『チャイルド44』[トム・ロブ・スミス/新潮文庫]

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ミステリが読みたいで上位にランクされていたものを読もうということで、特に目に見える範囲で賞賛の大きかったトム・ロブ・スミス『チャイルド44』を読み終え。猟奇殺人事件を軸に、その枠を超える多様な内容とドラマを埋め込んだ傑作でした。

猟奇殺人ものということで、前半延々とスターリン政権下の内情が延々と綴られるさま――当時のソ連の理想国家(笑)ぶりや、その理想ゆえに追い詰められていく主人公の描写は実に重苦しい――に首を傾げながら読んでいたのだけれど、それが後半のサスペンス、ないし緊迫した展開に繋がっていることが分かってからは一気にラストまで読み干せました。

実際の歴史をモチーフにするという意味では、同ランキングの一位を獲得したデニス・ルヘイン『運命の日』も素晴らしい作品だったけれど、歴史を追うことで僅かに失速していた類もあるのに比べ、本著は同様のことを行いながら物語を彩り、猟奇殺人ものに生まれ得ない重みと格式を上乗せすることに成功してます。事件との統一感がやや薄いのが逆に数少ない欠点の一つではありますが、それも下巻の展開を見せられると何も言えなくなってしまうのでした。

あとは下巻の、タイトルである『チャイルド44』の意味が闇の底から浮かび上がってくるくだりは、優れたホラーにも似たゾワゾワ感があってこれも実に秀逸でした。The Bodyとか題名に平気で使うのが欧米の作家なんだけど、ちゃんと題名にも意味と印象を持たせ、きちんと活かしきってるというのは、欧米系の作家では珍しいんじゃないのかなとも言ってみる。

猟奇殺人ものにあるまじき重みと格調の高さすらあり、だからこの手の俗っぽさが苦手(そんな人はあまりいないとは思うけれど)な人でも十二分にお勧めできる内容。もちろん徹夜覚悟で本を読みたいぜという方には、うってつけの作品です。

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