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今回も素晴らしく面白いんだなあと思って読んだら、当然の如くそうでした。意外性も何もあったものではありません。上巻こそ一週間ほどかかりましたが、下巻は喫茶店やらにこもって一日で一気読みしました。
既に登場人物の去就を語るだけで読書の興を削いでしまいそうなので、感想は丸ごと隠すとして、その前に一つだけ。
本作ですが、発売当初から『訳者変更による呼称などの大がかりな変更』に対する反感が各所で言われており、第三部まで読まれた方は不安に思われている方も多いかもしれませんが、個人的には多少混乱するものの問題ないレベルの訳であったと思います。
早川書房の説明ページを見ると一朝一夕の判断で変えたわけでなし、必然性を鑑みての変更であるようです。訳自体は滑らかで読みやすくなっているし、現在では変換表もアップされていて一枚の紙に打ち出せば比較も簡単なので、あまり名称変更関係には目くじら立てずに読むのが良い気がします。
では以下、感想をば。
怒濤の展開を見せた第三部から一転、本作では五王のうち四王までもが志半ばで倒れ、要という要が失われた七王国の新局面が、ありとあらゆる策謀を交えてじりじりと綴られていきます。鉄諸島の一部勢力を除けば戦闘らしい戦闘すらなく、併行して第三部まではあまり語られて来なかった学問、宗教分野といった点にも筆が割かれ、これまでと比べれば地味な線の語りに終始しています。壁の向こう側、南北の勢力についての物語が次作へ持ち越されたというのもそのイメージを助長するかもしれません。
しかしこれだけ徹底しての地盤固めにも関わらず、一つ一つの視点が生々しくて抜群に面白い。
子を失い徐々に冷静さを失っていくサーセイの挙動にはいちいちはらはらさせられるし、綺麗になったジェイミーはそれゆえ疑われっぱなしで僻地に追いやられていく。ブライエニーは醜女の騎士ゆえにどこからも誰からも痛々しいほどに傷つけられ、探索される側のサンサはリトルフィンガーの策謀に染め上げられていく。アリアとサムウェルは別々の理由でこれまでの自分を全て捨て、別天地で暮らすことを余儀なくされる。
その合間を縫い胎動する鉄諸島とドーンの勢力、彼らの求める竜の貴婦人と、そして朧気ながら明らかになる竜の真の敵。ウェスタロスを覆っていく新しい信仰と古い信仰、その中に脈打ちを見せる魔術と企み。そしてそれぞれに待ち受ける強烈な結末。
それらが渾然と絡み合い、暗き冬に邁進するウェスタロスすらも魅力的に飾り上げています。そして否応なく次巻の展開を渇望させる内容。一つの完結した話として素晴らしいのみならず、繋ぎの役目として色々と興味深い作品でありました。
まだ米国ですら公開されていないようですが、次の『A Dance With Dragons』も楽しみ――というか生殺しも良いところ過ぎて困るぜ。