュペリの『星の王子様』にも似た、奥の深さを味わうことができると思います。特におしゃまさんの会話の一つ一つが、なかなかに素敵であると思うのです。
あと、序盤の白夜に戸惑うムーミンの描写がなかなかに怖い。
作者のトーベ・ヤンソンはフィンランドの生まれであり、だから描かれる冬は白夜か、それに近い状況の中で紡がれるのですが、ふと冬眠から目覚めてしまったムーミンの寂愁が、じっとりと身に迫って来るのです。
同国の子供はムーミンの体験する冬の明けぬ夜が白夜であることを知っているのでまだ大丈夫だと思うのですが、そのことを知らない異国の――例えば日本の子供が読むと、昼のない訳の分からない世界により恐怖を感じるかもしれませんし、人によってはトラウマを受けることさえあるのかもしれません。以前、ムーミンをトラウマ児童文学として紹介しているコンテンツを観ましたが、さもありなんといったところ。大人の私でも薄ら寒いものを感じたくらいですからね。
あー、ムーミンかあ、アニメ好きだったよなあ……という人には必ずしもお勧めできる内容ではないのですけれど、ほんのり苦さがある児童文学が読みたいというのであれば、手に取ってみるのも一興かと思います。