長編は実に七年ぶりとなる狩野俊介シリーズの新作です。
もう続きは出ないのかなと半ば諦めていたので、新刊が出たというだけで嬉しいのですけれど、中身もこれまでのシリーズの雰囲気をきちんと保っていて、懐かしさが一気に込み上げてきました。なんだかんだいって、長年愛読してきたシリーズは贔屓目入っちゃいますね。序盤の俊介と野上探偵、アキのやり取りを読んでいるだけで、にやにやが止まらなかったです。
肝心の内容ですが、奇術を主に据え、被害者が百舌のはやにえよろしく串刺しにされるという衝撃的なものでありながら、割と大人しめでした。ただ決してつまらないというわけではなく、野上探偵と俊介の、謎を膨らませながらも複雑な人間関係を紐解いていく捜査過程はそれだけで読みでがありますし、解決のややトリキィな構成と鮮やかさも好印象でした。自分がミステリものだからかもしれませんが、論理のぶれがないミステリって、それだけで読んでいて楽しいんですよね。
そして俊介は相変わらず、痛いものを背負っちゃう子だなあ。その痛みの分だけきちんと成長できる良い子だから、余計に読んでいて苦い気持ちになります。
『痛みのある方向に、出口がある!』
というのは電脳コイル最終回でのヤサコの科白ですけれど。
これまでも痛みを抱え続けて。おそらくこれからも事件に挑むたび新しい痛みを抱えてしまうであろうことは想像に難くなく。
支えてくれる人間が周りにいるとはいえ、俊介のような人間が探偵をするというのはそれだけで因業にも似て厳しいのだなあと。今回は特に終わりが終わりだけに、そう思わざるを得ませんでした。
作者は一体、この子を最終的にどのようなところに着地させるのか。続きが出るのはきっとまた数年先なのでしょうが、瀬川みゆきのような境地に至らないことを祈らずにはいられません。
以下、少しだけネタバレ。
明瞭には書かれていないので、これは半ば私の推測なのですが。
ラストの琳麗は俊介の好意を理解しつつ、そのことを利用して明らかに俊介を抉りに来てますよね。それを抜いても、大事な兄が捕らえられる原因を作ったとはいえ、半分ほどの年齢の彼にあの科白は流石に酷いと言わざるを得ませんでした。
作者容赦ないなあ……。